酒を愛するうつわ作家8人に聞いた!
酒と肴と地元自慢〈後編〉
料理や酒を引き立てる。そんなうつわを生み出す作家たちは、夜な夜などんなお酒、おつまみ、器で晩酌を繰り広げているのか?
高原卓史さん、伊勢﨑創さん、大饗利秀さん、青木良太さん、小路口力恵さん、古賀雄大さん、松本かおるさん、伊藤惠さん、Discover Japan Lab.でも取扱い中の作家8名に、行きつけの名店や、晩酌の肴になりそうな秘蔵レシピをうかがいました!
5|松本かおる
石川県輪島市
松本かおる
堅牢な備前焼のイメージを覆す、温かみある作風が魅力。備前焼に用いるきめ細かな土と、鉄分の多い珠洲の土を使用した焼締のうつわは、やすりで何度も磨き上げることでなめらかな手触りに。使うほどにつやが増し、手にも馴染む松本さんの酒器。
月に一度は東京にて陶芸教室を開催していることもあり、都内と輪島を行き来している松本さん。「とにかく食べることと飲むことが大好きなんですが、能登のアトリエ近くには飲食店がなく、さらには誰とも会わず制作に没頭しているので、パートナーとの晩酌が何よりの楽しみ。旬の食材を取り入れたいと思っているので、手に入ったその日の食材から、どんなお酒を飲もうかと考えています」と輪島での暮らしを満喫。庭でサンマを炭火焼きにすることもあるという。「能登は土地のエネルギーがいいのか、野菜も魚も素材そのものが美味しいので、手を加えないことが最高の贅沢。アトリエ兼自宅の目の前が山なのですが、いまの時期は紅葉が美しく、同じ景色でも季節によって見え方が違うんです。創作意欲をかき立てるとともに、贅沢にお酒を楽しむ特等席でもあります」。軽やかな焼締を得意とする松本さんだが「自分が使いたいうつわをつくることが多く、酒器はそれぞれのお酒に合わせてこしらえています。日本酒なら味をまろやかに、ビールならきめ細やかな泡立ちに、そしてワインならのびのびと香りが広がるなど、焼締の酒器はお酒のよさを引き出してくれるもの。飲み比べるとその違いがわかるので、ぜひ試してみてください」と、大の酒好きが言うのだから間違いない。
〈自宅〉能登牛の炭火焼き 赤玉ねぎの香草ビネガーソースかけ
お肉が食べたくなった日には、精肉店まで能登牛を買いに行くという松本さん。「田舎なので庭で炭火をおこして焼いています。今回の部位は脂身の少ないランプですが、能登牛は脂が甘くてしつこくないので、この量でもぺろりと食べてしまうほど。ソースは料理家の栗原友さんに教えてもらったレシピで、とても気に入っています」
材料
能登牛
塩・コショウ
ルッコラ
赤タマネギ
香草ビネガー
砂糖
唐がらしペースト
つくり方
1 赤タマネギを刻んで香草ビネガー、砂糖と混ぜる
2 1に唐がらしペーストを入れて混ぜ、
1時間ほど置いたらソースの出来上がり
3 塩コショウした牛肉を七輪で好みの焼き加減で焼く
4 うつわにルッコラを添え、カットした3をのせ、その上に2をかければ完成
〈自宅〉イカワタのホイル焼き
酒飲みなのは血筋だと語ってくれた松本さん。「幼少期から父親があん肝やからすみを自宅でつくっていたので、その影響からか酒の肴や珍味が大好物。イカの捌き方は台所で見て覚えました。イカワタのホイル焼きは、湯煎した熱燗の最高のお供ですが、残りはバターで炒めたり天ぷらにしたりと、余すところなく一杯を楽しみます」
材料
イカ
塩
つくり方
1 イカをさばき、ワタの袋を破らないように注意して取り出す
2 イカの皮を剥ぎ、適当な大きさにカットしてアルミホイルにのせる
3 2の上にワタをのせて、塩を多めに振り、トースターやグリルで10分ほど焼く
4 3を取り出し、うつわに盛れば完成
6|高原卓史
岡山県備前市
高原卓史(たかはら たくし)
備前の命とも呼べる土本来の野趣あふれる味わいを引き出しつつも、遊び心を加えた作風が特徴。近年はリサイクル素材を使用した作品にも意欲的で、酒を飲まないにもかかわらず、酒飲みの作家仲間からも定評ある酒器を生み出している。
「晴れの国」と呼ばれるほどの恵まれた天候が岡山の魅力だという高原さん。「うつわは見た目そのものが肴になります。単調なものだと飾りが欲しくなりますが、力強いうつわであれば、そのままで十分。備前焼は小豆色が多いので、普段の食卓では色みのあるうつわの中に1点だけ加えて使っていますが、焼き魚や刺身をのせるだけでもさまになります。ちなみにモクズガニをのせた『四方窓切り皿』は、楽しく使うシーンを思い浮かべると、こういうかたちになりました。片口は氷を入れて楽しむこともできますが、実は私はお酒が飲めません」
〈自宅〉モクズガニの酒蒸し
モクズガニは自宅近くの川に罠を仕掛け、高原さん自らが捕獲。「産卵前の内子のあるいまが美味しい時期で、地元では珍味として親しまれています。今回は晩秋の香りと彩りにユズを添え、下にはハランを敷いてみましたが、備前焼は粘土そのものを乾燥させて焼くので自然素材と合うんです。紅葉をちょっと置くだけでも季節感が出ますね」
材料
生きたモクズガニ
料理酒
カボチャ
ユズ
つくり方
1 モクズガニを水の中に入れ、
2日間ほど水替えをしながら泥を吐かせる
2 モクズガニにカボチャなどを与え、ストレスを軽減させた後に〆る
3 2に酒を振りかけて蒸す
4 うつわに(絞らず香りと彩りのための)ユズを添え、蒸したモクズガニを盛りつければ完成
7|伊勢﨑 創
岡山県備前市
伊勢﨑 創(いせざき そう)
備前焼の土味を生かした花器、壺、抹茶碗といった工芸品を主に作陶。美しい稜線を生かしたキレと重厚感あるモダンな作風は世代を問わず支持されており、美術展での受賞も多数と、現代備前の先駆者としても名を馳せている。
再生備前や海外向けの活動も行っている伊勢﨑さん。「普段は漆、ガラス、金工などさまざまなタイプの酒器を使い、勉強という名目で晩酌を楽しんでいます。備前焼はハードルが高いと思われがちですが、日常に取り入れることで食卓が豊かになるもの。若い方は再生備前をきっかけに、おもしろい世界に触れてみてほしいです」
8|大饗利秀
岡山県備前市
大饗利秀(おおあえ としひで)
暮らしの中で使われることが備前焼の伝統をつなげるとの思いから、食器や急須といった日用品を中心に作陶。伝統を重んじながらも、マグネット、ガラス、木質プレートといった異種素材を組み合わせた商品開発にも注力している。
コロナ禍のため、最近は専ら家飲みという大饗さん。「冷酒には温かい天ぷらを、熱燗には刺身をと、酒と肴は反対の温度帯で楽しむことが多いです。うつわをつくるときにも食材や料理の温度を考えるのですが、食べ物を美味しく見せるには形状も大切。なぜか冷奴は、丸ではなく四角い小鉢に入れるとリッチな気分になります」
text: Natsu Arai
2023年1月号「酒と肴のほろ酔い旅へ」
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