TRADITION

琉球王国の歴史が詰まったエンターテインメント
沖縄の「芸能」入門【沖縄伝統芸能編】

2023.8.28
<small>琉球王国の歴史が詰まったエンターテインメント</small><br>沖縄の「芸能」入門【沖縄伝統芸能編】

琉球王朝時代より幾度と世替わりを経て、人々の暮らしとともにたくましく生き続けてきた沖縄の芸能。いまあらためて知りたいその魅力を入門編としてお届けする。

教えてくれたのは……
国立劇場おきなわ 芸術監督 金城真次さん

谷田嘉子・金城美枝子に師事し、4歳より琉球舞踊をはじめる。玉城流扇寿会師範。沖縄県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者。芸術監督、組踊、沖縄芝居の実演家、琉球舞踊家として活躍中

戦後の沖縄で琉球舞踊隆盛の礎を築いた舞踊家・真境名佳子が作舞した創作舞踊『祝扇の舞』。士族男女による群舞が華やかな祝儀舞踊

古きよき沖縄が体感できる
奥深き芸能の世界へ

沖縄は、芸能の島と呼ばれる。一年を通じ、さまざまな場所で祭りや舞台公演、発表会などが行われるほか、結婚や還暦など祝いの席では親族や友人が歌や踊りを披露するなど、生活の中に芸能が自然と息づいている。沖縄の芸能は実に多彩だ。琉球王朝時代から300年以上続く組踊をはじめ、琉球古典音楽、琉球舞踊などの宮廷芸能、人々の暮らしから生まれた沖縄芝居や民謡、各地域の行事で個性を発揮し合う獅子舞やエイサーなどの民俗芸能、これだけ幅広いジャンルの芸能が時代を超え、次世代へとつながれ、この小さな島にいまも脈々と生き続けている。今回は、そんな沖縄の豊かな芸能の世界から、組踊と沖縄芝居、民謡にフォーカス。沖縄芸能の伝道師ともいえる、各分野で活躍するお二人をナビゲーターに迎え、まずは知っておきたい基本を教えていただいた。知れば知るほど楽しくなる、体感するほどに魅了されていく、沖縄芸能の奥深い世界へどうぞ。

Q 沖縄の伝統芸能ってどんなジャンルがあるの?
A 中国や日本、東南アジアから影響を受けた宮廷芸能と民俗芸能があります

1719年にはじめて上演された組踊作品『二童敵討』。組踊の創始者・玉城朝薫が残した5つの代表作『朝薫の五番』のひとつ。阿麻和利に父・護佐丸を殺された兄弟が復讐を狙う敵討もので現在も人気の演目だ

琉球王国は、東シナ海に位置する地の利を生かして、中国や東南アジア諸国と盛んに交易を行ってきた。そんな中、14世紀末に中国より伝来したのが三線。士族の間で演奏されるようになり、17世紀初頭には正式に宮廷楽器として採用された。琉球王朝時代、国王の代替わり時には、中国皇帝の命を受けた使者「冊封使」が来琉し、即位式が執り行われた。約半年間滞在する一行をもてなすための宴の余興が必要と考えた王府は、芸能の才をもつ玉城朝薫を踊奉行に任命。朝薫は、琉球の説話や日本で見聞した能や狂言などをヒントに、歌舞劇「組踊」を創作、1719年尚敬王の冊封の宴で初上演を行った。1879年王府が滅びると、宮廷で演じていた士族たちは生活の糧を求め、庶民を前に商業として組踊を演じるように。しかし、優雅な宮廷芸能は庶民に長くは受け入れられず、困った演者たちは新しい芸能を考案。軽快な音楽にのせた雑踊や人々の暮らしを描く沖縄芝居が生み出された。「本当はひと言で説明できないくらい沖縄には無数の芸能がある」と金城さん。「300年前、50年前の古い沖縄を知っていただきたい。時代ごとの香りや景色がある芸能を通していろんな沖縄を体感してほしいですね」

『朝薫の五番』から『銘苅子』。沖縄の羽衣伝説を基につくられた、親子の深い情愛を描いた作品
創作舞踊『野原遊び』。組踊、芝居、舞踊と幅広く活躍し、戦前戦後の沖縄芸能を導いた初代・宮城能造が作舞

