「パンラボ」池田浩明のおすすめ
朝はトーストからはじめよう【前編】
珍しいパンやすごいパン職人、頑張っている小麦農家などパンにまつわるうわさを聞けば訪ねてパンを食べ、トークを交わす。持ち帰るパンもたくさんある。つまり、日々パンに囲まれている。そんな池田さんの朝は、美味しいトーストではじまる。
池田浩明(いけだ・ひろあき)
パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンオタク)。NPO法人新麦コレクション理事長。 行った気になる〈パン屋バーチャルツアー〉をパンラボYouTubeで発信。著書は『パンソロジー』、『パンのトリセツ』など多数
トースト好きの妻のために焼いています!
パンを食べるだけが能で、家事は何もできない僕なので、朝のトーストだけは超真剣に焼いて、子守りに忙しい妻に差し出すのが朝の日課です。
よそにない特別なトーストを、ということでうちでは「3」にしました。センチでいえば4。何の数字か? スーパーの食パン売り場でお馴染み「枚切り」のことです。この世にある枚切りは、8か6か5、関西のような厚切りが好まれる地でも4枚切り(3㎝)がせいぜい。喫茶店の分厚いトーストでも5か4。さらに上をいく3でマウンティングです。
いたずらに厚くすればいいというものではない。厚くすればするほど中に火を入れるのが困難になり、食感は重くなりがち。そこで、カットの技を使いましょう。普通、トーストし終わってから食べやすくカットしますが、焼く前に半分に切ってしまいます。これで中までしっかりと熱せられ、いつもの食パンに翼が生えたごとく食感は軽くなります。さらに、大根に味を染み込ませる隠し包丁よろしく、切り込みも入れます。これが熱の通り道&バターの染み込み通路となります。
焼き網もいいのですが、忙しい朝はオーブントースターで。焼き方は、僕が「ミディアムレア」と呼ぶ、茶色と白のグラデーションがまだらに残る程度。香ばしさから生っぽさまで風味のレンジが広いことが美味しさにつながります。分厚いだけに表面はばりばりでも、中はしっとり、とろり。パンの美味しさの鉄則「中と外の食感のギャップ」を余裕でクリア。厚切りの醍醐味でしょう。
バターはそれぞれ10gぐらいいっちゃいましょうか。センスやテクじゃない。多ければ多いほど美味しいと思うのが人間の業です。これを切り込みの「X」の上に置いちゃいます。妻はとろけたほうが好きなので、まだ温もりが残っているトースターの中に再度入れ、30秒程度待てば、かたちをなくしてとろ〜り。これを見ただけで生つばごくり、パブロフの犬状態です。
「3枚切りなんて食べたら太るし、お腹いっぱいになりそう」って思った方、心配ご無用。妻と僕で半分こします。リッチ感は味わえるけど量は通常というエコノミー。同じものを分け合うのが夫婦円満の秘訣です(本当に円満なのか!? 妻に聞くのが怖い)。
さて、僕のつくったサークル「トースト焼きまくり同好会」(現在会員1名)に入りませんか? 食パンだけがトーストじゃない。普通しそうにないパンでもなんでもトーストすれば新しい美味しさがある! トーストのフロンティアは広大なのです。次のページから実験結果を発表しています。いざ、トーストの冒険へと旅立ってください。(池田)
3枚切りトーストのコツ
◎先に切ってから焼くか、焼いてから切るかは、好みでどちらでもよい
◎中央に十字に切り込みを入れる
(熱を中心に入れるのとバター染み込ませ用)
◎理想の焼き加減は、白いところと茶色いところがまだらに残っている「ミディアムレア」
◎焼けたら切り込みの上にバターをのせる
(再度オーブンに入れれば余熱で溶ける)
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text: Hiroaki Ikeda,Yukie Masumoto photo: Yoshihito Ozawa
Discover Japan 2023年5月号「ニッポンの朝食」