小倉ヒラクさんに聞く、発酵は生活の中から生まれた知恵の結晶
あれも発酵、これも発酵③
発酵とは、目には見えない微生物が有機物を分解し、人間にとって有用な物質をつくり出すこと。日本人は、古代から発酵を生活に取り入れ、その恩恵にあずかってきた。発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに発酵の魅力を教えてもらいました。今回は、日本人が独特の環境下で、限られた食材を有効に活用する手段として磨き上げてきた、“発酵の技”をご紹介。
発酵デザイナー。山梨県甲州市を拠点に全国の醸造家との商品開発、絵本・アニメの制作、ワークショップなどを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)、『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT)
まずはさておき保存性
塩で食材の腐敗を防いでみたら、塩に強い微生物が人間に有用な働きをした。発酵文化はこの偶然からはじまった。
日本の発酵文化の原点には、厳しく不安定な自然環境と、温暖湿潤な気候、特色のある風土ならではの多様な微生物環境がある。
①防腐の結果、風味が増したり、保存性が高まったりしたものを選別して食品としてとるようになった。
②そのうちに、その栄養価の高さを体感する。
③身体にいいとはいえ、どうせ食べるなら美味しいものを食べたい。
④そのためにレシピを改良して、誰でも再現できるメソッドに磨き上げる。
こうして発酵文化は受け継がれてきた。
デリケートなコウジを使いこなす技
日本の発酵文化は、ニホンコウジカビという日本固有の微生物が支えている。
ニホンコウジカビはもともと田んぼにすみ付くカビで、別名は麹菌。麹菌がつくり出す旨みやまろやかな甘みは、和食ならではの味わいに欠かせない。また麹菌は、人間だけでなくほかの微生物にとっても栄養となる多様な物質をつくり出し、それが多様な風味につながる。ただ麹菌はとても繊細。そのため日本人は、麹室で隔離するなど手間をかけて育てる技を磨いてきた。
多様性の土壌は手前味噌文化にあり
日本の食文化の特徴に「多様性」を指摘するヒラクさん。その根っこを育てた手前味噌文化とは?
手前味噌文化とは
いまでこそ味噌など発酵食品は店で買ってくるものと思われがちだが、かつての日本では家庭ごとに手づくりするのが当たり前だった。共通するのは町の麹屋から分けてもらう麹だけ。家内手工業がベースにあるため、つくられる土地や気候、つくり手の個性が反映され、日本において発酵食品は多様な広がりをもつことになる。ヒラクさんたちの活動もあり、最近は再び「手前味噌」の文化が注目されている。「発酵の世界は体験できることが醍醐味。手づくりしてみることで、発酵の世界に一歩足を踏み入れてみて」
1|発酵で日本のいまが見えてくる
2|日本の発酵食、実は3つだけ?
3|発酵は生活の中から生まれた知恵の結晶
4|世界的に見ても日本は発酵大国でした
5|発酵の主役は人間ではなく微生物
文:成田美友、編集部 写真=山平敦史