茶会「つくよみ」から紐解く
オカズデザインのうつわと料理【前編】
野口悦士さんの個展で、会期中に行われた茶会「つくよみ」。オカズデザインの料理と、彗星菓子手製所の菓子が月のようなニュアンスがある野口さんのうつわで供された。
オカズデザイン
吉岡秀治・知子を中心とした料理とデザインのチーム。レシピ制作、映像の料理監修など幅広く活躍。うつわと料理の店「カモシカ」でうつわ作品の展示会を主催。作家のうつわで料理や菓子を供している
東京・下高井戸で、器料理店「カモシカ」を営むオカズデザイン。器料理店といっても、単なる料理店でもなければ、作品を並べるだけのギャラリーでもない。さまざまな作家の個展を開催し、そのうつわを使って料理や菓子を楽しむ会を行っている。料理が盛られたうつわは、陳列された状態より生き生きとしている。菓子の背景となったり、濡れたときの表情にどきっとしたり。食卓で触れてみて、はじめて感じられることがあるからだ。
10月、野口悦士さんの個展で茶会が催された。オカズデザインの料理が2品、続いて、菓子手製所の菓子が3品、野口彗星さんのうつわに盛られている。ひと皿ずつに月にまつわる和歌が添えられて、うつわと料理、またはうつわと菓子で、その歌の世界に誘う。ひと皿でこんなにも奥行きのある表現ができるものかと驚かされる。
八寸には万葉集の一首『月読の光に来ませあしひきの 山きへなりて遠からなくに』(湯原王)が添えられた。「そう遠くないのですから、月の光を頼りに逢いに来てください」という意味の恋の歌。「男性が女性の気持ちになって詠んだもので、甘やかな歌だけれど、どこか凛としたバランスが粋で」とオカズデザインの吉岡知子さん。月に見立てたうつわの中で、ふたつの料理が絶妙な間合いで盛られるところに、男女の逢瀬をイメージさせる。
「情景を感じられるのが和菓子のよさなので、和歌とはとても相性がいいのです」とは彗星菓子手製所さん。栗を用いた秋の浮島は、古今和歌集の歌より「月の桂」という言葉をすくったもの。「秋の終わり、山奥にある小学校で桂の木の周りに積もった落ち葉を踏み締めると、ふわっとキャラメルのようないい香りがしたのが忘れられなくて。そのときの印象で、月に見立てたうつわに栗の渋皮煮を散らして〝月の中の桂〟を表してみました」。
料理にお酒を、菓子にお茶を合わせ、一期一会のうつわと料理をゆっくりと楽しむ。今日はどのうつわを求めようかと思い悩む時間もまたうれしい。
<汁椀>
「うつわの表情が一定でないところが料理の背景になってくれます」(オカズデザイン)
<八寸>
「月の光を頼りに会いに来て」
という和歌からの発想
<林檎/湯圓(タンユェン)>
雲の合間にのぞく月に見立てて
<栗/浮島>
栗を使った浮島で秋の情景を
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text:Yukie Masumoto photo: Tetsuya Ito
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」