岡山県備前市《the continue.》
廃棄される備前焼から生まれた
サステイナブルなマグカップ
岡山県備前市で陶器ごみのリサイクルがはじまっている。つくられるのは普段使いのマグカップ。将来またリサイクルできるようにと備前の土で練り戻した、循環するうつわだ。
備前焼の歴史を変える
マグカップの誕生
岡山県備前市伊部地区を産地とし、約1000年の歴史をもつ備前焼。釉薬や絵付けを施さず、2週間ほどかけて約1230℃の高温でゆっくり焼き締める。窯の中で炎や灰の作用を受け、作品の表面が変化する「窯変」が魅力だ。
備前の土は鉄分や有機物を多く含み、焼成すると大きく縮む。そのため、窯焚きの後はどうしても歪んだり、割れるものが1割以上出てしまう。それらは砕かれ、廃棄されてきた。備前に限らず、焼物の産地では土が有限なのに対し、陶器ごみが増え続けることが社会問題になっている。
そんな陶器ごみを再利用できないかと可能性を探ったのが、「the continue.」代表の牧沙緒里さん。備前はれんがの生産も盛んで、れんがの場合、失敗作は粉砕して再利用されるところに目をつけた。
牧さんが大切にしているのは、粉砕した焼物を練り戻す際に加える土も、備前で採れた土であること。天然の土を用い、土に合わせていくやり方は陶芸の本質で、それが備前焼の魅力。だからこそ再生したうつわがいつか割れてしまっても、また備前の素材として使えるようにしたいと考えた。陶器ごみゼロの産地になることを目指す試みは地元で共感を得て、いま全国でも注目を集めている。
何度でも生まれ変わる
備前のうつわ
①役目を終えた備前のうつわを再び生かす
地域性を考慮し、リサイクルに使うのは備前の土でつくられた陶器のみ。釉薬や色絵を施さない備前焼は、実はリサイクルに向く
②自主回収に加えて自治体回収も開始
割れてしまった備前焼の回収には、自治体も協力。備前市役所がもつ土地に回収ボックスを設置し、家庭から出る破片もリサイクル
③陶器の破片を粉砕
集められた大量の陶片は、焼物用の粉砕機で細かくする。備前で盛んなれんがづくりのリサイクル技術が、陶器にも応用されている
④粗さ別に分類
陶器の粒はマグカップ用の細かいもの、コーヒーフィルター用の粗いものなど数種類に分類してブレンドし、備前の土を加えて練り戻す
⑤成形して再びプロダクトに
備前焼の再生材と天然の土を練り合わせた素材は、性質が磁器にも似ていることから型焼きに。身近な日用品に生まれ変わる
美味しさの秘密は
“穴”にあり!?
備前焼の陶器ごみを再生してつくられるのが「RI-CO 再生備前シリーズ」。牧さんは飾って愛でる工芸品ではなく、日用品として使うことができるプロダクトとして、世に送り出そうと考えた。コーヒーの焙煎士とともにつくり出したのが、マグカップとコーヒードリッパー、珈琲玉だ。
陶片はどんなに細かく粉砕したところで限度がある。試作でつくったマグカップは、見事に水が漏れたという。マグカップのほうはそこに粘土を練り合わせて水が漏れない方法を探りつつ、一方で水を通す製品がつくれないかという発想から生まれたのがコーヒードリッパー。そのため、このドリッパーは下に穴が開いていないが、全面で空気を取り込み、脇から漏れることなくドリップできる。
ところで、コーヒーを備前焼のカップに入れて少し時間を置くと、苦みが和らぎ、味がまろやかに変化する。それは釉薬をかけずに焼き締める備前焼の特徴でもあるのだが、その味わいの変化を楽しめるよう、カップは大きめにつくられ、ドリッパーはゆっくりとコーヒーを抽出する。備前焼の陶片と備前の土から生まれた名もなき陶器たち。何げなく手にした人は、地球の資源を思いやり、使うたびに豊かな気持ちになるだろう。
「the continue.」の企画展を
Discover Japan Lab.で開催します!
備前焼作家として初の再生陶器に取り込んだ「不老窯」の大饗(おおあえ)利秀さん、乗松美歩さん夫妻。キレと存在感のある作風の伊勢﨑創さん。同業者に「あの人ほど土や陶芸が好きな人は珍しい」と慕われる高原卓史さん。4名の作家が一堂に会し、伝統の備前焼と、新素材でつくる作品の対比を楽しめる企画展を予定している。
the continue. 展
会期|12月28日(水)~2023年1月15日(日)
会場|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~20:00
定休日|不定休
the continue.
住所|岡山県備前市野谷682-10
Mail|info@the-continue.com
https://the-continue.com
text: Yukie Masumoto
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」