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やんばるでつくり継がれる伝統工芸
《黙々100年塾 蔓草庵》で
暮らしの道具に出会う

2025.8.19
<small>やんばるでつくり継がれる伝統工芸</small><br>《黙々100年塾 蔓草庵》で<br>暮らしの道具に出会う

やんばるの中でも、特に深い山々に囲まれて流通もままならなかった東海岸では、暮らしに必要な衣食住のほとんどを自給自足してきた。そんな、風土に根ざした伝統のものづくりをいまに伝える「黙々100年塾 蔓草庵まんそうあん」を訪ねた。

食べ物や道具のほとんどが
自給自足のやんばるの暮らし

「道具づくりはね、なんでも下ごしらえの時間を楽しむんだよ。みんなでおしゃべりしながらね。豊かな時間でしょ」とセービンさん

名護市の東海岸、穏やかな大浦湾を右手に北上すると「黙々100年塾 蔓草庵」にたどり着く。

敷地に足を踏み入れた瞬間耳に届く、清らかな小川のせせらぎ、亜熱帯の実をつける果樹や野草、蓬莱竹や月桃がいきいきと生い茂るそこは、まるで楽園のよう。この地で生まれ育った島袋正敏まさとしさん、通称セービンさんは言う。

「やんばるでは、人は自然の恵みの中で生きてきました。食べ物も暮らしの道具もほとんどを自給自足。山から竹やつるを採ってバーキ(ざる)やティール(籠)を編み、羽釜の蓋やミシゲー(しゃもじ)など台所道具も。鎌やくわのような農具の鋳物は地域の鍛冶店がつくり、柄は山から木を切り出し自分たちでこしらえました」

セービンさんや「久志の手しごと」のメンバーがつくる民具は、「わんさか大浦パーク」で購入できる(一点物のため同じものはふたつとない)。左下から時計回りに、カゴバッグ(トウツルモドキ)1万円、カゴバッグ(蓬莱竹)9000円、竹カゴマイバッグ(蓬莱竹)1万2000円、月桃カゴ3万5000円、アラバーキ(蓬莱竹)7000円、ティール(蓬莱竹)8500円

しかし、時代とともに機械化や電化が進み、自給的な暮らしは失われていく。セービンさんは、人と自然との本来あるべきつながりを取り戻したいという思いから、黙々100年塾 蔓草庵を開いた。

かつて名護博物館の館長を務めていたセービンさんは、展示だけでは伝わらない本質を追求し、道具を使ってこそ、その必要性が肌でわかると考えて、稲作や漁業、工芸など、体験型のワークショップを積極的に開催していた。退職後も活動を継続し、蔓草庵を開設後は、セービンさんから地域の手仕事を教わりたいという声が高まり、主に竹を使った講座もスタート。開始からおよそ20年、修了生は約200人になった。

月桃の茎の繊維は民具になる。八重山の「あんつく(カゴ)」が有名だ。月桃紙の原料としても活用される。葉や実はお茶、精油、化粧品などに

講座では山に入って材料を調達するところからはじめる。たとえば竹の場合、ナタやノコギリで収穫した竹の枝葉を切り落として硬い節を削り、竹を割ってサイズを揃えたら、さらに薄く削ってひごに仕立て、編み上げていく。実はこのひごづくりに全工程の7割の労力と時間が注がれる。

仲地さんがつくった月桃のカゴ。茎を収穫し、内側の柔らかい部分を取り出して乾燥させたり水に浸したり。糸にするまでに数日かかる

講座に参加する仲地静香さんは、子どもの頃から身近にあった手仕事の魅力を再発見したという。
「こんなかたちをつくりたいから材料はどうしようって。野山を見る目がすっかりハンターです(笑)。地域には、てぃぐまー(器用な人)な先輩がたくさんいて、いまはその方たちとものづくりを続けることが目標です。教えたり、教えてもらったり、手仕事はコミュニケーションツールだと思います」

講座が楽しくて、生徒たちは技術を習得しても卒業しないのだとか。仲間あずみさん(左)と「久志の手しごと」に所属する仲地静香さん(右)もそんな生徒の一人。セービンさんが身につけているアダンのパナマ帽は仲地さんの手づくり

また、両親がやんばるの出身だという仲間あずみさんは、10年ほどセービンさんの講座に通っている。「島で生きるチカラ調査隊」という企画を立ち上げて、やんばるに受け継がれてきた伝統を映像で記録し、YouTubeで配信している。

「セービンさんが伝えたいのは、単なる技ではありません。その背景にある“暮らしのじんぶん(知恵)”なんです。セービンさんの所作は流れるようにつながっていて美しく、それは、山で生きてきた人だけが持ち得た、自然との一体感なのだと思います」

セービンさんは私たちに先人の英知をつないでくれるのだ。

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ススキのほうき。ススキを1週間ほど乾燥させ、かさちゅん(葉を取る)し、さばちゅん(櫛を通す)して、長さを揃えて束ねて完成
セービンさんたちが手掛けた 民具を扱っています!

わんさか大浦パーク
住所|沖縄県名護市字大浦465-7
Tel|0980-51-9446
営業時間|10:00〜17:00(直売所)
定休日|第2・4水曜(6月は毎週水曜)

text: studio BAHCO photo: Chotaro Owan
2025年7月号「海旅と沖縄」

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