共存共栄、離見の見、一人一世界…。
日本の伝統に息づく哲学はビジネスにも生きる【前編】
「日本の伝統に息づく哲学には、現代のビジネスに応用できるヒントがある」という考えの下、電通Bチームと小誌が立ち上げたDiscover Japan Concept。今回、SDGsに通ずる言葉(極意)をメンバーと語り合いました。
倉成 英俊(くらなり・ひでとし)
電通Bチーム元代表。Creative Project Base代表。Discover Japan Conceptの発起人
キリーロバ・ナージャ
電通Bチーム所属。2015年、コピーライターランキング世界1位のほか受賞歴多数
山根 有紀也(やまね・ゆきや)
電通Bチーム所属。薬学専攻後にプランナーへ。「人の知覚と認知の仕組み」に興味あり
上江洲 佑布子(うえす・ゆうこ)
電通Bチーム所属。分子調理とハープを嗜むシニアコミュニケーションデザイナー
高橋 俊宏(たかはし・としひろ)
小誌編集長。倉成さん率いる電通BチームとDiscover Japan Conceptを立ち上げる
一世界を客観的に見る
──これまで、多様な日本古来のコンセプトを採集してきましたが、その中でSDGsにも生かせると感じる言葉を教えてください。
上江洲(以下、上) 私は、最近知った、精進料理の生態系を守る考え方にヒントがあると思いました。食材をひとつのところから取り過ぎず、場所を変えることで環境を維持しながら美味しく食べ続けることは、サステイナブルに通じます。
倉成(以下、倉) 確かにサーキュラーエコノミーも先取りしているね。
上 これは、資源を使うどの業種にも応用できる考え。経済と環境、人間の幸福度のバランスを取りながら持続させていくという部分は、すでに精進料理が実践している大先輩だと思います。
高橋(以下、高) それは包括的にとらえるという意味で共存共栄にも通じますよね。兵庫・城崎温泉では、若旦那衆が街をひとつの旅館ととらえ一社が利益を独占せず、ともに栄えるような取り組みをしています。
倉 駅は玄関、道路は旅館の廊下、街の飲食店は食堂と考えている。さらに来街者に街をめぐってもらえるよう、各旅館内に、大々的にお土産物店を置かなかったりと、仕組みを徹底されているのが素晴らしい。
山根(以下、山) 不二の考えともつながりますよね。たとえば身体と環境は一見別物に見えるが、実はひとつだということ。医学的には、人と外界は皮膚で区切られた別物ですが、その皮膚は絶えず呼吸し、入れ替わっている。その意味で「私は環境そのもの」。この視点は、サステイナビリティを考える上でとても大事です。
倉 共存共栄と不二の「分けられない」という考え方は、SDGsの全体をとらえている大きな概念ですね。
ナージャ(以下、ナ) 私は一人一世界がSDGsのヒントになると思います。ジェンダー平等もそうだし、日本は個性を消して人と違うことがよしとされない時代もありましたが、多様な個性をもつ人が集まるからこそ成し遂げられることがある。共存共栄になったときも、それぞれの世界があるからこそ、さまざまな視点で助け合えると思います。
倉 一人一世界は、多様性の視点で、日本人がいま知るべきコンセプトだと思う。
ナ その一世界を客観的に見るためには、能の離見の見を取り入れることが大事だと思います。客観的に見ることでほかの人に一世界を伝えられるし、新しい発見にもつながる。
text: Ryosuke Fujitani
Discover Japan 2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」