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和洋の間を柔らかくつなぐ
「伊藤環さんのいす灰釉平鉢」
ただいま、ニッポンのうつわ

2021.4.14
和洋の間を柔らかくつなぐ<br>「伊藤環さんのいす灰釉平鉢」<br><small>ただいま、ニッポンのうつわ</small>

自分の料理や暮らしに合ううつわを求め続けて、高橋みどりが最近気になっているのが、ニッポンのうつわ。背景を知ると、使うのがもっと楽しくなることを伝えたい。今回は、磁器の釉薬のイス灰釉を陶器に使うことで生まれた「伊藤環さんのいす灰釉平鉢」を紹介します。


高橋みどり

スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『ありがとう! 料理上手のともだちレシピ』(マガジンハウス)など

伊藤環さん
1971年、福岡県生まれ。大阪芸術大学卒業後、京都で山田光氏に師事。1995年、滋賀県立陶芸の森で制作。帰郷し父、橘日東士氏の窯で10年の作陶を経て2006年、神奈川県三崎に独立開窯。2012年より岡山で制作を続ける。

いす灰釉 φ248×H60㎜ 9000円

白や濃い茶色が多い高橋さんの食器群の中で、その間を柔らかくつなぐ、伊藤環さんのうつわのトーン。厚過ぎず、ほどよい緊張感のある薄さやかたちも、食卓に好ましい調和をもたらす。縁の立ち上がりの美しさ、鉢としての口径と高台のバランスを保ちつつ、やや高台を広めに、縁は心持ち開くことで、盛り鉢としてだけでなく、普段の一人用のパスタなどにも使いやすい気楽さがある。

父は陶芸家だが、大学での陶芸専攻は二次志望だった伊藤さん。在学中に偶然オブジェ制作を依頼され、先輩に教わりつつ取り組んだ経験で、陶芸のおもしろさに覚醒。京都の山田光の下で、職業訓練校さながらに課題作のろくろに励み、挽き物職人の元に入り浸りもして技を身につけた。帰郷後は、父の巧みなろくろも学びつつ、窯を訪れる観光客から食器のサイズやかたちの要望を聞く経験が勉強になったという。一方で家業を手伝う立場では、土も釉薬も窯の温度もままならない。葛藤をぶつけるように試みたひとつが、磁器の釉薬のイス灰釉を陶器に使うこと。このうつわの萌芽は、20年前の鍛錬と制約の中にあったのだ。

仲間と半年間切磋した「陶芸の森」を後に訪ねた折、偶然、中里隆氏のアシスタントを務めた一週間も衝撃的な体験だった。佇まいや作品が放つ「色気」に触れ、以来、見るもの聞くもの、自身が作るものも、それがあるようにと思い続ける。海の近くで作陶するようになって十余年、作風は風土に負うところも大きいとうなずける、伸びやかで気持ちのいいうつわだ。

伊藤環さんの豆知識

イス灰釉を土ものに
暖地に自生するイスの木の灰を使った釉薬。鉄分が少なく呉須の発色がよく、有田や波佐見などの磁器に用いられた。陶土の鉄分の多少、焼成方法や温度で呈色が変化。

山田光と走泥社
伊藤さんの指導教授で卒業後1年師事した山田光(1923〜2001)は京都高等工芸学校に学び、1948年に八木一夫らと前衛陶芸集団「走泥社」を結成。用途のないオブジェと同時に工房でのクラフト作品も手掛けた。

陶芸の森アーティスト・イン・レジデンス
滋賀県信楽の陶芸の森では、1992年より創作研修館に国内外の陶芸家を受け入れ、常時10名前後が切磋しつつ競作している。応募制のスタジオ・アーティストと陶芸の森が招聘するゲスト・アーティストがある。

text : Akiko Nariai photo : Yuichi Noguchi
Discover Japan 2018年6月号「おいしい日本茶が飲みたい。」


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