《内田可織》の土鍋
優美なデザインと柔和なフォルム
陶芸家・内田可織さんの土鍋はプロも納得の使い心地ながら、アートピースのように空間を彩る。蓋を開けた瞬間から、いつもの食卓がごちそうになる。
東京・渋谷パルコのDiscover Japan Lab.では、2025年9月27日(土)~10月5日(日)にかけて、「内田可織 個展」を開催。人生に寄り添う、一生ものの土鍋に出合ってみては。
※個展初日の入店について、事前抽選による入店整理券が必要となります。。詳細は公式Instagram(@discoverjapan_lab)、または公式オンラインショップをご確認ください。
※今回、個展作品のオンラインショップでの販売はございません。
アートと日常をつなぐ、内田さんの土鍋

土は内田さんの手の動きに呼応するよう姿を変え、ろくろの上には大ぶりの半球体が立ち上がる。型で成形した持ち手やつまみを取り付けていくと、やがて見慣れた土鍋の姿が現れた。「昔はよく急須もつくっていて。パーツを組み立てていくものが好きなんですよ。小さな彫刻をつくっているみたいで楽しくて」。
そう話す内田さんの土鍋は美大でのオブジェ制作を原点にもつからか、日用雑器でありながらアートとは地続き。「絵画は筆を置くタイミングを自分で決められますが、陶芸は最後を窯にゆだねるしかない。自分の作品じゃないみたいって思うときもあるし、そこがおもしろいんですよ」と、思想がないと続けていけないとの思いから、学生時代から目指していた画家の道は断念した。それでもいま内田さんが手掛ける土鍋には、食を取り巻く世界に息づく思想が確かに宿っている。

現に世界的な料理集団「noma」が2023年に京都で開催したポップアップでも、内田さんの土鍋は採用された。「オーナーシェフのレネ・レゼピさんの高い要求に皆が応えるといった熱量の高いプロの現場を見たことで、自分もそうありたいと影響を受けました」と内田さん。
行ってらっしゃい、かわいがってもらうんだよ。そう送り出して世界中へと旅立っていった土鍋は、プロアマ問わず自由な発想で使われているという。
内田可織の土鍋ができるまで

ペンを走らせている段階から、内田さんらしい丸みや愛らしさが伝わってくるスケッチ。描くことで頭の中が整理され、釉薬の調合や成形といった後の作業がスムーズに進むのだとか
奥底に仕舞い込み、使うときだけ引っ張り出す。いくらお気に入りのうつわで食卓を整えても、土鍋が加わるとしっくりこない──。そんな従来の土鍋に抱いていた違和感こそデザインの出発点であり、そこに軽さ、焦げつきにくさ、加熱効率などの実用性も盛り込んだ。
ついアートピースのようなデザインに目を奪われがちだが「食器棚の一番前に飾るように置いてほしい。とはいえ『大事に飾っています』と言われると、少し寂しい気もしてしまうんですよね」と、内田さんの土鍋は暮らしの道具であることが大前提。だからこそ実物を手に取れる個展では、使い勝手もしっかりと確認してもらいたいのだとか。「はじめて開催する場所ですし、一生ものを買おうと個展を訪れる方も多いからこそ、今回は定番品を多めで。いつもの私を渋谷で見てほしいですね」。

絵画、オブジェ、うつわと、ものづくりとともに歩む内田さんの人生。取捨選択を重ねる中、土鍋づくりへと本格的にかじを切ったわけだが、きっかけは意外にもギャラリーでの評価。「私、いろいろなことができなくて。だからギャラリーで喜ばれたときに、ジャンルを絞ってひとつのことを追求し続けるほうが向いているのだとわかりました」と、人とのかかわりの中から生まれた作品には確固たる強さが宿るとの経験則から、周囲の意見は積極的に取り込んできた。だからこそ、かゆいところに手が届く土鍋が生まれ続けるのだ。

「若いときは47都道府県を展示で回りたいと思っていたのですが、いまは海外で個展を開きたいですね。アウトプットばかりではなく、世界にはどんなものがあるのかをインプットすることも大切。人工物にも自然物にも、何かしらヒントがある。そこを見逃さないことが、美術や工芸をやる者にとって重要なのかもしれません」と、陶芸を軸にコミュニケーションを広げたいと話す内田さん。現代の住宅事情に合わせてつくられた和洋折衷の土鍋が、世界の食文化をつなぐ懸け橋になるかもしれない。
持ち手に息づく使いやすさへの工夫

台所に立ったときの主婦目線で使い勝手を考えている内田さん。ミトンなどをはめた手指の感覚が鈍い状態でも手を滑らせないよう、持ち手部分には滑り止めのギザギザや凹みをつけている。

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個展作品ラインアップ
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内田可織 個展
会期|9月27日(土)~10月5日(日)
会場|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00
定休日|不定休
※初日は事前抽選制による整理券配布予定。
※詳細は公式Instagram(@discoverjapan_lab)にてご確認ください。
※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。
text: Natsu Arai photo: Shiho Akiyama
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」


































