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山本亮平さんの
「おおらかで気持ちがいいうつわ」
高橋みどりの食卓の匂い

2021.5.23
山本亮平さんの<br>「おおらかで気持ちがいいうつわ」<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)など

4年ほど前のこと、作陶展のはがきにあった一枚の小皿に惹きつけられました。初日に駆けつけ手に取れば、まさにいまの自分が欲していたものと実感。白瓷小皿2枚、山本亮平さんのうつわとの出合いでした。

たくさんのうつわに触れてきて、撮影目線もあるけれど、ここ数年は、あくまで自分が使うのなら、という見方に徹しています。うつわは使うことによって成立すると思っているし、そうした自分自身の食の時間がとても充実していたので、そんな思いを共有したい。いまの自分が欲する料理を思い、それに似合ううつわを自身で探してみようという提案をしたいのです。

まさにそのときに出合った山本さんの小皿に、なんでもないけれどなんでもあるような存在を感じたのでした。日々の食卓は、昔に比べて味付けも量的なこともだいぶ軽やかになってきています。それに伴ってうつわも、料理に寄り添うかたちのものになっている。以前なら、ささっとつくったものをざっくりと盛る気分だったのが、いまではうつわとの共有したかたちに「美味しそう」と静かに感じ入り、味わう。歳を取ったのね……と思えばそうだけれど、そう思える余裕も出てきたのなら、なおうれしい。ことにまだ続く長い自宅時間での三度の食は、よりそんな思いが大切なことと痛感します。

次の山本さんの個展では、春の風をまとったような浅鉢、染付砂目積花卉文皿を。繊細でありながらどこかのんびりとしていて、うっすらとした青い草花の染付がはかなげに美しい。いままでなら手にすることのなかっただろう華奢なうつわに、思わず心がはやり料理をつくりたくなりました。軟らかい春のヤリイカと、薄切りにしたセロリの和え物を盛り、冷えた白ワインといただく。うつわに料理が呼ばれたという気分です。

そして迎えた前回のオンライン展覧会で得た2個の白瓷そば猪口。微妙に味わいが違い、窯変具合が愛らしくも思える。手に収めると気持ちよく身体に馴染むようでした。これらに感じる高揚感がどこからくるのかを確認したく、山本さんにお話をうかがいました。

制作にあたって、かつてはかたちや、表現することに重きを置き、初期伊万里に見る奔放なつくりに近づけることもしたけれど、そうしていくうちにうつわの成り立ちへ思いが向いた。住まう地からは当時の陶片も出てくる。そんな環境にいながら材料である石を掘り砕くうち、かつての陶工のごとく自分で土をつくり、練る、ろくろを挽き成形し、素焼きもせず絵付けをし、釉薬をかけ焼く。薪窯ができたことでゆだね、なすがまま自然にできる状態を楽しむようになった。にじんでもはみ出してもその必然を生かしたいと思う。

うつわ表記の文字、“白瓷”をあえて使うのは、一般的な白磁という格式張った意味をもつものよりも、ただ白くて、硬くて、釉薬がかかったものとしてのおおらかなくくりでの表現にしたかったから、と。

聞きたかったことの答えは私の身体の中にするりと入った。私が感じる気持ちのいいうつわには、一切のよどみもなく、強く惹かれる理由があった。

山本亮平さんの「染付砂目積花卉文皿」(約φ185×50㎜/6600 円)。素焼きをしない状態で絵付けや施釉をする「生掛け」で製作された伊万里のうつし。山本さんは日本における磁器発祥の地・有田で作陶をする。

桃居
Tel|03-3797-4494

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
Discover Japan 2021年6月号「うまいビールとアウトドア。」


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