不足の美、四十八茶百鼠、不易流行…。
日本の伝統に息づく哲学はビジネスにも生きる【中編】
「日本の伝統に息づく哲学には、現代のビジネスに応用できるヒントがある」という考えの下、電通Bチームと小誌が立ち上げたDiscover Japan Concept。今回、SDGsに通ずる言葉(極意)をメンバーと語り合いました。
工夫することでSDGsを楽しむ
山 岡倉天心の『茶の本』を読んでいておもしろかったのが「茶道の根本は不完全なものを敬う心にある」という考え。まさに不足の美を説いていて、SDGsでは、食糧や水資源、エネルギーの過剰消費がひとつの課題となっていますが、足りないことや使わないことの中に、美しさや楽しさを見出していかないと、それこそ持続可能ではないと思います。
上 多様な視点が必要ですよね。トップダウンの考えではなく、市井の現場の声を聞くことも重要です。
高 足りないとは少しニュアンスは異なりますが、四十八茶百鼠にもつながると思います。これは江戸時代に贅沢が禁止され、制限の中でも楽しんだ粋な考え。SDGsも目標に向けた「義務」と思うのではなく、その中でも「楽しもう」という考えで工夫して取り組むことでより促進されると思います。
ナ 「工夫」という言葉から連想したのは、剣道の三磨の位。SDGsの「質の高い教育をみんなに」という部分で、みんな習うけど、それをどう工夫すればよいかは教えてもらえていない気がして。一人一世界をもっているのであれば、それをどのように工夫して社会やほかの一世界に適応させていくか、そこを試す場が少なくなってきている気がします。
倉 日本は昔から習いと稽古ばかりしていますよね。その先で「どう工夫するか」という考えが欠けている。まず一人一世界という考え方でオンリーワンの視点を育み、それを三磨の位の「工夫」でブラッシュアップする。これから未来に向けて新しいことをする人々にとって一番大事なことだと感じています。
ナ その工夫をアップデートするのが捨て育ちだと思います。自ら観察してポイントをつかみ、まねをする。そして自分の一世界でアレンジして、自分のものにしていく。
山 「質の高い教育をみんなに」も、受け身の教育ではなく、自分で学び、自分の一世界をつくっていこうととらえると、まったく違って見えてきそうですね。
倉 教育で自主性を育まないとね。そうじゃないと、SDGsも国連が言うからやる、という受け身が多くなる。
山 フレキシブルな取り組みが文化になることもあって、崩しはまさにそう。これは時間の流れが織り込まれたコンセプトで、書くことを省エネにしていったら、そこから平仮名という文化が生まれた。SDGsの目標は国連が決めましたが、時間を経て人や企業が工夫する中で、新しい文化が生まれたりするとおもしろい。
倉 崩しといえば、書家の華雪さんのワークショップが興味深かった。平安時代の平仮名の「あ」を並べて、「どれが正しい『あ』ですか?」と聞かれたのですが、答えは全部。いまは文科省が正しい「あ」を決めていますが、本当はひとつだけの正解なんてない。そもそも平仮名は、『枕草子』や『更級日記』など女性の日記からはじまっていて、それによって日本文化のやわらかさ、しなやかさが生まれた。平仮名を見るたびに、女性がつくった、女性活躍、と思い出すべきです。
上 多様性とジェンダー平等が、1200年以上前から芽吹いていたんですね。
ナ 伝統を大事にしながら変化も受け入れる文化は日本特有ですよね。不易流行を実践している。日本で何百年と続く老舗企業がたくさんあるのは、たとえば流行を積極的に取り入れる西海岸とは違い、伝統という軸がありながら時代によって革新をうまく取り入れているからだと思う。SDGsの「産業と技術革新の基盤をつくろう」にもつながる気がしていて、日本古来のバランス感覚にSDGsをうまく続けるヒントがたくさんあると思います。
text: Ryosuke Fujitani
Discover Japan 2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」