ART

《COMICO ART MUSEUM YUFUIN》
湯布院に溶け込む名建築と現代アート

2022.9.4
《COMICO ART MUSEUM YUFUIN》<br><small>湯布院に溶け込む名建築と現代アート</small>

里山の景色が広がる湯布院盆地。そんな大自然とともに現代アートが楽しめる美術館「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」が展示エリアを拡大してオープン。建築設計は2017年の開館当初と同じく隈研吾氏が担当。展示では日本を代表する現代アーティスト草間彌生氏、宮島達男氏、森万里子氏、村上隆氏、奈良美智氏、名和晃平氏、杉本博司氏らが名を連ねる。黒を基調とした外観、豊かな自然を映す水を取り込んだ設計は、増築した空間にも生かされており、新館1階と2階のオープンギャラリーで展示される作品は、周囲の景色を借景として鑑賞できるようになっている。自然の中にある作品と向き合う、「COMICO ART MUSEUM YUFUIN」を深掘りしよう。

文化芸術を
人々と共有できるような場

NHN JAPANは「Next Human Network」を理念に、インターネットに広がる無限の可能性を活かした人と人とのつながりを生み出し、より豊かな社会を実現するためにグループ各社と共に価値ある事業を創造し、さまざまなチャレンジを続けてきた。COMICO ART MUSEUM YUFUINは、NHNグループ初のオフライン施設として高水準の文化芸術をより多くの人々と共有できるような文化の場を目指し開館。

美術館名にある「COMICO」は、グループ会社が運営する総合エンターテイメント・プラットフォーム「comico」を由来としている。「comico」は文化や芸術を愛する企業であるNHN JAPANの中核となる事業の一つであり、WEBコミック、漫画、小説、映画などを提供。当館では「comico」がインターネット上で確立してきた事業に加えより多くの世代や層にアートを通じて新たな感性を育んでほしいと思いが込められている。

木の質感が感じとれるデザイン

由布院の象徴である由布岳。雄大でありながらも、柔らかくなだらかに広がる由布岳の稜線を望むこの場所にCOMICO ART MUSEUM YUFUINは佇む。建築を手がけた隈研吾氏は、設計するにあたって「ムラ」の概念を常に考えたそうだ。

いくつかの小さい屋根を連なるように配置することで、小さい家々が並ぶ由布院の集落の風景に溶け込むように設計。また、木や土、和紙、水といった素材を効果的に活用することで、長い年月の中での建物と自然の共存を図っている。

外壁材として美術館を覆う黒い素材は、焼杉。由布院の風景に黒色の素材が滲み、由布岳や周辺の景色をよりくっきりと浮かび上がらせる。焼杉は遠目では単一的な黒色だが、近くで見ると木材の質感や温もりを感じられる。その素材が持つ特性は、時間が経つにつれさらに深みを増していく。

2022年に増築された展示エリアは由布院の多面的で洗練されたイメージをかたちにした。焼杉の黒い外壁を大きく逆勾配とすることで、空へと伸びていく建物の先端は敷地により多くの空間を生み出す。建物の隅々まで視線を這わせると、光や水、そして風を取り込んだ建築を感じられる。

©YAYOI KUSAMA

本館1階の既存ギャラリー内、水盤を隔てガラス越しに向かい合う2室に草間彌生氏の「かぼちゃ」や「インフィニティ・ネット」など20数作品に及ぶ平面作品を展示。眼前に由布岳を望む2階のオープンギャラリーには奈良美智氏の「Your Dog」に加え、森万里子氏、名和晃平氏の立体作品を展示。

新館1階に展示する宮島達男氏の立体作品と併せて本館2階のオープンギャラリーの3つの立体作品は、由布院という様々な人が訪れ賑わいを持ちながらも自然豊かな土地に合わせ制作された。豊かな自然の中で作品と向き合う時間は、ここでしか味わえない特別な体験を生み出す。

さらに、村上隆氏、杉本博司氏の作品は一部展示替えを行い、リピーターにも新たな楽しみを届ける。

建築家
隈研吾(くま けんご)
1954年生まれ。隈研吾建築都市設計事務所主宰、東京大学特別教授・名誉教授。1964年東京オリンピック時に見た丹下健三の代々木屋内競技場に衝撃を受け、幼少期より建築家を目指した。内田祥哉、原広司に師事。アフリカのサハラ砂漠を横断し集落の調査を行った大学院時代に、集落の美と力にめざめ、その土地の環境や文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案。また、コンクリートや鉄に代わる新しい素材の探求を通じて、工業化社会の後の建築のあり方を追求している。

現代美術との融合したロゴ

COMICO ART MUSEUM YUFUINのロゴは、正方形におさまるデザイン。美術館の入口に施されたロゴ看板には、無垢のステンレススチールを使用し、必要以上の造形がない最小限のデザインが現代美術との融合を表現している。

象徴的な正方形という形は、人間が産み出した極めて人間らしい形の原型。建築物が持つ木や紙など「和の素材構成」と無駄のない「ミニマルな空間」という個性を引き出しつつ来館者が素材と自然に心を通わせられるような、現代性を基調とする簡潔なデザインがされている。

原研哉(はら・けんや)
1958年生まれ。日本デザインセンター代表取締役社長、武蔵野美術大学教授。デザインを社会に蓄えられた普遍的な知恵ととらえ、コミュニケーションを基軸とした多様なデザイン計画の立案と実践を行っている。2002年より無印良品のアートディレクターを務める他、蔦屋書店、GINZA SIX、MIKIMOTO、ヤマト運輸のVIデザインなど活動の領域は多岐に渡る。一連の活動によって国内外のデザイン賞を多数受賞。2019年にはウェブサイト「低空飛行」を立ち上げ、個人の視点から高解像度な日本紹介を始め、観光分野に新たなアプローチを試みている。

