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陶芸家・田村一さんのうつわ
秋田を映した自然のアップサイクル

2022.12.27
陶芸家・田村一さんのうつわ<br><small>秋田を映した自然のアップサイクル</small>

2000年の作家デビュー以来、「土」にこだわり制作を続けてきた田村一さん。陶磁器の産地から遠く離れた秋田で、その土の可能性を探り続けた結果見えてきたのはすぐ足元にある資源を使った新たな作陶の楽しみだった。

田村 一(たむら・はじめ)さん
1973年、秋田県生まれ。早稲田大学学部生時代に陶芸サークルで陶芸と出合う。大学院修了後、東京で作家活動を開始。2002年に栃木県益子町に拠点を移す。’11年、故郷の秋田市に戻り、太平山のふもとに工房を構える

辺境地が導いた“ひとりサステイナブル”

「辺境地」。秋田市を拠点に活動する陶芸家・田村一さんが自身の立ち位置を表現するときに好んで使う表現だ。大都市から、そして陶芸の産地から離れた場所……。しかしそこに自虐的な響きはない。むしろ、この場所だからこそという誇りをにじませる。
 
2000年に作家活動を開始する際、「青白磁をつくりたい」と使用する土を天草陶石(あまくさとうせき)に決め、ろくろでの制作にこだわってきた田村さん。日本有数の陶器の産地・益子に移ってからも、そして’11年に故郷の秋田に戻ってからも同じ土を使ってきた。活動する土地の土にこだわる作家は少なくないが「ここは産地ではないし、そのあたりはとらわれなくていいのかなと思っています。でもその土地らしさを無視する必要もない。どうバランスを取るか。そこが作家としてはすごいおもしろみ」。そう話す田村さんが近年好んで使っているのが天然の釉薬だ。材料はもみ殻と木灰。もみ殻は秋田市鵜養(うやしない)地区にある「新政(あらまさ)酒造」の水田と、鹿角(かづの)市の知人の田んぼのもの。木灰は鹿角市で薪づくりを行う団体「マキコリ」のメンバーが自宅ストーブで薪を燃やしたものだ。天然物ゆえ色は不安定。特に木灰は家庭ごと、年ごとに色が異なり、焼き上がってからその発色に驚くことも。だが出どころがはっきりしているので△年の○○の灰は赤かったけど×年は緑だったね、という楽しみ方もある。今後は灰ごとに作品を発表する予定だ。

工房があるのは幼い頃から馴染みのある太平山のふもと。目の前には川が流れる自然豊かな里山だ。秋田に帰ったら工房を構えたいと思っていた場所でいい物件とめぐり合えたという

秋田らしさという点でいうと、鉱石から金属を取り出した残りの塊、カラミを模様に使った作品もある。秋田は国内きっての鉱山県。実は磁器に鉄分を混ぜるのはご法度の手法だが、知人に声を掛けられたのを機に試してみると溶け具合がいい味に。’18年発売の新政酒造とのコラボレーション作品にも使用し、好評を博した。
 
秋田で自由に天草陶石の可能性を広げていた田村さんだが、数年を経るうちに辺境地ならではの悩みを抱えるようになる。削りかすや失敗した作品などの残土がトン単位でたまってきてしまったのだ。産地であれば、別の作家に譲ることもできるのだが……。そこで考えたのが鋳込み。残土を水に溶かして泥漿(でいしょう)をつくり、型に流したのだ。辺境地ゆえたどり着いた「ひとりサステイナブル」は「on u(オン ユー)」シリーズとして型を増やし、柄をつけたりと残土の再利用以上の作品群になりつつある。また心理的・時間的余裕を生むという別のメリットもあった。残土を使えるあてができたため、より実験的なこともしやすくなったという。

「新政酒造」の無農薬水田で収穫されたもみ殻とその灰。社長が知り合いという縁から田植えなどを手伝うようになり「釉薬の材料になるのでは」と思いついた
もみ殻をもらっている鹿角市の知人に紹介された「マキコリ」のメンバーから届く木灰。薪の焼け具合も家庭ごとに個性がある
削りかすなどの残土。産地であれば一度乾いてしまった土を買い取ってくれる業者もいる

