「発酵」の基礎知識を知っておこう!
和食には欠かせない「発酵」について学ぼう
食における発酵の最たる機能は、食材の保存性が高まり、栄養も増すこと。最近また注目されているが、私たちは古来から発酵を生活に取り入れている。発酵とは何か。より深く知ることで、上手に使いこなせるようになりたい。発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに発酵の魅力を教えてもらいました。
発酵デザイナー。山梨県甲州市を拠点に全国の醸造家との商品開発、絵本・アニメの制作、ワークショップなどを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)、『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT)
いろいろな領域で
発酵というキーワードが広まっている
小倉ヒラクさんが自身の経験を踏まえ、発酵を取り巻く現況を「発酵ムーブメントの見取り図」として整理したものが上の図。実にさまざまな領域で注目されていることがわかる。
「日本の発酵文化のキーポイントはとにかく麹。そして麹は和食ならではの旨みを支えるもの。和食のユニークさは発酵によって支えられているともいえます。発酵はその土地の記憶を保存するもの。その記憶を掘り起こすことで、その土地の歴史や風土、そこで暮らす人々の暮らしが見えてきます」(ヒラクさん)
日本の発酵食、実は3つだけ?
日本人はその恩恵にあずかるための努力を惜しまず、多種多様な発酵食品を生み出してきた。なんと、漬物だけでも全国に3000種類以上あるというから驚きだ。それくらい日本の食には発酵が根づいている。土地の数だけあるともいえる日本の発酵食品。ヒラクさんはそのつくり方から「調味料」、「漬物」、「お酒」の3つに分類している(乳酸菌の発酵によるものなど西洋で主流の発酵食品は除く)。
調味料
麹菌をスターターとして、大豆や米などの食物を発酵によって溶かしたもの。機能としては「調味する」もの。味噌、醤油、酢、みりんなど、毎日の食卓に欠かせないものが多い。魚を塩漬けにして溶かす魚醤もこのグループ。
漬物
塩、麹、酒粕などの床に食材を漬け込んで発酵させたもの。塩漬けは京都のしば漬け、麹漬けは東北の三五八漬け、酒粕漬けは奈良漬けが代表例。塩辛、熟鮨もこのグループ。機能としては「食べる」もの。
酒
酵母によって原料に含まれる糖分が分解され、アルコールを引き出したもの。日本酒、ワイン、ビール、焼酎、ブランデー、ウイスキーなど、酒はすべて発酵食品。機能としては「酔う」もの。
発酵は生活の中から生まれた知恵の結晶
塩で食材の腐敗を防いでみたら、塩に強い微生物が人間に有用な働きをした。発酵文化はこの偶然からはじまった。
日本の発酵文化の原点には、厳しく不安定な自然環境と、温暖湿潤な気候、特色のある風土ならではの多様な微生物環境がある。
①防腐の結果、風味が増したり、保存性が高まったりしたものを選別して食品としてとるようになった。
②そのうちに、その栄養価の高さを体感する。
③身体にいいとはいえ、どうせ食べるなら美味しいものを食べたい。
④そのためにレシピを改良して、誰でも再現できるメソッドに磨き上げる。
こうして発酵文化は受け継がれてきた。
世界的に見ても日本は発酵大国でした
日本の発酵文化のルーツは、東の発酵カビ文化にある。さらに細かくいえば、中国をはじめとする大陸がクモノスカビ文化であるのに対し、日本はコウジカビ(麹菌)文化。日本特有の発酵カビである麹菌は、糖分をつくる力が強く酸をあまりつくらないため、雑菌が混入しやすい。日本人は、その繊細な菌に対して手間を惜しまず、技を磨きながら徹底して使いこなすことで、日本ならではの発酵文化を醸成し、洗練させてきたのである。
Q.微生物って何モノ?
A.肉眼では見えない小さな生物の総称です。
細菌、菌類(カビ、酵母、キノコなど)、ウイルス、微細藻類、原生動物などが含まれる。ほどんどの微生物は、大きさが1㎜以下。人間に役立つ微生物が働けば“発酵”、有害な微生物が働けば“腐敗”となる。
Q.発酵って何だ?
微生物が人間に有用な働きをする、言い換えれば微生物の力によって食品が美味しくなれば“発酵”。反対に微生物が人間に有害な働きをする、言い換えれば微生物の力によって食品が腐れば“腐敗”。「生命工学的に定義すれば、発酵は生物界における普遍的な化学現象。でもその結果生まれたものが美味しいかどうかという視点で考えると、社会的な考察が必要になる。つまり発酵は“科学と哲学の交差点”なんです」(ヒラクさん)
日本には、その土地の気候や自然に合わせた発酵食が豊富にあります。自然豊かな日本だからこそできる美味しい発酵食は和食には欠かせないもの。普段の食卓にももっと取り入れていきたいですね。