FOOD

高知県《シーベジタブル》
海の未来を守る、
新しくて美味しい“海藻”【前編】

2023.7.27
高知県《シーベジタブル》<br><small>海の未来を守る、<br>新しくて美味しい“海藻”【前編】</small>

世界で海の生態系が変化し、日本が誇る海藻の食文化がいま危機にさらされている。そこで立ち上がったベンチャー企業、シーベジタブルの挑戦には、伝統を未来へと紡ぐヒントが隠されている——。

海藻という伝統文化の、未知ゆえの可能性

食べられる海藻、 何種類あるか 知っていますか?
ヤツマタモク、アカモク、タマハハキモク、アツバノリ、フダラク、ムカデノリなど、シーベジタブルのテストキッチンで扱われる知られざる海藻は、未知の食体験をもたらしてくれる

日本に海藻はどのくらい存在しているかご存じだろうか。その数は約1500種類といわれている。
 
「日本の海は暖流と寒流が交わり、複雑な海岸線や岩場が多く、海藻が生い茂る藻場ができやすい条件が整っています」と教えてくれたのは、海藻のベンチャー企業、シーベジタブルの友廣裕一さん。
 
その歴史は古く、縄文時代の遺跡から出土し、奈良時代の『万葉集』で多くの歌に詠まれ、大宝律令の献上品では貴重なものとして扱われてきた。その後、平安時代に佃煮や味噌汁の具といった定番料理の基礎ができたと伝わり、現代でもお馴染みの食材として食卓に並んでいる。
 
これほど多くの種類の海藻食文化が根づく国は、世界でも日本だけだが、いまそれが途絶えつつあるという。
 
「一番大きな原因は、温暖化による生態系の変化です。海藻は冬に芽生えます。通常その時期は、海藻を食べるアイゴなどの藻食魚やウニは活性が落ちる冬眠状態で、動き出す頃には食べ切れないほど海藻の資源量は大きくなっていました。それがいまは、冬でも海水温が下がりきらないので、アイゴやウニなどが活発に動き、海藻は芽生えた瞬間に食べ尽くされ、約10年で富士山1個分の藻場がなくなっているというデータもあります」

歯応え抜群の稀少なアオワカメとタコを炭火焼きし、タコの卵のすじあおのり漬けをまぶしたひと皿。シーベジタブルのテストキッチンでは海藻の概念を覆す活用法が研究されている

それに加え、海藻の調理法はステレオタイプなままで、食シーンで多様性が注目されることがほとんどなかった。
 
「生物は大きく陸と海、植物と動物の4つに分類できます。食の世界ではあらゆる食材の研究や調理技術が進化している中で、海藻だけが食べ方や保存法が昭和で止まっている。しかも1500種類もあり、すべて食用でき毒がないにも関わらず一般的に食べられているのは10種類程度。各地方には地元でのみ消費されている稀少種もありますが、それらを合わせても日本人が食べている海藻は100種類に満たない。つまり、大半は未活用なのです」
 
その一方で、食材としてのポテンシャルは高い。
 
「たとえば板海苔は約40%もタンパク質を含有し、大豆よりも多い。いまヨーロッパでは、その栄養価の高さに注目が集まり、EUが重点産業として予算を投入していることから、海藻関連のベンチャー企業が続々と誕生しています」
 
食べている海藻の種類、その食文化の多様性においてトップランナーを走る日本。シーベジタブルは、その伝統を守り未来につなげるために、持続可能な循環型の手法で新しい海藻の食文化を創造するチャレンジを行っている。

読了ライン

シーベジタブルには、研究者から料理人まで各分野のスペシャリストが集っている。全国各地で多種多彩な海藻の研究、種苗生産から陸上・海面栽培、さらにテストキッチンで料理開発まで一貫して行い、世界の料理関係者からも注目を集めている

 

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text: Ryosuke Fujitani photo: Kenji Okazaki
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」

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