《Infinity-Nets》
草間 彌生

©YAYOI KUSAMA

網目模様が無限に広がる《インフィニティ・ネット》。草間の代名詞ともなっている水玉模様を写真でいう「ポジ」と捉え、その地になる網目模様が「ネガ」であると彼女は語る。ひとりの人間、世界、そして宇宙までもが計り知れないほど多くの粒子で構成されている。粒子のような水玉の残骸である網を寄せ集めることによって、草間は果てしない宇宙の中ではたったひとつの水玉に過ぎない自らの生命を見ようとした。由布院という小さな町は、そこに暮らす人々や訪れる人々によってその存在が目に見えるものとなる。由布院の存在はこの地を愛する人々によって証明されると言えるだろう。

草間 彌生(くさま・やよい)
1929年長野県生まれ。幼少期より幻覚や幻聴に悩まされていた草間は、作品制作に没頭することで心のバランスを保ってきた。1957年に単身渡米しニューヨークを拠点に活動し、ネット・ペインティング、ソフト・スカルプチュア、鏡や電飾を用いた革新的なインスタレーション作品を発表。さらにボディ・ペインティング、ハプニング、ファッション・ショー、映画など多様な表現を欧米で展開。1973年に帰国後、活動拠点を東京に移し美術制作に加え詩や小説の文筆活動も行っている。2017年には「草間彌生美術館」(東京都)が開館。

《Time Waterfall》
宮島 達男

《Time Waterfall》を直訳すると、時の滝。そのコンセプトは「現在に生きる」。大小さまざまな数字が滝のように降り注ぎ二度と戻らない時間を象徴している。それぞれの数字は異なる速度で現れ、複雑な視覚効果を生み出す。それは、現在に生きる人々の人生が絶え間なく進み、時には他の人の人生と重なりながら過ぎていくことも意味する。

観光地として賑わう由布院では、そこに長年暮らす人々、土地に惚れ暮らし始めた人々、土地に憧れ訪れる人々、その様々な人生が交差する。自分の時間を感じながら、他人との時間を共有する。ここではまさに、宮島の掲げるコンセプトを体感できると言えるだろう。

宮島 達男(みやじま・たつお)
1957年東京都生まれ。宮島の作品は「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づく。1980年代半ばからLEDを用いて1から9までの数字が変化するデジタルカウンターを使ったインスタレーションや立体作品を中心に制作を行ってきた。LEDは「0」で消灯し、しばらく暗くなると再びカウントを開始する。この数字は生から死への旅を表しており、仏教の生まれ変わりと再生の考えを象徴している。1988年ヴェネツィア国際ビエンナーレでの作品で国際的な注目を集め、それ以来国内外で数々の展覧会を開催し30カ国250か所以上で作品を発表した。

《海景》
杉本 博司

杉本の代表作のひとつでもある《海景》シリーズは、「古代人が見ていた風景を現代人も見ることは可能なのだろうか」という杉本が自身に投げかけた問いから生まれた。そこに映るのは空と海。たったそれだけが古代から現代まで変わらない風景だと杉本は考えた。そしてそれは、彼の初めての記憶として残る心象風景でもあった。海景シリーズの第一号であるカリブ海、湖面から立ち昇った水蒸気が空を覆いつくし幻想的なスペリオール湖、霧の海の撮影に初めて成功したエーゲ海など、300点を超えるシリーズの中から5作品を展示。当館では、この海景が納められた《光学硝子五輪塔》も併せて展示している。杉本は自分自身の心象風景である海景を意識の源として《光学硝子五輪塔》の中に閉じ込めた。

杉本 博司(すぎもと・ひろし)
1948年東京都生まれ。杉本の活動分野は、写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐に渡る。彼の作品は、歴史と存在の一過性をテーマとしている。そこには、経験主義(人間の全知識は経験に由来するという考え)と形而上学(かたちを持っていないものを認識しようとする学問)の知見をもって、西洋と東洋との狭間に観念の橋渡しをしようとする意図がある。時間の性質、人間の知覚、意識の起源といったテーマがそこでは探求されている。2008年には建築設計事務所「新素材研究所」を、2009年には「公益財団法人小田原文化財団」を設立。

そのほかにも、村上 隆氏の代表的なモチーフのひとつである花を描いた「Kawaii! Vacances d’été: Above Us, the Azure Sky」。奈良美智氏による、由布岳の麓に佇む犬の彫刻作品「Your Dog」。九重連峰から採取した砕石のフィールドに太陽の反射光を放って煌めきながらそびえ立つ名和晃平氏の「Ether(lava)」。森万里子氏が由布岳に捧げる想いで制作したという「Eternal」なども展示されている。

© Yoshitomo Nara 2017

由布院の自然のささやきを聴きながらアートと建築を堪能してみてはいかがだろうか。

COMICO ART MUSEUM YUFUIN
住所|大分県由布市湯布院町川上2995-1
開館時間|9:30~17:30 (最終入場 16:00)
休館日|隔週水曜日
料金|一般 1700円、大・専門学生 1200円、高中生 1000円、小学生 700円、子ども(未就学児)無料
※オンライン予約で各200円割引
https://camy.oita.jp/

Photo: ©NHN JAPAN Corp.

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