HOTEL

湯の花温泉《すみや亀峰菴》
現代美術家・柳幸典と職人のコラボによる
現代アートの世界に泊まる。

2022.11.12
湯の花温泉《すみや亀峰菴》<br><small>現代美術家・柳幸典と職人のコラボによる<br>現代アートの世界に泊まる。</small>

京都・亀岡の老舗旅館「すみや亀峰菴」は、世界的に活躍する現代美術家・柳幸典氏とともに大規模なリノベーションを行い、2021年4月にロビー兼ギャラリー「百代」を完成させ、今年2022年4月28日には、140平米の客室「呼風(こふう)」を新たにオープンさせた。「現代アートの中に泊まれる」をコンセプトとしたアートプロジェクトの魅力に迫る。

現代美術作家
柳幸典(やなぎ・ゆきのり)
1959年福岡県生まれ。イエール大学大学院美術学部彫刻科修了。1993年第45回ヴェネチア・ビエンナーレに選ばれ、アペルト部門を日本人で初めて受賞。以後ニューヨークにスタジオを構え、1996年サンパウロ・ビエンナーレ(ブラジル)、1997年ビエンナーレ・ド・リヨン(フランス)など多くの国際展に招待される。2000年のホイットニー・バイアニュアルでは、ニューヨーク在住の作家として外国人で初めて選ばれる。

古(いにしえ)を新しく楽しむ老舗旅館

非日常の空間への入口となる茅葺門は、桂離宮の修復も手がける職人によるもの

京都府亀岡市に位置する旅館「すみや亀峰菴」は、木炭商「炭屋」として長くこの地で商いを続けてきた。1955年、京都府亀岡市にて「湯の花温泉」の看板を初めて掲げ、かつてはジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻、松田優作なども訪れたことで知られている名旅館だ。2021年には「外と内」、「室内と庭」、「ロビーと宿泊棟」の橋渡しをするトンネルの役割を担う5つの「鉄のキューブ」が存在感を放つロビー兼ギャラリーが生み出され、柳作品が複数点展示されている。

「古(いにしえ)を新しく楽しむ」というコンセプトのもと、これまで温泉や和の室礼、四季折々の料理など、日本の伝統の良さを体験できるとともに、ソムリエを置いた本格的なワインやアーユルヴェーダなど、旅館業にとっての意外性や新しさを掛け合わせることで旅館のあり方を更新してきた。「百代」と「呼風(こふう)」もその一環だ。

穂波(HONAMI)
温泉掛け流し露天風呂と足湯付き100平米の和室+寝室は 小上がりの畳に寝具を設えた和ベッドタイプ

すみや亀峰菴の客室は全26室。温泉かけ流し露天風呂付き客室やコンパクトな露天風呂付ベットルームなど、その時々に合わせた寛ぎの空間を楽しめる。おくどさんや研ぎ出しの流し台など京の台所を再現した「旬膳瑞禾」では、四季折々の地元食材を存分に活かした京懐石を用意。料理に合ったオーストリアワインなど食事の楽しみ方も充実している。

旅館×現代アートの
ロビー兼ギャラリー「百代」

この現代美術の展示空間も兼ねている旅館のロビーは、盛唐の時代の詩人李白の「春夜桃李の園に宴するの序」冒頭から、永遠の旅人を意味する百代(はくたい)と名付けた

すみや亀峰菴は、古今の時代の移ろいとともに幽玄自在に変化していく「和」を、単に昔を表現するものとしてではなく「新しい昔」と捉え、訪れる人に日常から解き放たれた時間を演出してきた。

2021年4月に完成した、ロビー兼ギャラリー「百代」は、一見異質ともみえる現代アートとの融合によって旅館の中に流れる芸術性を表現している。また、伝統技術に裏打ちされた職人たちの匠の技が、旅館と現代アートの融合の触媒となっている。

