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京都府文化観光大使・常盤貴子さんと探る
真言宗立教開宗1200年《東寺》の秘密

2023.11.23
<small>京都府文化観光大使・常盤貴子さんと探る</small><br>真言宗立教開宗1200年《東寺》の秘密

平安京の遺構であり、世界遺産にも登録されている名刹・東寺。広大な境内の随所に見られる弘法大師空海がつくり上げた世界やその思想とは? 京都をこよなく愛し、京都府文化観光大使に就任した常盤貴子さんが知られざる秘密を探ります。

常盤貴子さん
神奈川県に生まれ、小学校から中学校にかけて7年間を兵庫県西宮市で過ごす。1993年に俳優デビュー。京都の伝統文化を紹介する紀行番組『京都画報』にレギュラー出演中。今年、京都府文化観光大使に就任

慶賀門のほど近く、宝蔵の堀から五重塔を望む。五重塔は仏陀の遺骨を安置するストゥーパが起源とされる。東寺の五重塔の高さは約55mあり、木造の建造物としては日本一の高さがある

五重塔内に広がるきらびやかな密教空間

平安京遷都から間もない796(延暦15)年、官寺(国立の寺院)として創建された東寺。平安京の南端、京都の正門にあたる羅城門を挟んで東側に東寺、西側に西寺が建てられ、それぞれ都の東側と西側を守る役割を担った。823(弘仁14)年、嵯峨天皇から弘法大師空海に下賜された東寺は日本初の密教寺院となり、真言密教の根本道場という位置づけに。羅城門や西寺が失われた後、現存する唯一の平安京の遺構でもある。
 
初秋のある日、東寺を訪れた常盤貴子さん。境内の各所を拝観しながら、執事長の三浦文良さんにお話を聞いた。
 
常盤 東寺をつくり上げたお大師さん(弘法大師空海)とは、どんな人だったんでしょう?
 
三浦 留学僧として唐に渡って密教を学び、帰国後は日本に真言密教を広めた立役者です。宗教者以外に、技術者や教育者などマルチに活動していたそうですよ。今年はお大師さんが東寺を賜り、真言宗を立教開宗して1200年の節目にあたります。
 
常盤 東寺の五重塔を見ると、京都に来たなと感じます。
 
三浦 境内の配置は、曼荼羅をお手本にして、密教の教えを映し出したといわれています。五重塔は落雷などでいままでに4回焼失して、現在の塔は約380年前に建てられたものですが、地震で倒れたことは一度もありません。各層がバラバラに揺れることで揺れを収束させる、東京スカイツリーにも採用された構造なんですよ。
 
常盤 免震構造になっているんですね! その内部にこんなきらびやかな世界があったなんて、驚きました。
 
三浦 心柱を囲んでいるのは、五智如来のうち阿閦如来、宝生如来、阿弥陀如来、不空成就如来です。最高位にあたる真言密教の主尊・大日如来の像がないのはなぜかというと、心柱そのものが大日如来と位置づけられているから。この塔自体が大日如来ということなのです。
 
常盤 大日如来は、曼荼羅の中心にいらっしゃる仏さまですね。
 
三浦 そうです。その曼荼羅が絵ではなく仏像で表現されているのが講堂の立体曼荼羅。講堂は境内の中心にある最も大切なお堂で、さらにその中心に祀られているのが大日如来です。
 
常盤 講堂の大日如来は、冠やアクセサリーをつけていておしゃれです。装いにはどんな意味があるんでしょう?
 
三浦 本来、装飾品をつけているのは修行中の仏。でも大日如来は、飾りを身につけた迷いのある心のままで悟った姿といえます。
 
常盤 迷っていても悟れた?
 
