《明治安田CAFE 丸の内》
日本の歴史と深く関わる名建築【後編】
古典主義様式の最高傑作といわれ、昭和の建造物としてはじめて国の重要文化財に指定された「明治生命館」。2025年11月、展示エリアを拡充し、カフェを新設してリニューアルオープンした。その魅力を探る。
日本の歴史を見てきた
名建築の空間を堪能できる

部屋の役割ごとに異なる建築様式を用いているのも特徴。南西隅応接室はスパニッシュ様式と呼ばれる、軽やかで華やかなデザインを採用。家具もそれに合わせてつくられている
明治生命館の建築顧問は、当時の建築界の重鎮・曾禰達蔵。意匠設計は様式建築の名手と称された岡田信一郎。大正から昭和初期にかけて、歌舞伎座、ニコライ堂修復など建築界を賑わす作品を多く手掛けた建築家である。構造設計は内藤多仲。東京タワーや大阪の通天閣、札幌のテレビ塔などを手掛けた人物で、明治生命館は創建当初から現在の耐震基準と同等の性能を有していることが確認されている。施工は多くの歴史的建造物に携わってきた竹中工務店。家具とインテリアは梶田恵。各部屋の個性やデザインに応じてさまざまな西洋古典様式を取り入れ、建築との調和が見事だ。
このように、明治生命館は当時の日本近代建築の名手たちがタッグを組んで完成させた大変貴重な建物だが、第二次世界大戦時には大きな痛手を受けている。

右)各階の床近くの壁に設置された吸塵バルブ。ここにホースをつなげて吸引清掃をすると、ゴミは館内に張りめぐらせた配管を通り、地下2階のバキュームポンプとダストタンクへと運ばれた
左)創建時から全館に冷暖房を完備。空調の吹き出し口にはブロンズの装飾が施されている

戦中は国の金属類回収令により、美しい照明器具やブロンズ製のドア、手すりなど、意匠的に優れた金属製品が供出された。空襲による焼失は免れたものの、終戦後はGHQに接収され、アメリカ極東空軍司令部に建物を明け渡すことになる。11年間に及ぶ接収期間中、米軍による改変は全館に及び、壁や天井を青や緑のペンキで塗り立てるなど建物の状況は悪化の一途をたどった。

建物が返還され、まず行ったのが復旧工事だ。戦時中に供出した金属類や、米軍により改変された箇所は、かつての意匠に忠実に復旧した。その後も高度経済成長期やバブル期といった時代の要請に応え、建物の改修や設備の更新は行われてきたが、大切にしてきたのは創建当時の姿を守り続けるということだった。

戦中の金属類供出で失われたブロンズ製の照明器具は、デザインや素材などの仕様を記録した資料を元に、ほぼ創建時の姿に復旧された。その資料はいまも大切に継承されている
現在、明治生命館の1階、2階は無料で公開されている。音声ガイドもあり、歴史とともに歩み大切に守られてきた近代建築をつぶさに見学できる。カフェの周囲には新たに展示スペースが設けられ、建築模型や設計図、これまで倉庫に眠っていた貴重な資料を見ることができる。2階は、GHQ接収下で日本の運命を決めた会議室や応接室、執務室、食堂などが創建当時の姿のままに残されている。2022年に世田谷から移転してきた「静嘉堂文庫美術館」の展示ギャラリーで、国宝・曜変天目をはじめとする東洋古美術をゆっくりと閲覧できるのもいい。

館内をひとめぐりしたら、ぜひカフェで寛ぎのひとときを。激動の昭和史と名建築がクロスする空間の醍醐味を味わってほしい。
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2階の会議室。戦後のGHQ接収下では、この部屋に米、英、中、ソ4カ国の代表が集まり、戦後日本の未来を話し合った。マッカーサー元帥が出席し演説を行ったことも
明治生命館年表
| 1929年(昭和4) | 岡田信一郎の案を採用した明治生命館の建設が決定。 |
| 1930年(昭和5) | 9月12日に地鎮祭。工事はじまる。 |
| 1932年(昭和7) | 4月4日、岡田信一郎急逝。弟の捷五郎が設計監督を引き継ぐ。 |
| 1934年(昭和9) | 3月31日竣工。4月14日開館式。5月14日営業開始。 |
| 戦時中 | 国家総動員法に基づき、金属類回収令発布。明治生命館も美術的に価値の高いブロンズ製ドアや手すり、照明器具、エレベーターなどを供出。 |
| 1945年(昭和20) | 終戦。9月アメリカ極東空軍司令部使用のため、GHQに接収される。 |
| 1946年(昭和21) | 2階会議室で、米、英、中、ソの4カ国代表による、対日理事会が開かれる。接収中、米軍により建物の間取りなどが改変された。 |
| 1956年(昭和31) | 接収解除。米軍から返還される。接収中に改変された建物の全面的復旧工事(内・外装全般修復、エレベーター、設備更新など)。戦時中に供出した金属製品などを復元。 |
| 1968年(昭和43) | 新館(2000年に解体)の増築に伴い大規模な改修工事。 |
| 1981年(昭和56) | 別館の増築(2000年に解体)。 |
| 1997年 (平成9) | 国の重要文化財に指定。 |
| 2001年(平成13) | 明治安田生命ビル建設に伴い、リニューアル工事着手 |
| 2022年(令和4) | 「静嘉堂@丸の内」、明治生命館に移転開館。 |
| 2025年(令和7) | 「明治安田CAFE 丸の内」オープン。 |
明治安田CAFE 丸の内
住所|東京都千代田区丸の内2-1-1
Tel|なし
営業時間|10:30〜18:30(L.O.18:00)
定休日|月・火曜
text: Yukie Masumoto photo: Maiko Fukui
2026年3月号「訪ねる建築 暮らす建築」



































