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京都《大覚寺》
60年に一度の般若心経とは?
“華と心経”の門跡寺院|後編

2024.12.2
京都《大覚寺》<br>60年に一度の般若心経とは?<br><small> “華と心経”の門跡寺院|後編</small>

平安時代初期、嵯峨天皇が造営した離宮にはじまり、御所風の伽藍が建つ境内には雅な雰囲気が漂っている「大覚寺」。緑豊かな山並みが連なる大沢池の畔からの眺めは、花や月を愛でた天皇が目にした景色ときっと変わらない。
後編では、次回の開封が2078年の般若心経の魅力や東京国立博物館で開催される開創1150年記念 特別展についてご紹介。

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嵯峨天皇と檀林皇后の想いが込められた
60年に一度だけ正式開封される至宝とは

嵯峨天皇が般若心経を浄写してから1200年を迎えた2018年に向けて、勅封般若心経や螺鈿経箱の復元複製品がつくられた

勅封心経殿には、60年に一度の戊戌年にしか開封されない般若心経が納められている。次回の開封はなんと2078年。

「嵯峨天皇御代の818(弘仁9)年、飢饉や疫病といった大きな災厄が起こりました。それを鎮めるために、弘法大師の勧めで嵯峨天皇がお書きになった般若心経です」。

1字ごとに五体投地を3回行う一字三礼で、276文字を書いたと伝わり、藍で紺色に染められた綾絹に、金泥で浄写されている。

般若心経とともに復元複製された檀林皇后による薬師三尊像。金泥のほか銀泥も使われている。皇后は嵯峨院内に檀林寺を建立するなど、信仰も篤かった

見返しに描かれるのは、檀林皇后による薬師三尊像。歴代の天皇が病の折に文字を削って薬にしたと伝わり、薬師三尊像に至っては水をくぐらせ、その水を飲んだと推測されるほど、その描線は消えかけているという。

平安時代に大覚寺の前身となる嵯峨院を造営した嵯峨天皇。勅封心経殿には嵯峨天皇を含め6人の天皇による般若心経が奉安される。建物は法隆寺の夢殿を模して大正時代に再建

嵯峨天皇にあやかって、国難に際して般若心経を浄写する倣いは天皇家に受け継がれ、心経殿には後光厳天皇・後花園天皇・後奈良天皇・正親町天皇・光格天皇の写経も収められている。

興味深いのは、南北朝時代に大覚寺統と対立していた後光厳天皇の写経が含まれていること。「天皇も本当は平和を願っていたのではないでしょうか」と岡村執行。

嵯峨天皇の故事以来、大覚寺は写経道場としても知られ、五大堂では般若心経をはじめとする写経や写仏を行うことができる。

2025年春、大覚寺の寺宝が東京で見られます!

重要文化財 五大明王像(ごだいみょうおうぞう) 明円作 平安時代・安元3年(1177) 大覚寺蔵
不動明王を中心に、向かって右が降三世明王、金剛夜叉明王、左が軍荼利明王、大威徳明王。不動明王は左手に索、右手に剣。火炎を背負い、子どもを思い叱る親のように、怒りをもって人々を導く

2026年に開創1150年を迎える大覚寺。その記念行事のひとつとして、2025年1月から「東京国立博物館」で特別展が開催される。通常は春秋の名宝展など限られた期間のみ公開される、円派の仏師・明円による五大明王像も登場。

空海が五覚院に安置したという明王像はいまは伝わっていないが、この像も平安末期の貴重な作。丸みを帯びた肢体と柔和な表情は、平安時代を代表する仏師・定朝の様式を受け継ぐ。

重要文化財 紅白梅図(こうはくばいず) 狩野山楽筆 江戸時代・17世紀 大覚寺蔵
4室ある宸殿の部屋のうち、紅梅の間を飾る狩野山楽による襖絵。金地を背景に、咲き誇る2株の梅の生命力があふれ出る。オシドリや鴨などの鳥が描かれているのも特徴。裏面の『牡丹図』とともに、山楽の代表作

狩野山楽による襖絵の数々は通常非公開の本物が展示される。
この機会に特別展と大覚寺をともに訪ねて、1000年を超えるその長い歴史に思いを馳せてみたい。

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重要文化財 野兎図(のうさぎず) 渡辺始興筆 江戸時代・18世紀 大覚寺蔵
正寝殿の廊下にあたる狭屋(さや)の間の腰障子には、まだ幼い寛深門主を慰めるために描かれたかわいらしいウサギが全部で19羽。毛色も多彩なウサギたちが、いろんなポーズで草むらの中に登場する。渡辺始興は尾形光琳に師事した琳派の絵師


開創1150年記念 特別展

「旧嵯峨御所 大覚寺—百花繚乱 御所ゆかりの絵画—」
東京国立博物館 平成館
会期|2025年1月21日(火)〜3月16日(日)
住所|東京都台東区上野公園13-9
開館時間|9:30〜17:00
休館日|月曜(2月10・24日は開館)、2025年2月25日
料金|前売券/一般1900円、当日券/一般2100円 ※2024年12月2日から前売券販売開始

旧嵯峨御所 大本山 大覚寺
住所|京都市右京区嵯峨大沢町4
Tel|075-871-0071
拝観時間|9:00〜17:00(最終受付16:30)
定休日|なし ※寺内行事により内拝不可日あり
拝観料|お堂エリア500円、大沢池エリア300円

text: Rio Fujimoto photo: Mariko Taya
Discover Japan 2024年11月号「京都」

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