三浦 この身のまま悟れるというのを即身成仏といいます。我々にとって、とてもありがたいことですよね。
 
常盤 「そのままでいいんだよ」というのは、いまの時代にすごくピタッとくる考え方です。
 
三浦 そうですね、迷いをもちながらもそのままで成仏できるんだという考えに共感する人は、そこに惹かれていく。立体曼荼羅は鏡のように自分の心を映し出すのです。仏教とは“仏の教え”と書きますが、“仏になる教え”だともいわれています。仏が外にあってどこか上からものを言うのではなく、自分の心の中にきっと仏がいる。講堂はそのことに気づかせてくれる道筋といえるかもしれません。
 
常盤 まさに、自分を見つめ直す装置。何度も足を運びたくなりますね。

「五重塔の中が、こんなにも絢爛で鮮やかな世界だとは思っていませんでした。いまの私たちの感覚でもときめきますね」と常盤さん。壁面には空海を含む真言八祖像が描かれている。「空海はここに密教の世界を表現したのです」と三浦執事長

なぜ四尊しか如来がいないのか
密教の5つの智慧を五智(法界体性智、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智)といい、五智を当てはめた金剛界の五如来を五智如来という。心柱を中心に、東に阿閦如来、南に宝生如来、西に阿弥陀如来、北に不空成就如来と四尊を配置。本来なら最高位の大日如来を中心に置くべきところ、空海が心柱そのものを大日如来と見なしたといわれている。また、壁には真言八祖像(龍猛、龍智、金剛智、不空、善無畏、一行、恵果、弘法大師空海)が描かれ、真言の教えが伝えられるまでが表されている

知っておきたい東寺の秘密

歴史に彩られたさまざまな宝物や建造物を擁する東寺。空海が理想とした世界とは? 一生を捧げたこととは? その背景を知れば知るほど、密教がもたらした深淵な思想が感じられるはず。

弘法大師空海が計画した姿を残す、京都の入り口!
平安京遷都の際、寺院の建立は東寺と西寺しか許されなかった。都の表玄関である羅城門の東につくられた東寺は、国と都の東の王城鎮護を担い、国が命じる法要を行うのが主な役割だった。空海を題材とした作品も著した司馬遼太郎は、京都で知人を案内する際、もっぱら「東寺の御影堂の前で会いましょう」と伝えていたという逸話が残る。 また、新幹線の車窓や京都駅の構内からも見える五重塔は京都のシンボルでもある。東寺は平安京の時代も現代も、名実ともに京都の入り口といえる存在だ

五重塔(国宝)内陣/所蔵|教王護国寺(東寺)/画像提供=便利堂

約1200年前に私立学校を開設!
教育にも情熱を注いだ空海は、「教育が人をつくり、人が国をつくる」ことを目指し、日本で最初の私立学校といわれる「綜藝種智院(しゅげいしゅちいん)」を東寺の東側に設立。一方、塔頭寺院の観智院は、真言宗の勧学院で、密教教学の研究機関として空海の教えを伝える。貴重な美術品も多数有し、本尊の重要文化財・五大虚空蔵菩薩坐像は、学僧の賢宝が山科の安祥寺から移した、まさに智慧の仏。現在、境内にある洛南高校や附属中学校も、空海の教えに基づいて運営されている

講堂の立体曼荼羅とは
密教の教えを、大衆にもよりわかりやすいビジュアルで伝えるため、通常は絵で描かれる曼荼羅を仏像で表現したのが立体曼荼羅。中央には大日如来を中心とする五智如来、その左右に金剛波羅蜜菩薩を中心にした五大菩薩、不動明王を中心にした五大明王を配置。須弥壇の四方を守護するように四天王、梵天、帝釈天が配されている。恐ろしい形相だが必死に人を救おうとしている明王など、さまざまな仏に自分を投影してみたい。21体のうち16体が国宝。

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常盤貴子さん
“とっておきの”京都の愉しみ方

 
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text: Aya Hojo photo: Mariko Taya
Hair & Make-up: Mika Akita dressing: Yukiko Hattori
衣裳協力=色無地・袋帯(吉祥五節句文)/日本きものシステム協同組合、帯揚げ・帯締め/衿秀

Discover Japan 2023年11月号「京都 今年の秋は、ちょっと”奥”がおもしろい」

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