もみ殻、木灰、カラミ、残土。発想を転換させ、これらを作品へとアップサイクルできたのは、田村さんが22年間使い続けてきた天草陶石で、まだおもしろいことができるのではないかと考えているからだ。実はもみ殻を釉薬の材料の灰にする工程でも新たな作品を生み出していた。「煤(すす)を吸いやすい」という一般的にはマイナスの性質をもつ信楽透土を少量混ぜて使用。もみ殻に埋めて燻すことで煤けさせ、暗い色を出そうと試みたのだ。もみ殻の灰とともにできたのは味わい深いグレー。「夜化(よるか)」と名づけられた。
 
「ほかの土は使わないの?」と聞かれたときの田村さんの答えは「まだこの土で楽しめる」だ。「磁器の土を使ってろくろでつくる。そこを深掘りしていきたいんです。そうすると結果的に『on u』ができたり灰で釉薬をつくるようになったりする。ある程度限定しているほうがいろいろできておもしろいのかなって思います」。辺境地で天草陶石の可能性を探る。こう聞くと息苦しいようなストイックさを感じるが、そこにあるのは「楽しい」、「おもしろい」とのびのびとうつわをつくる田村さんの姿。秋田の雪の青さをその中に見るという青白磁をつくるこの土と、まだまだ深くつき合っていくのであろう。

作品の残土から生まれた
石膏鋳込みシリーズ「on u」

on u “plate oct×1”
丸いかたちはろくろでつくれるからと「on u」ではプラスチック板で角ばった原型を制作。本人の中で「on u」は型職人など複数の人が関係する「バンド」のようなプロジェクトで、ほかの田村一名義作品とは別の位置づけ
価格|4400円、サイズ|W195×D175×H37㎜、素材|制作で出た残土
on u “for beer”
「on u」のラインアップには、泥漿(でいしょう)にラテアートの要領で絵を描き、それを写し取ったスリップウエアのようなうつわも。同系色で描いた立体的な柄が印象的
価格|4400円、サイズ|φ65×H125㎜、素材|制作で出た残土
on u “パンダ”
田村さんが幼稚園の卒園記念でもらったというコップで型を取った作品。原型より2割ほど焼き縮み「お酒を飲むのにちょうどよいサイズ(笑)」と田村さん。現在「on u」の型は20〜30ほど
価格|3300円、サイズ|φ95×D73×H62㎜、素材|制作で出た残土

木灰を釉薬に混ぜたエディションシリーズ

ring plate mkkr'20
「片口mkkr’20」と同じく鹿角市の「マキコリ」メンバーからの灰を釉薬に使用。「木の灰以外のものも混じっちゃった!」と言われたものだが、それがよい味わいに
価格|1万3200円、サイズ|φ275×H40㎜、素材| 土/天草陶石、信楽透土、灰/マキコリの木灰
片口mkkr'20、yzk'22
「マキコリ」メンバーの木灰でも、ストーブと年の違いでここまで色が変わる。左奥は、田村さんの個展を行うこともある鹿角市の温泉宿「yuzaka」の灰を使用したもの
価格|各9900円、サイズ|(右)mkkr'20/φ140×D135×H90㎜、(左)yzk'22/φ150×D140×H90㎜、素材|土/天草陶石、信楽透土、灰/右はマキコリの木灰、左奥はyuzakaの木灰
単とお化け mkkr'20
ろくろで挽いたものを軽く乾かし側面を切って口をすぼめるように重ねる「単」。そこに「どうぞ」と捧げるように手を沿わせた。「マキコリ」の灰のニュアンスが美しい
価格|1万6500円、サイズ|φ120×D100×H110㎜、素材|土/天草陶石、信楽透土、灰/マキコリの木灰

もみ殻で燻して

ちょい呑み 夜化
「磁器をやっていると黒に憧れがあって」ともみ殻に埋めて燻し、色付けした作品。土の特性を生かし「発見かも!」という逆転の発想で完成した色だ。その後もみ殻の灰は釉薬の材料に使われる
価格|7700円、サイズ|φ65×H82㎜、素材|天草陶石、信楽透土、もみ殻(鵜養)

手のかたちを模様に

cafe au lait bowl (L)
田村作品といえば、の青白磁。ろくろを挽いた指の跡をできるだけ残さないようにする磁器作家が多いが、田村さんはほぼそのまま。そのためしのぎが波打つようなかたちになっている
価格|6050円、サイズ|φ115×H90㎜、素材|土/天草陶石

陶房
住所|秋田県秋田市仁別字家ハツレ6-2
見学|可(不定期でオープンスタジオ開催)
問い合わせ|@hajime_tamura_official(Instagram)

 

≫田村一さんの作品一覧

 

text: Masayo Ichimura photo: Atsushi Yamahira
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」

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