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三谷龍二さんの
「使い続けるほどに育つ木のうつわ」
高橋みどりの食卓の匂い

2020.5.11
三谷龍二さんの<br>「使い続けるほどに育つ木のうつわ」<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりさんがうつわを通して感じる「食」のこと。20年来の付き合いになる木のうつわは、今でも成長を続けていると言う。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。新刊の『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)が発売中

東京と栃木の黒磯との2拠点生活も、12年を過ぎようとしている。都会と田舎での暮らしは想像以上にメリハリがあり、だからこそこうして時を重ねることができたのかもしれない。

ことにその違いを感じるのが食生活。黒磯の家は元倉庫だったので、天井も高く、何の仕切りもない大きな空間。冬は薪ストーブで暖を取り、夏はクーラーもなく窓を開け放し、風通りをよくして温度を下げる。

暑かった日の夕暮れは、屋外で炭焼きをしての夕食となる。炭焼き当番は夫、ここ10年はずっと焼いてきたので、肉焼きは相当の腕前になった。釣りの戦利品のある日は魚を焼く。秋の焼サンマは定番となり、近所の友人からはリクエストがくる。

そんな炭焼きの肉や魚の焼き上がりには、大きな木の皿が必需品だ。周りをカリッと焼き上げた塊の肉は、まずはこのクルミの大皿で静かに寝かせ、ほどよく血止めされたら大皿ごと食卓へ運ぶ。

肉を焼く日の客人は多い。肉切りのために用意されたアンティークの鋭いナイフとフォークで、まずは焼き手が入刀する。切れ味のいいナイフは、肉を切り、その下の木皿も容赦なく刻むけれど、身をもって受け止めてくれる感触も悪くない。クリスピーに焼かれた外側から深紅の美しい肉が現れ、美味しい肉汁も滴り落ちる。「今日もいい感じ」。我先にと皿が差し出され、汁をからめた肉を渡せば「旨い!」の歓声が上がる。

食事が大胆ならうつわもおのずとそれに似合うものとなる。東京では使いあぐねていた、大きめだったりプリミティブなものが活躍する。このクルミの木のうつわも優に30㎝は超えていて、黒磯へ身を置いてからのほうが活躍の場が多くなった。黒磯生活ではなくてはならないこの大皿は、たくさんの美しき傷痕と、受け止める肉汁によって施されたつやで、威風堂々としたさまに育っている。

さて、かたや東京での食生活はというと、コンパクトな住まいの中に組み込まれた台所では、和洋折衷の家庭料理となる。朝は炊きたてご飯と味噌汁が食べたくなる。日々の晩酌はワインが中心ではあるけれど、「焼いた塊の肉とともに」なんて衝動はなく、塩した魚を焼いたり、季節の野菜料理、パスタや炒め物とか、コンロでぱぱっとつくる手軽なものである。

家族構成は二人だが、料理は個々ではなく大きめのうつわに盛りつけて取り分けながら食べる。陶磁器に加えて木のうつわは欠かせない。サクラの刳りもののうつわ、浅いものと深いものを使う。直接千切った野菜を盛り込みオリーブオイルと塩を振り、サラダボウルとして。好物の混ぜ寿司なら、飯台のごとく炊きたてのご飯を盛り、すし酢を合わせ具も混ぜて仕上げる。適度に水分を取ってくれるから美味しく仕上がる。

紹介したうつわはすべて「三谷龍二さんの木のうつわ」。東京、黒磯、それぞれのスタイルに合わせて選び、使う。左上はクルミ材の挽物、右下はサクラ材の刳りもの。左下の小皿は、直径10〜15㎝ほどのさまざまな木の挽物で、和洋菓子の皿として、コースターとしてなど用途はいろいろに。高橋さんは三谷さんの展覧会のたびに買い足している

デザートの果物も、木皿の上で切り分け皮を剥く。あらあら大胆ね……と言えばそれまでだが、木という素材の柔らかさとおおらかさが、「こう使って」と私に語りかけているように感じるから。お客さま用にとか、特別な日のためにというよりは、日々の食事が楽しく美味しくあれと思う。20年来のつき合いとなる我が家の木のうつわたちは、まだまだ成長を続けている。

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
2020年5月号 特集「日本人は何を食べてきたの?」


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