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《京都・高山寺で国宝の謎に迫る》
特別拝観で触れる『鳥獣戯画』の魅力

2021.11.5
<small>《京都・高山寺で国宝の謎に迫る》</small><br>特別拝観で触れる『鳥獣戯画』の魅力
宴会のために、酒壺やごちそうを運ぶウサギとカエルたち。いまも昔も気合いは変わりません

国宝『鳥獣戯画』を所蔵する京都・高山寺では2022年3月31日まで、執事長が境内について案内する特別拝観を実施中。『鳥獣戯画』を目にしていてもその背後にある成立の過程や技法までは知らないという人もきっと多いはず。今回は『鳥獣戯画』を語るために押さえておきたいポイントから、高山寺のめぐり方まで、たっぷりと紹介します。

日本最古の漫画といわれる国宝『鳥獣戯画』
キャラクターの巧みなデフォルメや動きのある描写などから「漫画・アニメーションの祖」と手塚治虫や高畑勲からも賞賛されてきた鳥獣戯画。吹き出しのような効果線や、場面転換に用いる「すやり霞」、時間の経過を表す「異時同図法」など、現代に通じる技法の数々にも注目。

ウサギとカエルチームで対決しているのは平安時代の宮中で行われていた年中行事「賭弓(のりゆみ)」

おそらく日本で最も有名な絵巻、鳥獣戯画。正式名称は『鳥獣人物戯画』。甲・乙・丙・丁の4巻によって構成された国宝で、文字もストーリーもなく、墨の筆線のみを用いた白描画で描かれているのが特徴だ。

ではその国宝がいつから高山寺にやってきたのか、その経緯、詳細は不明。資料により室町時代後半には高山寺に存在していた説だけがある。また制作時期に関してもあいまいで、甲・乙巻は平安時代の同時期に、丙巻は平安〜鎌倉時代、丁巻は鎌倉時代に成立したとされる。制作時期や筆致から、複数の制作者がいたと推定され、近年は寺院に属する絵仏師とする説と、宮廷絵師とする説が有力だという。

何枚もの紙をつなげてつくられているため、保管と伝来の過程で順番が入れ替わる「錯簡」や、紙が切れ切れになった残欠「断簡」が発生。制作当初とは作品の姿が異なる。しかし、現在の状態になる前に模写された「模本」を手掛かりに明らかになったことも多い。たとえば甲巻は第1紙の前にも脱落があったことがわかっている。

ウサギや猿が水遊び中。鼻をつまんで入水する人間味あふれるウサギに注目

2009年から2014年にかけて行われた「平成の大修理」では、甲巻の前半と後半は異なる紙を用いていることが明らかになった。これにより甲巻は2巻本であったことが判明。一方で、乙巻は甲巻後半と同じ材質の紙を使用しており、その筆致も似ていることから同一人物によるものではないかとの見解も発表されるようになった。このほかにも、丙巻はもともと1枚の紙の表裏に描かれており、「相剥ぎ」という技術で表面と裏面を剥がしてつなぎ合わせ、一本の巻物にしていることもわかった。すると表裏で絵師と制作年代が異なる可能性も出てくる。このように近年の研究での発見も多く、それが新たな議論を呼ぶ。だからこそ私たちは鳥獣戯画から目が離せない。

知っておくとさらにおもしろい!
登場する動物&名場面

クスっと笑えるカエルの相撲技
カエルが「河津(蛙)掛け」を決め取り組みに勝利した場面。ダジャレの利いた決まり手に吹き出してしまいそう
おしゃれな猿のお坊さんの衣装
立派な袈裟のサルの僧正。サルは強欲な生き物として描かれることが多くこの後にんまりと献上品を受け取る姿が
ウサギが猿に貢いだものとは……
僧正への献上品に虎の毛皮を抱えるウサギ。当時日本に虎は生息せず、手に入るのは舶来品のみで高価なもの

【甲巻】

甲巻:第19紙〜第23紙
袈裟を着たサルの僧正が蛙の本尊の前でお経を唱えている。祇園祭の起源でもある疫神怨霊を鎮める祭礼、御霊会が描かれているという一説も

名場面多数!人間さながらの動物たち
4巻の中で最も知名度が高く、平安時代に日本で生息した11種類の動物が登場。まるで人間のような姿が印象的だが、中には猪や鹿など擬人化されていない動物も。ススキや落ち葉から秋を舞台にしていることがわかる。

【乙巻】

乙巻:第29紙〜第32紙
右から龍、象、獏。合成獣のような姿の獏は病や邪気を払うと信じられてきた。現代におけるアマビエさまが獏だった……なんてことも?

計16種類の動物が次々に現れる動物図鑑!
動物のみで構成されている巻だが、いずれも擬人化はされていない。前半は日本に生息する動物を、後半には大陸に由来する珍獣や空想上の霊獣までを写実的に表現している。背景はあるものの物語性はなく動物図鑑のよう。

【丙巻】

丙巻:第5紙〜第10紙
民衆の遊びをのぞき見ているかのような人物戯画。右の首引きでは老尼と若い僧が対戦。老尼のほうが劣勢と思いきや、若い僧のほうが苦戦中!?

甲巻と内容がリンク!?人物戯画と動物戯画
前半ではさまざまな遊びに興じる人間を、後半では甲巻と同じく擬人化された動物が描かれる。途中から主題が異なる点が長年の謎だったが表裏をつなぎ合わせていたことで解消。もとは落書きだったのではないかという意見も。

【丁巻】

丁巻:第4紙〜第9紙
甲巻で描かれた猿僧正による法会をほうふつとさせるシーン。僧正の口から出る吹き出しのような線や扇を持つ僧など、細部まで再現されている

実は高度な技術で描かれた、唯一人物主体の巻!
ほかの巻とは異なり、線描は太く即興的、墨色が淡いなど特徴的な巻。肖像画などに見られる「似絵」の描法を用いた箇所など独自表現も目立つ。甲巻に登場する動物の遊戯や儀式を逆に人間が行うというパロディが見どころ。

 

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text: Minami Mizobuchi(arika inc.) photo: Sayuri Ono photo courtesy: kosanji
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