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“夏酒”ってどんな日本酒?
|今こそ知りたい夏酒のこと【前編】

2024.6.30
“夏酒”ってどんな日本酒?<br><small>|今こそ知りたい夏酒のこと【前編】</small>

日本酒業界を取り巻く、さまざまな技術革新により令和の夏酒は格段に進化を遂げている。夏に日本酒? いえいえ、夏に日本酒! なのです。
 
前編では、夏酒が誕生した背景や、おもしろくなってきている理由を、日本酒ペアリングの第一人者である千葉麻里絵さんにうかがいます。

千葉麻里絵さん
西麻布「EUREKA!」オーナー、日本酒ソムリエ、第14代酒サムライ。化学的知見から独自の日本酒ペアリング体験を提案。著書『日本酒に恋して』をはじめ、さまざまなメディアを通して日本酒の魅力を発信している

夏酒の要素の掛け合わせが
おもしろくなっている!

ここは東京・西麻布「EUREKA!」。日本酒ペアリングの第一人者である千葉麻里絵さんがオーナーの人気店だ。土・日曜、祝日は15時から夏酒を楽しむことができる

焼酎ブームの絶頂期だった2005年、東京・中野の老舗酒販店「味ノマチダヤ」が提案した「夏の酒」企画が、夏酒のはじまりだ。売上が落ち込んでいた夏の消費拡大を狙った施策で、’06年の初年度は全国津々浦々17蔵が参加し、夏に特化した日本酒をリリースした。
 
「私が夏酒を意識するようになった頃は、優しい酸味、ガス感のあるタイプ、加水の低アルコールが主流で、青や水色の瓶で夏を意識したラベルを貼った日本酒が並んでいた印象です。夏酒の味わいに変化が起きたのは、瓶内二次発酵のスパークリング日本酒を造る酒蔵が増え、『東一』を醸す五町田酒造にいらっしゃった勝木慶一郎先生が“原酒で13度の低アル”スタイルを確立。新政酒造から白麹仕込みの『亜麻猫』といった高酸味酒が登場してからだと思います」
 
夏酒のための技術革新ではなかったが、日本酒業界の盛り上がりと比例するように麹の使い方や酵母ブレンドの手法が増え、さまざまな味わいの日本酒が登場するようになった。結果的に、夏に特化した日本酒=夏酒の味わいの幅も広がることになる。
 
「ひと昔前までは、日本酒はそのまま提供という暗黙のルールがありました。ロックや炭酸割りは邪道だと……。でも、オンザロックを推奨する『玉川 Ice Breaker』の存在もあって、日本酒も遊んでいいお酒になってきたのだと思います。私も夏に限らず、にごり酒にスパイスを振ったり、グラスにコーヒー氷を入れたりして提供していましたが、いまはさらに飲み方の自由化が進んでいると思います」
 
バーテンダーやソムリエが日本酒を扱うようになり、蔵元の代替わりによって柔軟な発想が定着したことも、日本酒の飲み方の自由化を後押しした。
 
「あとは『仙禽 かぶとむし』のような可愛らしいラベルの夏酒が登場するようになって、飲食店が夏に日本酒を提案しやすくなったのもあると思います」

では、小誌が「夏こそ日本酒!」と企画を組むように、夏酒がおもしろくなっている理由は何なのか。
 
「ラベル、酸味、低アル、スパークリング、提供スタイルという夏酒の要素の掛け算が起こっているからではないでしょうか。単にラベルが夏なのではなく、単に低アルなだけでなく、各ピースが成熟して組み合わさることで夏酒がおもしろくなってきているのだと思います」
 
そしてもうひとつ、最近になって夏酒のキーワードが増えたと千葉麻里絵さんは言う。
 
「夏に限らず、四季を醸す日本酒を造ろうという動きです。その中でも私が注目している酒蔵が、常山酒造。福井の四季や風土を醸す蔵というブランディングは、追いかけたくなりますね」
 
夏酒に新たに加わった「四季」というキーワード。楽しみが増えることは、日本酒飲みにとってうれしいこと。’24年の夏も暑くなりそうだが、好みの夏酒で暑気払いといこう。

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夏酒を楽しむ
6つのキーワード

 
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EUREKA!
住所|東京都港区西麻布4-11-28 2F
Tel|03-6805-0760
営業時間|18:00〜23:30(L.O.22:30)、土・日曜、祝日15:00〜23:00(L.O.22:00)
定休日|月曜

text: Nobuhiko Mabuchi photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2024年6月号「おいしい夏酒」

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