琉球王国の歴史が詰まったエンターテインメント
沖縄の「芸能」入門【沖縄民謡編】
琉球王朝時代より幾度と世替わりを経て、人々の暮らしとともにたくましく生き続けてきた沖縄の芸能。いまあらためて知りたいその魅力を入門編としてお届けする。
教えてくれたのは……
島唄解説人 小浜 司さん
1959年生まれ。1980年代から大城美佐子、嘉手苅林昌など数多くのアーティストのコンサート、CDをプロデュース。多くのメディアで執筆も手掛ける。主な著書に『島唄を歩く』(琉球新報社)
「神との語らい」からはじまった、民謡の歴史
沖縄の歌のはじまりは、祭祀や儀礼で神と語らう「神謡」だった。五穀豊穣や航海安全などを願い、神へ捧げられる祈りの言葉と旋律。それらを琉球王府が収集し、編纂したものが琉球最古の歌謡集『おもろさうし』といわれる。琉球王朝時代、宮廷芸能として育まれた音楽は、いまでは琉球古典音楽と呼ばれるが、これらを首里城の外へ持ち出し、遊び歌へと発展させたのが民謡だ。当時、首里には地方から若い男女の奉公人たちが集められており、彼らは歌三線を習得する機会に恵まれていた。王府亡き後、ある女性たちは、客人を接待するためにつくられた那覇の3つの遊郭、辻、仲島、渡地でその芸に磨きをかけ、元士族の男性たちは、ほかの土地に宿るという意味の「屋取」となり、首里から離れた村で農業を営みながら三線をつくり、暮らしに根づいた民の歌を生み出していった。 戦前は、夜な夜な海辺や野原に男女が集い、歌遊びをする「毛遊び」が流行に。即興で多くの遊び歌が生まれたという。沖縄初のレコーディングは1916年。当時の那覇の中心地、東町に大阪から移住した寄留商人が40曲を録音。そのうち「今帰仁宮古ノ子」、「恋の花」の2曲は、沖縄民謡最古の録音物とされる。1927年、琉球民謡の祖・普久原朝喜が出稼ぎ先の大阪で「マルフクレコード」を設立。以降、多いときで50ものレーベルが存在するほど、沖縄はレコード大国となっていく。1950年代後半から70年代前半は、第一期民謡黄金時代。戦後のコザ(現沖縄市)で民謡復興の礎を築いた唄者、山内昌徳、小浜守栄、喜納昌永、嘉手苅林昌、登川誠仁などの功績はいまも語り継がれ、名演は時代を超え聴く人の胸に生き続けている。
Q 聞くべき代表的な民謡歌手と曲が知りたい!
A 沖縄民謡にはレジェンドたちの名曲がたくさんあります
作者不詳・詠み人知らずの曲からオリジナル曲まで、沖縄民謡は無数にある。ひとつの曲をさまざまな唄者が歌うため、「あの唄者が歌うあの曲が素晴らしい」と楽しめるのも醍醐味。数ある名演の中から小浜さんによる選と解説。
山里ユキ(やまざと ゆき)
・遊び仲風
作詞・上原直彦、作曲・普久原恒勇という黄金コンビ、そして歌うは島唄の女王・山里ユキ。荘厳でどこまでも響き渡る歌声は、戦後民謡の最大の傑作と称されている
瀬良垣 苗子(せらがき なえこ)
・うんじゅが情どぅ頼まりる
知名定男の作詞・作曲で1968年に発表。おそらく沖縄音楽のシングルレコードで一番売れた曲。本土復帰前から1975年「海洋博」へと続く時代の流れでロングランヒットした情歌
普久原朝喜(ふくはら ちょうき)
・ナークニー〜はんた原
・移民小唄
戦前の沖縄音楽を確立した元祖的存在が沖縄民謡を代表する遊び歌を歌う「ナークニー〜はんた原」。沖縄移民の心を歌う「移民小唄」は普久原が最初に発表したオリジナル曲
嘉手苅 林昌(かでかる りんしょう)
・下千鳥
・時代の流れ
「下千鳥」は、嘉手苅が歌うと誰もこれ以上は歌えないと語った悲しみを歌う名バラード。おばさんたちの会話を歌詞にした「時代の流れ」は、戦後の沖縄の風俗を風刺を交えて歌う
大城 美佐子(おおしろ みさこ)
・白雲節
・天底節
嘉手苅林昌の追っかけからその歌を自分のものとして習得。女・嘉手苅面目躍如の「白雲節」。薄幸な女性の物語「天底節」は、大正区北恩加島生まれの大城が自身の生涯と重ねて歌う
沖縄の音楽 記憶と記録 コンプリート CD BOX
仕様|三方背BOX 5枚組CD
小浜司さんによる楽曲解説+歌詞 212P
「沖縄の音楽マガジン」40P付属
価格|1万9800円
品番| YRCN-95367〜71
発売元|よしもとミュージック
プロデューサー立川直樹さん、島唄研究家の小浜司さんの選曲と監修で民謡をはじめ、ロック、ジャズなど沖縄の音楽を92曲収録。本企画で紹介した唄者の民謡を聴くことができる
Q 実際に民謡が聴ける場所はありますか?
