FOOD

京の雅を映す《亀末廣》
季節を繊細に表す老舗の干菓子

2022.11.29
京の雅を映す《亀末廣》<br><small>季節を繊細に表す老舗の干菓子</small>

茶席に欠かせない干菓子は、わずか数センチの世界に日本の花鳥風月を閉じ込めた小さなアート。老舗の看板銘菓は一年に何度も意匠を替えながら四季の移ろいを描いている。

「四畳半」の愛称で呼ばれる
代表銘菓「京のよすが」

本格的な茶席では、抹茶を濃く練った濃茶には上生菓子を、薄く点てた薄茶には干菓子が用意される。はんなりとした色合いに染めた干菓子は引き算の美学そのもので、日本の花鳥風月を限られた材料で巧みに表現。小さなアートとして楽しませてくれる。
 
1804(文化元)年創業の亀末廣は、軒先に上がる御菓子司の看板ひとつにも7代続く老舗の歩みが感じ取れる。初代は京都の南部で釜師を務めた後に、市内中心部に移り住み京菓子店を開業。当時は「亀屋末廣」を名乗ったという。代々の主は菓子づくりに専心する一方で弟子の育成にも努め、京都市内のいくつかの和菓子店は、ここで修業を積んでから独立。京菓子の伝統を師弟で守り続けている。

年月を経て穏やかな飴色に染まる店内は、中央に木製カウンターが据えられている
打物や押物に使う木型は干菓子に欠かせない道具。これに生地を詰めて季節の風物をかたちづくる

代表銘菓「京のよすが」は戦後、先代が考案した干菓子の詰め合わせ。求肥や琥珀など、さまざまな種類の干菓子を四畳半の茶室を模した杉板箱に詰めた意匠が印象的で、いつしか「四畳半」の愛称で呼ばれるようになった。詰め合わせの内容を、年に約14回も替えるのは、一年を4つの季節で見るのではなく、もっと細やかにとらえているから。葉の色が一日ごとわずかに染まるような微妙な変化を、菓子にも反映している。干菓子はその姿を変幻自在に変化させるのも魅力のひとつ。たとえばすり琥珀なら、秋には菊、冬には梅となって現れる。季節が匂い立つ銘菓は、用途に応じた調整にも対応。老舗の趣が隅々にまで染み入る名店で、四季を楽しむ菓子を手に入れたい。

京のよすが
杉板を茶室のルーツといわれる四畳半のかたちに組み、その時期の干菓子を詰め合わせている。写真は8月下旬〜9月中旬の一例。すり琥珀の月や片栗の小芋、求肥でつくる萩や女郎花で季節を表現。意匠は年14回ほどのペースで替わる。3900円。できれば予約を

<干菓子の種類>

求肥
蒸した餅粉に水飴や砂糖で甘みをつけ練り固めた菓子のことをいう。生地全体にほのかな甘みが広がり、軟らかな食感が楽しめる

松露
小さく成形したあん玉をすり蜜で覆った半生菓子。すり蜜のシャリシャリとした食感が特徴で、食用キノコをかたどった茶席の菓子にはじまる

片栗
山芋と粉糖を合わせた生地を型で抜いている。木型でかたちづくる場合もある。季節の風物をよく表し、ほどよい甘みのある素朴な風味

打物
水を少量差した砂糖に、寒梅粉や微塵粉を加えて木型で成形した菓子。木槌で木型から菓子を打ち出すことから打物と呼ばれている

生砂糖
寒梅粉に砂糖を加えた生地を薄く延ばし、植物などを模した型で抜いた菓子のこと。成形がしやすく工芸菓子の手法としても好まれる

すり琥珀
煮溶かした寒天に砂糖を加え、さらに煮溶かした後、全体が乳白色になるまで麺棒で擦った砂糖液(すり蜜)を加えて混ぜる


桜(すり琥珀)
蝶(片栗)
桜(片栗)
桜(片栗)
菜種(求肥)
花見団子(松露)
八重桜(打物)


しぶき(求肥)
撫子(片栗)
撫子(すり琥珀)
若楓(生砂糖)
空豆(松露)
撫子(打物)
草の露(求肥)


秋の山(求肥)
菊(松露)
菊(打物)
菊の葉(生砂糖)
小菊(片栗)
枯松葉(生砂糖)
紅葉(生砂糖)
菊(すり琥珀)


椿(打物)
椿の葉(生砂糖)
雪松葉(生砂糖)
梅(すり琥珀)
梅(片栗)
茶筅松(打物)
梅(松露)
御所松葉(生砂糖)
五ツ梅(打物)
松の雪(求肥)

姉小路通烏丸を東へ入ってすぐの場所に建つ。堂々とした店構えに老舗の風格がある

亀末廣
住所|京都市中京区姉小路通烏丸東入ル
Tel|075-221-5110
営業時間|9:00〜17:00
定休日|日曜、祝日

text: Mayumi Furuichi photo: Mariko Taya
Discover Japan 2022年11月号「京都を味わう旅へ」

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