<知っておくべき主な芸能のジャンル>
琉球舞踊
組踊(くみおどり)
琉球古典音楽
民謡
沖縄芝居
民俗芸能

Q 初心者におすすめの沖縄伝統芸能は?
A 組踊と沖縄芝居がおすすめです

主人公・若松に恋をした宿の女が鬼に豹変する組踊『執心鐘入』

組踊は、唱え(せりふ)、音楽、踊り(所作)から構成される歌舞劇。『朝薫の五番』と名高い組踊の創始者・玉城朝薫作の『二童敵討』、『執心鐘入』、『銘苅子』、『女物狂』、『孝行の巻』は、まずは観ておきたい演目だ。初心者は、事前に組踊独自の約束事を知っておくのがおすすめ。笠を被り、杖を持っていると旅道中、互いに相手の肩に手を添えると抱き合っているなど、立方(役者)の所作の意味を理解しておくといっそう楽しめる。沖縄芝居は、歌、せりふ、演技、舞踊で構成される「歌劇」と、日常的な言葉で演じられる「方言せりふ劇」に分けられる。明治・大正時代に初演された『泊阿嘉』、『伊江島ハンドー小』、『奥山の牡丹』、『薬師堂』は、四大歌劇と称され、前述3作は悲歌劇の名作としていまも多くの人の涙を誘っている。

スリリングな敵討もの組踊『二童敵討』
初演から100年以上経つ人気演目。悲恋の沖縄芝居『泊阿嘉』

<組踊の見るべきポイント>
唱え(せりふ)
八・八・八・六調の琉歌で構成。琉球の古語を独特の旋律でゆっくり唱えていく
 
音楽
古典音楽を地方(演奏者)が奏でる。登場人物の喜怒哀楽などを表す重要な役割
 
踊り(所作)
歩みや立つ姿勢、手や指のしぐさなど、すべて琉球舞踊を基本にした優雅な所作

<沖縄芝居の見るべきポイント>
方言のせりふと演技
沖縄の方言「ウチナーグチ」を使った歌やせりふで感情豊かな演技が展開される
 
庶民の風俗と人情
かつての風習や沖縄の人たちの心が描かれる。現代に響く普遍的なメッセージも
 
軽快な「雑踊」
庶民の生活を題材にした賑やかな踊り。衣装や髪型、小物からも暮らしが伝わる

Q 沖縄伝統芸能が映画館で観られるって本当?
A シネマ組踊が注目されています

提供:ステージサポート沖縄
『孝行の巻』は村を荒らす大蛇を鎮めるため生贄に名乗り出る姉と弟、母をめぐる、互いを想う心に胸打たれる物語。全国各地で順次上映中。詳細は『シネマ組踊 孝行の巻』特設ページにて

1972年に国の重要無形文化財に指定、2010年にユネスコ無形文化遺産に登録された組踊。その魅力をより広くわかりやすく伝えようと、2014年から映像化作品がつくられ、2022年より『朝薫の五番』から『孝行の巻』が映画化された。冒頭で組踊の歴史や特徴を解説した後に本編へ突入する構成で、唱えの字幕も付いており、組踊に馴染みのない人でも楽しめる。本編には現在組踊の舞台に立つ実演家たちが出演。普段は観られない立方の繊細な表情や、地方の演奏風景などを映す美しい映像は、熱心な組踊ファンでも新鮮な驚きと感動が押し寄せる仕上がりだ。

Q 沖縄伝統芸能はどこで観られる?
A 通年公演のある国立劇場おきなわや地域の劇場、ホールなどで開催の確認を

「国立劇場おきなわ」では、一年を通して伝統芸能の公演が行われており、重要無形文化財保持者をはじめとする最高峰の実演家から、未来を担う若手・中堅まで、多様な実演家の技芸を堪能できる。音楽や地域芸能など多彩な公演を行う「宜野座村文化センターがらまんホール」では、不定期で「がらまん沖縄芝居公演」を開催。どちらも字幕付きの上演なので、沖縄の方言がわからない人でも楽しめる。そのほか、県内各地の市民会館やホールでは随時伝統芸能の公演が開催されているので、会場に設置されているチラシや実演団体などのSNSでチェックを。

読了ライン

国立劇場おきなわ
住所|沖縄県浦添市勢理客4-14-1
Tel|098-871-3311
開館時間|10:00〜18:00(公演時間は各演目により異なる)
休館日|年末年始
www.nt-okinawa.or.jp

宜野座村文化センター がらまんホール
住所|沖縄県宜野座村宜野座314-1
Tel|098-983-2613
開館時間|9:00〜18:00
休館日|火曜
https://garaman.jp/sf

text: Norie Okabe photo cooperation: National Theatre Okinawa
Discover Japan 2023年7月号「感性を刺激するホテル/ローカルが愛する沖縄」

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