三代小川長樂 襲名30周年記念展「歌枕の地を旅して」
和歌をテーマにした作品から、日本人の美意識を探る
![<small>三代小川長樂 襲名30周年記念展「歌枕の地を旅して」</small><br>和歌をテーマにした作品から、日本人の美意識を探る](https://discoverjapan-web.com/wp-content/uploads/2022/03/ogawa_3.jpg)
茶人・千利休が大成した茶の湯の世界観にふさわしい茶碗を京都の陶工・長次郎が表現した「楽焼」。三代小川長楽氏は、桃山時代に生まれたその独特な技術をいまに伝えている。そんな三代長楽氏の襲名30周年を記念した展覧会が、2022年3月9日(水)から14日(月)まで東京・日本橋三越本店にて開催。本展で展示される作品の一部を紹介しよう。
三代小川長樂(さんだい おがわ ちょうらく)
1947年に二代長楽の長男として生まれる。1984年に通商産業大臣奨励賞を受賞。1992年に醍醐寺麻生文雄門跡にて「松風軒」の号を受け、皇太子殿下御成婚を奉祝し、初作『赤・白一双茶盌』を献上、三代長楽を襲名する。『醍醐花見短籍見立て』を皮切りに、『百人一首見立て茶盌』、『高台寺・三十六歌仙 歌見立作品』 、『松尾芭蕉 野ざらし紀行』など、詩を題材にした樂焼に独自の世界観を築いている。京都伝統陶芸家協会会員、楽窯会会長、京都国際工芸センター副理事長。
手づくねと釉薬で表現する
一期一会の世界
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室戸「法性の 室戸といえど 我が住めば 有為の浪風 よせぬ日ぞなき(空海)」
およそ400年前、千利休の思想のもと、茶を喫するために生まれた日本独自の焼き物である「楽焼」。ロクロを用いず、掌の中でゆっくりと自然に立ち上げる「手づくね」と、鉄ベラでひと削りひと削り吟味し削り出す彫刻的なヘラ削りでかたちづくり、屋内に備えた小規模な内窯から固く焼締まる前に引き出し、急激に冷却することで生まれる軟質陶の楽焼は、大量生産と対極的な一品制作を求め、一生に一度限りの出合いを尊ぶ「一期一会」の世界をもっている。
「長楽窯」は、1906(明治39)年に京都にて開窯したのがはじまりだ。後援者との交流や同時代の陶芸家・画壇との切磋琢磨の中で、徐々に自らの世界を切り開いた初代長楽は、新たな環境を求め岡崎に移窯。良土との出合いにも恵まれ、さらに作陶に邁進し、長楽窯の基礎を築いた。
二代は若くして国から技術保存作家の指定を受け、伝統様式を踏まえながらも新しい創意に挑戦し、初代から続く長楽家の家風を確立。
初代を祖父、二代を父とする三代は、1992(平成4)年に襲名。以来「見立作品」を長年ライフワークとしており、『百人一首』や『高台寺三十六歌仙』、松尾芭蕉の『おくのほそ道』など、詩歌をテーマに自身の創作と和歌や俳句が紡ぐ情景を重ね合せ、独自の世界観を築いている。
今回の展覧会では「歌枕」を題材に、三年の歳月をかけ、北は青森県の龍飛崎から南は鹿児島県の黒之瀬戸まで、和歌に詠まれた歌枕の地を訪れ、各地で得た想いを作品へと昇華。1400度を超える窯の中から引き出した焼貫引出大壷や香具山をイメージしたむくりのついた陶筥、炎の流れによって彩られる貫入茶盌などの新作約70点が展覧される。
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塩の山「しほの山 さしでの磯に すむ千鳥 君が御世をば 八千世とぞなく(詠み人知らず)」
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外の浜「陸奥の おくゆかしくぞ 思ほゆる つぼのいしぶみ 壷碑 そとの浜風(西行)」
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嵐山「朝まだき 嵐の山の 寒ければ 紅葉の錦 着ぬ人ぞなき(藤原公任)」
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松島「たちかへり 又もきて見む 松島や 雄島のとまや 浪にあらすな(藤原俊成)」
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鹿島「あられ降り 鹿島の神を 祈りつつ すめらみくさ 皇御軍に 我は来にしを(上丁大舎人部千文)」
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面影山「我が背子が おもかけやまの さかゐまに 我のみ恋ひて 見ぬはねたしも(大伴坂上郎女)」
和歌や俳句が詠まれた日本各地を旅して三代長楽氏が感じた「不易流行(ふえきりゅうこう)」への挑戦。日本人の心の奥に宿る美意識を込められた作品を、実際に目で見て体感してみてはいかがだろうか。
襲名三十周年記念
三代小川長樂作陶展 -歌枕の地を旅して-
会期|2022年3月9日(水)~3月14日(月)
会場|日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊
住所|東京都中央区日本橋室町1-4-1
時間|10:00~19:00 ※最終日は~17:00