髙島屋「TSUNAGU ACTION」
漆文化を紡ぐ《浄法寺漆》に出会う
前編|岩手・浄法寺に息づく“うつわ”を探しに。


日本の漆器は、かつて世界の貴族が愛したことで知られ、国産の漆は国宝の修理にも使用される稀少な素材だ。その約8割を占める「浄法寺漆」は、岩手県北部の二戸市浄法寺町を中心に採れる。その名産地で紡がれる文化を、髙島屋のサステナブル活動「TSUNAGU ACTION」を通して紹介する。
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約1300年、皆で漆文化を紡いでいる。

日本における漆の歴史は古く、縄文時代の遺跡から漆の装飾品が発掘されている。その耐久性や装飾性の高さから、食卓を彩るうつわや芸術品、国宝の保存修理など幅広く用いられ、日本の暮らしと文化を支えてきた。
現在、国内で使用されている漆の中で国産はわずか5%程度で、そのうちの約8割が、岩手県北部の二戸市浄法寺町を中心に採れる「浄法寺漆」だ。
浄法寺漆を使った漆器の起源は約1300年前、天台寺の僧侶がつくった日々の食事に使用するうつわからはじまったと伝わる。この地は漆の木が豊富だったこともあり、浄法寺塗の技術は庶民にも広がり、他県からより多くの樹液を採取する技法や道具が流入したことも相まって、国内外で名を馳せる名産地となった。

しかし、第二次大戦後は生活様式の変化や安価な輸入漆の増加に伴い、浄法寺塗は途絶えることに。その伝統技術をよみがえらせた立役者が、漆塗りの職人「塗師」であり伝統工芸士・岩舘隆さんだ。約40年前、樹木から漆を採取する「漆掻き」職人だった隆さんの父・正二さんが採る浄法寺漆は、地元で使用されることはなく、ほかの漆器の生産地へ出荷されていた。

「この地で採れた漆を使った浄法寺塗の文化を復活させたい」と、隆さんは塗師として修業を開始。独立後、華やかな装飾の高価な漆器が主流の時代に無地の漆器をつくり、全国へ売り込みに奔走した。
「日常使いの漆器を提案したくて無地にしました。県の指導員や多くの方々に助けていただき、徐々に認知されるようになりました」。そう話す隆さんがつないだ伝統は、脈々と受け継がれている。
「TSUNAGU ACTION」×「浄法寺漆」でつなぐ想い
その物語に共鳴したのが、髙島屋の「TSUNAGU ACTION」だ。この活動は顧客や取引先とともに「地球を次の世代へつなぐためにできること」を考え、身近なもの選びやアクションを通じて、サステナブルな暮らしを提案。そのテーマのひとつが「地域の伝統や文化を伝え、広げていくこと」だ。

浄法寺塗を支える浄法寺漆生産は、漆掻き職人の初夏の作業からはじまる。漆の木(目安:樹齢10年~)に採取の合図となる「目立て(小傷つけ)」を行った後、上方に向けて長い傷をつける「辺掻き」を数日ごとに繰り返し、にじみ出た漆をヘラで掻き取っていく。

「木は生きているので、傷のつけ方ひとつで採取量が変わります。一本一本と向き合い、対話をしながら状態を見極め、最適な深さ、長さ、厚みできれいな傷をつけることを心掛けています」と教えてくれたのは、漆掻き職人の長島まどかさん。1本の木から採れる漆はわずか200g程度だという。初冬まで約半年間、気の遠くなるほど地道で繊細な仕事だ。
「自然からいただく命。最後の一滴まで大切に掻き集めます」

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TSUNAGU ACTIONは髙島屋が顧客や取引先と取り組むサステナブル活動。「PLANET(美しい地球と豊かな資源を、未来へ)」、「SOCIAL(地域の伝統や文化を伝え、広げていく)」、「PEOPLE(すべての人の自由と平等、笑顔に寄り添う」の3つの基本テーマを掲げ、よりよい未来につながる商品や企画を提案している。
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岩手・浄法寺の世代を超えて愉しむうつわ
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text: Ryosuke Fujitani photo: Hiroyuki Jyoraku
2025年4月号「ローカルの最先端へ。」