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星野リゾート代表・星野佳路に聞く!これからの日本の旅スタイル
ピンチをチャンスに変え、来たる観光需要爆発に備える!

2020.10.8
星野リゾート代表・星野佳路に聞く!これからの日本の旅スタイル<br>ピンチをチャンスに変え、来たる観光需要爆発に備える!

新型コロナウイルスの影響を最も受けた産業である観光。この未曾有の状況下で、日本を代表するリゾート運営会社・星野リゾートの採った戦略とは?そこで今回、星野リゾート代表の星野佳路さんに話を伺った。

星野リゾート代表
星野佳路さん
1960年生まれ、長野県出身。慶應義塾大学卒業後、コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年、星野温泉(現・星野リゾート)社長に就任。リゾート施設運営のほか、地域や経営破綻した施設の再生も担う

マイクロツーリズムって?

長距離や海外への旅行に対して、3密を避けながら近場で過ごす旅のスタイル。星野リゾートでは、県境ではなく、観光地に1〜2時間でアクセスできる地域を「マイクロツーリズム商圏」としてとらえ、安心、安全に過ごせる地域内観光を提案。ウイルス拡散リスクの低減に加え、地域経済にも貢献。

ウィズコロナ時代だからこその工夫

お楽しみのブッフェも新スタイルで

好きな料理を好きなだけ食べられる、ファミリー層に人気のブッフェ。テーブルや椅子、トングなど、手が触れる箇所への抗ウイルスコーティングや、料理に飛沫防止カバーの設置、ゲスト全員にマスクと手袋の配布など、コロナ対策を徹底した「新ノーマルビュッフェ」を実施。

大浴場の混雑度はスマホでチェック!

星野リゾートの大浴場やプールをもつほとんどの施設で、リアルタイムで混雑状況がチェックできる「3密の見える化」サービスを実施。スマートフォンで混雑度を事前に確認することができるので、人が少ないタイミングを見計って温泉やプールを利用できて便利。

日本全国、そして海外に45の宿泊施設を運営する星野リゾート。代表の星野佳路さんは、自社で開発した施設の運営だけでなく、経営不振に陥った施設を数多く再生させることで、軽井沢の温泉旅館を、日本を代表するリゾート運営会社へと成長させた。

星野リゾートでは宿泊施設をタイプ別にブランディング。日本発のラグジュアリーホテルブランド「星のや」、地域の魅力を発信する温泉旅館「界」、西洋型のファミリーリゾート「リゾナーレ」など、個性豊かな施設が全国に点在する。新型コロナウイルスによって観光業が大打撃を受け、星野リゾートの多くの宿泊施設も休館や開業延期を強いられる中、星野さんがいち早く提案したのが「マイクロツーリズム」だった。

「ワクチンが開発されるまでの1年半〜2年ほどは、3密回避を徹底できる旅のスタイルをベースに、移動自粛と緩和を繰り返しながら近隣から少しずつ旅行需要が戻ってくるだろうと想定しています。そのため、長距離の移動を伴わないマイクロツーリズムを確立することが国内旅行回復のカギになると考えました。実際、マイクロツーリズムは顕著に伸びていて、『星のや京都』は昨年夏の稼働率90%に対し、今年もなんと同じ水準で動いています。昨年はそのうちの6割がインバウンドでしたが、今年は5割が関西圏。それは昨年までは考えられない数字です。界ブランドの全国の施設でも、地元からのお客さまが増えています。このとき、県境で考えるのではなく、観光地を中心とした同心円状の広がりを意識することが大切だと考えています」。

旅というと、遠くへ行くほど、時間がかかるほど旅の実感が増すと思いがちだが、宿泊施設が旅の目的となるデスティネーション型のホテルであれば、滞在体験が非日常体験となる。マイクロツーリズムを体験すると、移動距離や移動時間が非日常のための必要条件ではないことがわかるだろう。

