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サーリネンとフィンランドの美しい建築展
サーリネンが築いた建築とは。

2021.8.21
サーリネンとフィンランドの美しい建築展<BR><SMALL>サーリネンが築いた建築とは。</SMALL>

ポホヨラ保険会社ビルディングの中央らせん階段 Photo © Museum of Finnish Architecture / Karina Kurz, 2008

1900年パリ万国博覧会のフィンランド館を設計して以来、住宅や公共施設の設計、家具デザインなど幅広い分野で活躍したエリエル・サーリネン。日本にも多くのファンをもち、フィンランドのモダニズムの原点を築いたといわれている建築家だ。この展覧会では、彼が渡米する1923年までの時代に焦点を当て、図面や写真などの貴重な資料を展示されている。

サーリネンとフィンランドの美しい建築展
の見どころと特徴


エリエル・サーリネン《ヴィトレスクのサーリネン邸の寝室の椅子》
1902-1903年頃、製作:おそらくフィンランド手工芸協会、 フィンランド国立博物館

フィンランドの独立の足がかりを築いた1900年パリ万国博覧会フィンランド館
サーリネン達が設計したフィンランド館はセーヌ右岸の万国通りに建てられ、東西約40メートル、幅約10メートルという規模で、中世の教会のような外観だった。建築を装飾するのはクマ、カエル、リスといった自然界の仲間たち。この展覧会ではCGと新規制作模型(縮尺1:100)で、このフィンランド館を楽しめる。

英国アーツ・アンド・クラフツがかかげた理想を、
北欧で現実のものとしたサーリネンの暮らしのデザイン
19世紀後半に、イギリスのウィリアム・モリスが理想とした中世風の手仕事による美しい暮らしの環境の実現は、その高い理想がゆえに矛盾をはらんでいた。しかし、サーリネンらの北欧デザインは、豊富な森林資源を背景に芸術と産業の協働をみごとに実現させた。家具や陶磁器、テキスタイルなど北欧の様々な暮らしのデザインを見ることができる。

アアルトもあこがれたエリエル・サーリネン。
彼が築いたフィンランドのモダニズムの原点
近代建築の巨匠アルヴァ・アアルト(1898-1976)に代表されるフィンランドのモダンデザイン。その原点を築いたのが、エリエル・サーリネンだ。フィンランド人に愛されるその格調高いデザインを、ドローイング、家具デザイン、都市・建築に、多角的に紹介する。

第1章 フィンランド独立運動期
「スオミ」の建築家エリエル・サーリネンの誕生


1900年パリ万国博覧会フィンランド館、ラハティ市立博物館

20世紀の幕開けに大々的に開催された1900年パリ万国博覧会において、サーリネンは共同設計事務所の仲間ゲセリウス、リンドグレンとともにフィンランド館の設計を担い、一躍スポットを浴びた。

この展覧会では文献・資料調査をもとに模型をあらたに制作しフィンランド館を紹介。加えて、民族叙事詩『カレワラ』から着想された独特な建築装飾が美しいポホヨラ保険会社ビルディング(1901年竣工)や、貴重なオリジナル図面の展示で紹介する、ナショナル・ロマンティシズムの代表的作品フィンランド国立博物館(1912年竣工)といった初期の大作も公開される。

第2章 ヴィトレスクでの共同制作
ゲセリウス・リンドグレン・サーリネン建築設計事務所

ヴィトレスクのサーリネン邸のダイニングルーム Photo : Ilari Järvinen / Finnish Heritage Agency, 2012

ヴィトレスク(1902年)は、彼らの設計事務所兼共同生活の場として、ヘルシンキ西方の美しい湖畔に設計された。ヴィトレスクは自然のなかの暮らしの理想を体現し、また、建築と暮らしのデザインが融合した総合芸術の作品でもあった。そこには英国のアーツ・アンド・クラフツ運動の影響もうかがえる。

ここはサーリネンの建築の原点であり、三人のうち唯一彼だけは、フィンランドを離れるまでの約20年もの間、自邸兼アトリエとして家族と住み続け、渡米後もほぼ毎年帰省している。この展覧会ではメインルームや寝室で用いられていたサーリネンのデザインによる家具を展示、加えてダイニングルームを空間再現し、ヴィトレスクを紹介する。

第3章 住宅建築
私的な空間へのまなざし

エリエル・サーリネン《スール=メリヨキ邸、広間の透視図》1902年、フィンランド建築博物館

サーリネンがフィンランド時代に手がけた住宅作品をとりあげる。ここには優美なインテリアデザインと、近代的な合理性が調和する、快適な内部空間の追求が見られる。室内装飾も含めたトータルデザインが意識されていたことは詳細に描きこまれた彩色の美しい室内の透視図からも、うかがえる。

3人の共同建築設計事務所が手がけたウーロフスボリ集合住宅・商業ビルディング(1902年)やエオル集合住宅・商業ビルディング(1903年)の他、個人の邸宅を、写真や図面、建築ドローイングといった資料で紹介。またテーブルウエア、テキスタイル、家具といった暮らしを彩るデザインを併せて楽しめる。

第4章 大規模公共プロジェクト
民族性と公共性の融合


夜のヘルシンキ中央駅玄関、エーミル・ヴィークストロムによる彫像《ランタンを持つ人》
Photo © Museum of Finnish Architecture / Foto Roos

ヘルシンキ中央駅の駅舎は、1904年の設計競技でサーリネンが個人名で1等を獲得したものの、ナショナル・ロマンティシズムの作風による外観への反発によりデザイン論争が起きたため、10年以上もかけて設計変更を加えながら完成された。

中央の大きなアーチを持った入口、その両側のランタンを捧げ持つ巨人像、時計台などの造形からは、新しいフィンランドらしさの表現を、サーリネンが獲得したことが分かる。サーリネンはこの中央駅の設計に並行して駅周辺の整備にも携わり、これは独立国家となってからヘルシンキ市全体の都市計画に繋がっていく。また国会議事堂計画案、紙幣のデザインといったサーリネンが携わった国家プロジェクトも紹介する。

ナショナル・ロマンティシズムとは
19世紀ヨーロッパ文学界におけるロマン主義を起源として、北欧や中欧に広まった民族のアイデンティティを意識した諸芸術の表現。フィンランドではスウェーデン語を公用語としていた知識層が、民衆の用いるフィンランド語と固有の文学を再評価したことが端緒となり周辺分野に影響を与えました。民族の固有性と結び付けて、自然風土をデザインに取り入れたゲセリウス・リンドグレン・サーリネン建築設計事務所の1900年前後の作風は、その代表的なものとされる。

生涯を通じて自然との調和を重視したエリエル・サーリネンの作品は、建築はどうあるべきか、現代の私たちに語り掛けてくれるだろう。

サーリネンとフィンランドの美しい建築展
開催期間|〜2021年9月20日(月)
開館時間|10:00〜18:00(入館は17:30まで)
※9月3日(金)は夜間開館20:00まで(入館は19:30まで)
会場|パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
休館日|水曜
入館料|一般 800円、65歳以上 700円、大学生 600円、中・高校生 400円、小学生以下無料
※障がい者手帳を提示の方、および付添者1名まで無料で入館可能。
https://panasonic.co.jp/ls/museum/

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