佐賀県《嬉野 八十八/やどや》
“お茶”と“温泉”でもてなす旅館とは?前編
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2023年10月1日、名温泉地として名高い佐賀県・嬉野市にJR九州がラグジュアリーな湯宿「嬉野 八十八(うれしのやどや)」をオープンする。その企画・デザインを担当した岡部 泉さんとともに開業準備が佳境を迎えた現地を訪れ、宿の全貌に迫った。
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35年前から無農薬有機茶の栽培を行い、「ブルガリ ホテル 東京」でも採用されている。ティーツーリズムの立役者でもあり、茶師としてティーセレモニーも担当。
中央)「田中製茶工場」田中 宏さん
田中製茶工場の3代目。8haの茶畑で無農薬などの茶づくりを行う。お茶の愉しみ方を発信する「嬉野茶時」の茶師のほか、地元蔵元で杜氏としても活躍する二刀流。
右)「太極舎」岡部 泉さん
太極舎代表取締役社長。今回の「嬉野 八十八」プロジェクトではプロデューサー兼アートディレクター兼デザイナーを務め、一貫した美意識で宿全体を構築。
嬉野の魅力をギュッと凝縮!
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その昔、この地に湧く温泉が兵士の傷を癒やすのを見た神功皇后が「あな、うれしの」と喜んだことが地名の由来と伝わる佐賀県嬉野市。山々に囲まれた嬉野には美肌効果抜群の温泉はもちろん、旨みの強い嬉野茶、伝統と革新に満ちた肥前吉田焼などがあり、いまも旅人に「あな、うれしの」と思わせてくれる魅力に満ちている。この秋誕生する宿「嬉野 八十八」は、そんな嬉野の魅力をギュッと凝縮した箱庭のような宿。大人の好奇心をくすぐる仕掛けが随所にちりばめられ、ここに滞在するだけでローカルのポテンシャルが存分に感じられる。
今回、この宿をプロデュースしたのが「別府温泉 竹と椿のお宿 花べっぷ」や「奥日田温泉 うめひびき」など、JR九州が展開する湯宿を手掛けてきた岡部 泉さん。「はじめて嬉野を訪れた際“新しい風”を感じました。いま、さまざまなジャンルで若い人たちのチカラがこの地に根づきはじめています。その点と点とを結び、新たな解釈を加えて価値を高めるのが私のミッション。地元の匠たちとコラボして完成させる新たな宿にご期待ください」。プロジェクトはまさに佳境。今回は岡部さんと各ジャンルの匠たちとの打ち合わせに同行し、いち早く構想をうかがった。
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宿全体が地域のショールーム
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「嬉野 八十八」の客室は母屋棟24室、離れ棟12室の全36室。スタンダードタイプでも約45㎡と広々とし、リラックスできる空間が確保されている。また、離れ棟の部屋は約80~100㎡と別格の広さ。温泉やプライベートガーデン、部屋によってはサウナもあり、別荘感覚で極上の休日を楽しめる。ここが嬉野はもちろん、九州屈指のハイエンド宿となるのは間違いなさそうだ。
館内には嬉野や佐賀の風土・文化に触れられるスポットが随所に。お茶の生産者が茶師としてお点前を披露する「ティーセレモニールーム」をはじめ、九州にゆかりのある文学作品などを集めたライブラリー、お茶を使ったカクテルなどを提供する「茶バー」など、宿全体が地域のショールーム的な役割を果たす。「目指しているのは“郷土力”を発展させる宿。嬉野の文化発信地として、長く愛されてる宿に育ってほしいと願っています」(岡部さん)。
加水加温なしの源泉かけ流しの温泉が満ちる湯船が全室に備えられ、誰に気兼ねすることもなく「美肌の湯」を独り占めにできる。柔らかな湯に悠々と浸ると肌もしっとり。それはまるで“天然の美容液”のよう。湯浴みを重ねるごとに肌が喜び、自分がリセットされるのを実感できるだろう。
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「茶葉×時間×温度×淹れ方」の掛け算で引き出されるお茶の旨み。ここでは専属茶師がこだわりの茶葉を、この宿のために開発された抽出器を使って丁寧に煎れ、新たなお茶の美味しさを伝える
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嬉野温泉の泉質はナトリウムを多く含む重曹泉。湯上がりはまるでひと皮むけたようなつるつるの肌に。大浴場にはお茶のアロマを使ったロウリュサウナが備えられ、心身もととのう
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繁栄を象徴する七宝文様を茶葉で表現。中央に茶葉の新芽を十字に描き、「八十八」の家紋をイメージしたデザインに。地域に根ざし、新しい文化を築きたいという思いが込められている
佐賀の技・食を結集したおもてなしとは?
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text: Chie Nakano photo: Azusa Shigenobu
2023年7月号「感性を刺激するホテル/ローカルが愛する沖縄」