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柏井壽のちょっと奥を愉しむ
京都人の美味しい日常
十月某日 ご近所散歩

2023.10.31
<small>柏井壽のちょっと奥を愉しむ<br></small>京都人の美味しい日常<br>十月某日 ご近所散歩

京都を知り尽くした作家・柏井壽さんが、秋から冬へと移り変わる街の日常や表情を織り交ぜながら、京都めぐりの楽しさを伝えるエッセイ。今回は、柏井さんの自宅の目と鼻の先、加茂川沿いを気ままに歩きます。

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十月某日
ご近所散歩

暑くなく寒くなく、こんな日は歩くに限る。朝7時。風の吹くまま気の向くまま、ノープランで歩きはじめる。
 
自然と足が向くのは賀茂川。家を出てから5分も歩けば上賀茂橋に出る。右岸、すなわち西岸の河原を歩くと、比叡山から大文字山へと東山の峰々が連なり、その上にお日さまが昇る。
 
しばらく雨が降っていないせいか、流れが透き通っていて、日の光が水面できらきら輝く。秋雲がいかにも涼しげだ。賀茂川散歩に最適の季節はやっぱり早秋だなぁ。
 
北大路橋から河原を上り、北大路通を西へ。目指すは「伊藤珈琲」。地元密着型の普通の喫茶店である。
 
今日はホットドッグMセット。新聞を広げ、香り高いコーヒーをゆっくりと愉しむ。
 
そろそろ時間だ。9時の開園を待って「京都府立植物園」へ。「伊藤珈琲」からは歩いて10分とかからない。
 
いまや遅しと開園を待っているのは、同年輩ばかりかと思いきや、存外若い人も並んでいる。小さな子どもを連れたお母さんもちらほら。
 
桜や紅葉の隠れ名所だけでなく、四季折々に花が咲き乱れ、何より広々とした園内は変化に富んでいて、京都の穴場としておすすめしている。
 
園内に「半木神社」という小さな社があったり、細い流れに沿って水車があったり、日本の原風景を見せてくれるかと思えば、近未来的デザインの温室もあり、歩き飽きることがない。

秋の草花を満喫して賀茂川門から園外へ出て、北山通を西へと歩き、北山大橋を渡ったらランチタイム。「San Cardeto」は最近できたイタリアンだが、昼も夜も気軽に美味しい料理と手軽なワインが愉しめる、使い勝手のいい店だ。
 
この店にはカウンター席もあるが、奥のソファ席がお気に入り。イタリアンの店ながら、ランチタイムにはパスタやリゾットはもちろん、オムライスやハンバーグなどの洋食メニューもある。
 
Wi-Fiもあって、まるで我が家のリビングのように、寛いで食事できるのがいい。植物園散歩の後の、昼ワインとリゾットは至福のひとときだ。
 
帰り道にある小さな花店「川月生花店」で初秋らしい和の花を買い求める。
 
ムラサキシキブ、フジバカマ、ワレモコウ。あとは枝物。花器を思い浮かべながら、あれこれと花を選ぶのは、いま一番幸せを感じる時間だ。
 
心が軽やかなときには花を買いたくなり、行き詰まりを感じたときにも花を買う。つまりは年中季節の花を買っている。
 
歩いて家に戻って、好みの花器に花を生けていると、自然と鼻歌が出る。シエスタを愉しんだら、さて夜はどこで何を食べようか。
 
うちから賀茂川沿いに歩いて5分。長く通い続けている「ワンワン」は気軽な町中華。とりあえずビールと餃子、そして酢豚。紹興酒に切り替えて、春捲と海老の天ぷら。〆は炒飯かあんかけ焼きそばか。深く迷うと酔いが回る。

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伊藤珈琲
住所|京都市北区小山北上総町43-3 中道ビル1F
Tel|075-492-0033
 
京都府立植物園
住所|京都市左京区下鴨半木町
Tel|075-701-0141
 
San Cardeto
住所|京都市北区小山東元町21-13 1F
Tel|075-366-8339
 
川月生花店
住所|京都市北区小山西元町10 シャルマン植物園ハイツ1F東
Tel|075-493-1477
 
ワンワン
住所|京都市北区上賀茂朝露ケ原町30-19 玉屋ビル1F
Tel|075-721-3450

 

十一月某日 千本通をめぐる
 
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text: Hisashi Kashiwai  illustration: Yuki Muramatsu
Discover Japan 2023年11月号「京都 今年の秋は、ちょっと”奥”がおもしろい」

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