沖縄が誇る名居酒屋
《うりずん》の秘密【後編】
夜の帳が下りる頃、那覇の社交街栄町でひと際賑わいを見せる店がある。沖縄が本土復帰を果たした1972年の8月15日より歴史を刻む、古酒と琉球料理「うりずん」だ。創業者、故・土屋實幸がこの店に込めた想いを、彼を愛した仲間たちの声からひも解いてみた。
平和の祈りを込めた100年古酒。
仕次ぎは沖縄の伝統、
古酒はうちなーの誇り
古酒は泡盛を熟成させたもの。古い酒に新しい酒を継ぎ足し、活性化させる沖縄伝統の仕次ぎという手法でつくられる。戦前の首里には200年ものの古酒があったという。
泡盛は生き物だ。甕や瓶の中で人間同様に生きて成長し、年を取る。
「あの忌まわしい戦争がなかったら、私たちは泡盛の100年古酒をすでに飲むことができたかもしれない」という思いの下、土屋は同士とともに「泡盛百年古酒元年」を立ち上げた。
毎年会員を募ってその年に造られた全酒造所の泡盛を購入し、これらをブレンドして甕に納める。
「泡盛百年古酒元年」で購入した泡盛を貯蔵してほしいと、土屋から依頼を受けたまさひろ酒造の比嘉昌晋代表取締役会長は、土屋の思いに感銘を受け、快く引き受けた。その後は毎年、糸満のまさひろ酒造で仕次ぎの儀式を開催。2015年に土屋がこの世を去ってからも預かりは続き、8年間の予定が、いつしか20年以上となっていた。
うりずんの長年の常連で、元琉球朝日放送社長の上間信久さんは言う。
「沖縄が中国との交易を成功させたのは、沖縄のおもてなしの道具、泡盛と料理、芸術や芸能があったから。土屋さんはうりずんで沖縄のおもてなしを具現化したのだと思います。『信久、まくとぅそーけー なんくるない(まことに至ると、天に通じてかたちになる)』と、おっしゃっていた。また、土屋さんの声が聞きたいですね」
栄町で沖縄そば店「つばめ 御茶屋御殿」を営む次女の光代さん。
「父は悔しさを秘めた人だった。それは、貧乏や差別からくるものだったかもしれない。いつも言っていました。“全銘柄を揃える店はたくさんあるが、自分が負けない理由は古酒さ。誰もパパには追いつけないよ”と」
二度と沖縄を支配させない、うちなーの誇りを土屋は古酒に込めたのだ。
県内外で修業後、20年前にうりずんの調理場に入った長男の徹さんが、うりずんの2代目になって7年。「『泡盛百年古酒元年』はしっかり受け継いでいます。時代に流されず、料理もスタイルも変わらないうりずんを、大切にしていきたいと思います」
ほぼ全酒蔵の泡盛飲めます!
うりずん
住所|沖縄県那覇市安里388-5
Tel|098-885-2178
営業時間|17:30〜24:00
定休日|なし
text: Kiyomi Gon photo: Kengo Tarumi
Discover Japan 2022年7月号「沖縄にときめく/約450年続いた琉球王国の秘密」