「さらにリピーターが多いのも特徴です。マイクロツーリズムというと、大都市圏よりも人口が少ないから大変だろうといわれますが、NYから草津に年4回足を運ぶ人はいません。でもマイクロツーリズムなら、春夏秋冬の年4回来てくれる可能性があります。人口が4分の1でも4倍に考えることができるのが、この市場の利点です」。

日本では、温泉旅館を中心に季節ごとに食事の内容を変えるのが通常。日本は季節ごとに景色が変わることもあり、旅館はもともとリピート対応に適しているという。露天風呂付き客室のある旅館など、個人向けの小さな宿はプライベート感が高く、利用者の戻りも早いのだとか。さらに施設側で3密対策を徹底し、可視化するなど、ゲストに安心感を与える新しい日常の旅を提供しつつ、ワーケーションといった新しいニーズにも対応している。

「宿泊施設のタイプによって、ワーケーションに向き不向きがあります。最も向いているのは『リゾナーレ』。館内にブックカフェやパブリックスペース、プールなどのアクティビティがあり、親のどちらかがカフェで仕事をしている間に子どもをアクティビティで遊ばせるといった滞在ができるのです。ただ、ワーケーション対応を進めるうちに課題も見えてきました。たとえばオンライン会議。社外秘の情報を含めた情報のやりとりはパブリックな場所では行えません。そこで、ゲストが貸し切りで利用できる個室の設置を進めています。現在ブライダルの衣装室を個室化し、10月にはゴンドラを利用したテレワークボックスを『リゾナーレ八ヶ岳』に設置する予定です」。

星野さんには、具体的なワーケーションの利用プランの提案もある。土日と合わせて連休になる祝日以外に、週の真ん中にある単独の祝日を利用するというものだ。たとえば木曜が祝日の場合、金曜をリモートワークにすれば、3泊4日でワーケーションが可能。1週間、1カ月のワーケーションは難しいという人でも、このスタイルなら現実味がありそうだ。宿泊施設としても、閑散期の平日利用を促進できる。

コロナショックを受け、ゲストはもちろん、社員に対して対策や方向性を発信し、スタッフの不安を払拭してきた星野さん。そこには“人材は宝”という思いが込められている。

「このコロナ期を乗り切るためには、何より人材を維持したまま乗り切ることが重要。落ち着いた頃には旅行需要が爆発する可能性があるので、そのときに人材が整っていないと受け止めきれません。需要が戻っても業績が戻らなくなってしまいます。お金は借りられますが、人材は育てるのに時間がかかります。みんなでいまを乗り切るという意識が最も大切だと考えています。

今回のコロナをきっかけに、“地域連携プロジェクト”を立ち上げ、地域の方にも困っていることがないか聞いて回りました。飲食店の休業で高級食材が過剰になっている、休校で牛乳が余っているといった声を聞き、各施設で新たな商品の展開もしています。青森の『青森屋』では、青森ねぶた祭の中止を受けて、館内でねぶたの制作現場を見学できるようにしたり。こんなときだからこそピンチをチャンスに変え、社内はもちろん、地域との関係を深め、全体で乗り切っていきたいと考えています。前向きに先の先を見据えて動いていきたいですね」。

新しい発想で地域の魅力を再発見!

“地域連携プロジェクト” で新サービス開始

イベントの中止、食材の需要減など、新型コロナウイルスの影響で滞ったモノやコトを社内で洗い出し、新しい利用方法を考えるプロジェクトを推進。「奥入瀬渓流ホテル」では東京観光バス「スカイバス」を利用した奥入瀬渓流オープンバスツアーを実施。

地元の人にこそ伝えたい ご当地食材の底力

全国の「界」では、地域食材を生かした会席料理を提供しているが、マイクロツーリズムでは地元食材をよく知るゲストが施設を利用。そこで、地元食材を新しい食べ方で提供する「界のご当地先付け」の試みを行う。写真は「界 長門」の「烏賊の二色和え 生うに添え」。

text: Akiko Yamamoto
2020年10月 特集「新しい日本の旅スタイル」


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