経年劣化を楽しむ木工食器5選
暮らしにそっと取り入れたい
癒しの木工品カタログ
同じ樹種であっても、生育した土地ごとに異なる息吹を感じるところが木のおもしろさ。捻れや反りといった癖さえ個性に変えて仕立てたプロダクトには、豊かな森の姿が詰まっている。
今回は、長く愛用して経年劣化も楽しみたい木工食器5選を紹介。
1|神奈川県・湯河原町「村上圭一」
木の個性を生かした触りたくなるうつわを
村上さん自身が暮らす湯河原町周辺で伐採された木材をはじめ、樹種や産地を限定せず幅広い国産材を使用。木目、色み、割れ、節、虫食いといった素材のもつ魅力を個性ととらえ引き出しつつも、道具としての機能を損なわないよう意識した作品で“用の美”を体現する。「木でできたものは、触れたくなる、なでたくなるといった触感に働きかけるところも魅力のひとつ。育った環境などにより、個々の表情が異なるところも木のおもしろさですね」
むらかみ・けいいち
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科にて木工を専攻。在学中に木という素材の楽しさを知ったことで、家具などの設計・デザインを学び、2009年より木工制作を開始。現在は個展の開催などを中心に活動している
メール|ks9771@ybb.ne.jp
http://ki-nari.com
桜拭き漆ボウル
シンプルな形状の浅鉢だからこそ、縁にはあまり手を入れず、ゆるく仕立てることで素材感を引き出した作品。「漆で仕上げることで、実用的な道具であることも意識しました」
価格|1万9800円
サイズ|φ180×H65㎜
材質|サクラ、漆
桜彫目皿
表情が魅力的に見えるよう割れや節はそのままに。割れが進みそうな箇所には、真鍮の鎹(かすがい)を。「他素材とも好相性なので気軽に生活に取り入れてほしいです」
価格|2万2000円
サイズ|φ300×H30㎜
材質|サクラ
2|富山県・富山市「Shimoo Design」
独自技法で木のもつ不朽の美を表現する
下尾夫妻の拠点は、富山市八尾町に構える住宅兼アトリエ。主に国産のタモ材とクリ材を用い“DNAレベルで日本文化や美意識が感じられるものづくり”を目指して、木製家具や小物を制作。流行や時代にとらわれない「日本の美」を追求している。「手触り、香り、木目、風化といった、古くから人に馴染み深い木という素材がもつ、あらゆる要素が木の魅力だと考えます。ものが多様化したいま、よりよいものを世の中に送り出していきたいです」
しもお・でざいん
下尾和彦・さおり夫妻によるユニット木工作家。日本の文化や美意識を現代のライフスタイルに落とし込むメイドイン・ジャパンを基本としており、「工芸都市高岡クラフトコンペティション」では2度のグランプリに輝く
メール|info@shimoo-design.com
www.shimoo-design.com
浮様リム皿240銀の鎹
水に比較的強いクリ材を使用。和の要素を強く感じる美しい木目を浮き立たせるため、伝統技法・浮造りと独自の着色技法を合わせた「浮様」という新工法が施されている
価格|1万8150円
サイズ|φ280×H30㎜
材質|クリ
3|岐阜県・高山市「osio craft」
木の温もりが同居するクラシカルな佇まい
腕利きの職人が集まる飛騨高山にて、ナラ材、サクラ材、カエデ材といった重厚感ある国産広葉樹を用いて制作。木目の出方や削り出しから生まれるかたちを意識した加工により、同じ樹種であっても、まったく異なる見映えとなる木材のおもしろさを引き出している。「木のもつ温もりはもちろんのこと、加工性の高さにとても魅力を感じています。ほどよく硬くも、手で自由に削れる。木にしか表現できないものは、まだたくさんありますね」
おしお・くらふと
木工作家の岩田翔馬さんが2018年よりスタートした木工ブランド。岩田さんは、大学で工業デザインを専攻し、卒業後にデザイン事務所、飛騨高山の職業訓練校、家具メーカーを経験。現在はコンポート皿や花器などを中心に制作する
メール|info@osiocraft.net
https://osiocraft.theshop.jp
ディスカバー・ジャパン公式オンラインショップでも販売中!
黒脚のコンポート皿
飛騨高山では活用の少ない小径木のブナ材を取り入れたいとの想いから制作。黒い筋が多いからこそ、あえて脚部は黒く着色。装飾とプレートの木目の美しさが引き立つ
価格|1万4300円
サイズ|φ210×H100㎜
材質|[プレート部]ナラ/サクラ/カエデ [脚部]ブナ
4|新潟県・長岡市「富井貴志」
使いやすいだけでなく、飾りたくなる作品を
東北産のクリ材やホオノキ材を使用した定番のリム皿や豆皿のほか、拠点とする新潟県長岡市近隣で伐られた多様な樹種で、一点ものの作品を手掛ける。自分が欲しいものや、使い込むことで素材やつくり手、使い手が一体化するものを制作。彫模様を施した「We Are Atoms」シリーズでは、宇宙や社会の中で互いの共通点を思い出してもらうことを意識してつくる。「作品を使ったり飾ることで、何らかの気づきを得てもらえるとうれしいです」
とみい・たかし
1976年、新潟県生まれ。林業が盛んなアメリカ・オレゴン州に留学していた際、木に興味をもつようになった。帰国後は、裏山にて拾った枝にてバターナイフなどの制作を開始。2019年には「第93回国展」で準会員優作賞を受賞している
メール|takashitomii@gmail.com
www.takashitomii.com
We Are Atoms–STACKING BOXES
ホオノキ材を白漆で仕上げた重箱。カジュアルな風合いに彫模様による上品さをまとった逸品は、ハレとケどちらにもふさわしい。「使い込んだときの美しさを体験してほしいです」
価格|17万6000円
サイズ|W205×D150×H168㎜
材質|ホオノキ
5|長野県・安曇野市「アトリエ灯」
捨てられる枝に命を吹き込む究極の一点もの
自伐型林業を行う企業や庭師協力の下、長野県や岐阜県の現場に、作家の貝山伊文紀さん自ら足を運び、木取りをするところから制作がスタート。木材を生産する過程で捨てられてしまう枝から生まれる道具は、木目のつながりを大切にしつつ、生え方や曲がり具合を生かした美しい造形が異彩を放つ。「木との出合いは一期一会。森ではさまざまな樹種の個性を観察していますが、枝を削ると木目の流れと動きにも個性があることに気づかされます」
あとりえひ
家具デザイナー・造形作家の貝山伊文紀さんが、木版画家の沙羅さんとともに2013年に設立。貝山さんは、東京藝術大学美術研究科デザイン専攻修了後、飛驒産業のデザイン室も経験。「GOOD DESIGN AWARD 2016」などの受賞歴をもつ
メール|kaiyama@atelier-hi.com
www.atelier-hi.com
枝の匙
細い枝からは小さな匙を、太い枝からは大きな匙をと枝の形状を生かしているため、ひとつとして同じものはない。「用途は使う方の自由。少し変わったプロダクトかもしれません」
価格|2530円〜1万6500円
サイズ|作品によって異なる
材質|サクラ/ナラ/ブナ/カエデなど
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text: Natsu Arai
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」