A 民謡酒場ならライブも話も楽しめます
一般的に民謡ライブが観られるようになったのは1950年代後半頃。喜納昌永、津波恒徳、登川誠仁の3人がユニットを組み、県内の公民館を巡業する「民謡ショー」がはじまりとされる。その後、唄者が自ら店を営む「民謡コーナー」、「民謡クラブ」などが続々誕生。現在は、那覇やコザをはじめ県内各地に民謡酒場が点在し、ライブが気軽に楽しめるようになっている。「この店をオープンしたのが1969年。当時コザにはいっぱい民謡クラブがあったよ」と語るのは、「なんた浜」オーナーの饒辺愛子さん。店名は、1966年発表のデビュー曲名。芸歴62年を誇る大御所唄者だ。「店は今年で54年目。“おとう”と慕った嘉手苅林昌さんは20年ここの専属歌手で、よく一緒に歌いましたね。方言を残すことは大事。だから私は皆さんにウチナーグチでお話をします。歌三線にお話、この店でウチナー(沖縄)にどっぷり浸ってください」
なんた浜
住所|沖縄県沖縄市上地1-15-12
Tel|098-932-5930
営業時間|21:00〜翌3:30
定休日|月・木曜
Q 民謡のみならず、沖縄音楽の最新事情が知りたい!
A 旬な情報が集まる地元スポットへどうぞ
沖縄音楽の最新情報を得るには、アーティストや音楽関係者のSNSをチェックする方法もあるが、やはり現地で生の声を聞くのが一番。沖縄は、チラシやポスターの文化が盛んなので、飲食店や雑貨店などをめぐったり、街を歩くだけでも情報収集ができるほど。確実に知りたい情報があれば、日頃からリアルな音楽情報を発信している地元スポットへ。近日開催されるイベントやおすすめの作品など、問い合わせてみては。
読了ライン
キャンパスレコード
住所|沖縄県沖縄市久保田1-7-22
Tel|098-932-3801
営業時間|10:00〜20:00
定休日|日曜
https://campus-r.shopinfo.jp
作詞家、プロデューサーの“ビセカツ”こと備瀬善勝さんが1970年に創業したレコード店。レアなものから最新作まで沖縄音楽が揃い、コンサート企画、レーベル運営も行う。通販も可能
沖縄市音楽資料館おんがく村
住所|沖縄県沖縄市中央1-7-3
Tel|098-923-3224
開館時間|12:00〜18:00
休館日|年末年始
www.ongakumura.okinawa
現在は入手不可能なレコード盤や歴代の音楽家の写真など、貴重な沖縄音楽にまつわる資料や音源を無料で視聴・閲覧できる資料館。いまもレコード再生できる懐かしのジュークボックスも設置している
那覇市ぶんかテンブス館
住所|沖縄県那覇市牧志3-2-10
Tel|098-868-7810
開館時間|9:00〜22:00、月曜(祝日を除く)〜18:00
休館日|第2・4月曜(祝祭日の場合は翌日休)、年末年始
https://tenbusukan.jp
那覇の国際通りにある文化・芸能の発信拠点。民謡や琉球舞踊、沖縄芝居、ジャズなど多彩なジャンルの公演を行う。毎週木曜には、週ごとにさまざまな沖縄芸能を堪能できる「木曜芸能公演」を開催
text: Norie Okabe photo: Hirota Aotsuka photo cooperation: National Theatre Okinawa
Discover Japan 2023年7月号「感性を刺激するホテル/ローカルが愛する沖縄」