Study for Japanese Art -Hokusai-
左から)Nagato Blue - (propeller)、Nagato70・I-II

現代アーティスト・柳幸典氏による作品と空間の演出は、訪れる人にゆっくりと過ごす滞在の昼夜で、美術館とは違う作品との触れ合いの時間を楽しませてくれる。そして、旅館は新たな現代アートとの接点となることを証明してくれるとともに、旅館が現代アーティストにとって発現と活躍の場になるだろう。

世界的に活躍する
現代美術家・柳幸典氏の世界観を体感

すみや亀峰菴でのアートルームプロジェクト「呼風(こふう)」は、ロビーを兼ねたアートギャラリー「百代」での鉄の隧道(ずいどう)から連なる設計となっている。プライベートな空間に入ると出迎える隧道は、天と地、生と死、形而上と形而下のような対概念を表象しており、アートと一体となった非日常空間を体験できることをコンセプトとしている。

天と地の狭間の和室「菊花の間」。奥に見える露天風呂へと繋がる客間として設られている。この冬には、京都の帯匠・山口源兵衛が伊藤若冲「菊花流水図」にインスピレーションを受け制作している、プラチナの糸で織られた若冲八重菊が配置される予定だ
時間の移ろいによってプリズムの反射角や表情が変化する天の風呂と繋がるベッドルーム。壁面には菊文様に花占いの言葉が散らされた、柳氏の作品。制作は和紙職人のハタノワタル氏が施工。ディテールにまで、日本文化の在り方を思索するような工夫が隠されている

ロビーと共通する鉄製の扉を入ると、柳作品の象徴とも言える回廊が出迎え、その先には、柳氏のコンセプトを体現した、対となるベッドルームとダイニングルーム、2つの独創的な露天風呂が用意されている。温泉を楽しみながら、アート作品の一部となるかのような感覚を体験することができる。

天と地をつなぐこの空間はギリシャ神話のイカロスが幽閉されていた迷宮から着想を得ているそうだ。そして回廊を行くと、三島由紀夫氏の「太陽と鉄」からの一文を問いかける。

呼風のプライベートダイニングルーム
久住氏による「夕焼の土壁」が配されたダイニングでは、料理人がその場で仕上げる料理が提供される

京都・丹波を拠点に伝統の技を振るう作家・職人たちと、柳氏との協働によってつくりあげられた現代アート作品の空間では、料理人が部屋で仕上げる「呼風」だけの特別な料理とともに、唯一無二の宿泊体験を楽しめる。

アートルーム呼風を支えた職人たち

日本の文化や伝統を受け継ぎ『和』の作品や空間をつくってきた職人たちが作り上げた、アートルーム「呼風」は、その名の通り新しい風を吹き込み、古来から伝わる技を未来へと繋ぐ。

天と地をつなぐイカロスの回廊
柳作品の代表とも言える回廊は和紙職人ハタノワタル氏が手がけた。一見真っ黒な空間に見えるが、手漉き和紙の一様ではない風合いに温かみを感じる
廊下の先には石井直人氏の破れ壺を展示
夕暮れと共に虹が現れる天の風呂
空をイメージする透明でミニマルな水の立方体の浴槽によって、プリズムからの虹が視覚的な天を表現する
久住氏の左官技と石井氏の織部釉の陶板による地の風呂
ここでは、地の表象として、陶芸家石井直人氏による登り窯の1200度を超える高温で焼かれ変形した破れ壺をツボの裂け目から揺らめく焔と共に天に対峙させた。加えて左官職人久住章氏による地に抱かれるような浴槽と壁や床、そして裏山の木々の緑と鏡合わせに石井氏の織部釉の緑の陶板を壁にしつらえ、大地の生命感と死と再生の胎動を表現した空間となっている

現代美術家と職人、旅館がコラボレーションした「すみや亀峰菴」の新たな空間で、食、温泉、工芸、アート、建築を五感で楽しみ、アートルームの世界に浸ってみてはいかがだろうか。

すみや亀峰菴
住所|京都府亀岡市稗田野町柿花宮ノ奥25番地
Tel|0771-22-7722

アートルーム「呼風」
料金|1泊2食 11万円/名〜(2名1室利用時)
 
 

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