岡山県・井原市《仁城逸景》
食卓に落ち着きをもたらす木目のうつわ
仁城逸景さんのうつわは木目が柔らかな表情の漆器。引退を宣言した漆業界の重鎮・仁城義勝さんを父に持ち、その作風や意志を受け継ぎうつわを作り続ける。食卓に落ち着きをもたらす木と漆のうつわ、その魅力に迫る。
仁城逸景(にんじょういっけい)
1986年、倉敷市生まれ。高校卒業後は父・義勝さんの工房で、木と漆を駆使したうつわ制作を開始。2017年には日本民藝館展奨励賞を受賞。
親から子へ受け継がれる
"仁城家“のうつわ
漆業界の重鎮であり2020年に引退を発表した仁城義勝さん。義勝さんは木の加工を担う木地師をなりわいとしていたものの、分業制である漆器業の一端として働くのではなく責任をもってうつわを完成させたいとの想いから、丸太を購入するところから販売までを一手に担う作風をスタートさせた。
そしていま、長男である仁城逸景さんもまた、同様のスタンスでうつわをつくっていると聞けば“世襲”という言葉が思い浮かぶが「あえて言葉にすると、父は父で作家としての活動を続けてきて、僕は僕で好きにやっていたら20年も経っていたという感じです。俗にいう世襲という感覚は自分たちには一切ないんですよね」と逸景さん。
とはいえ、木肌を塗りつぶす一般的な「漆塗り」ではなく、木地に精製漆を塗り重ねることで木目を浮かび上がらせる「木地溜」の手法は義勝さん譲り。「僕は父のうつわを使って育ってきたので、おふくろの味のように、この雰囲気が落ち着くんですよ。結果論ではありますが、彼の想いや意志を受け入れることができたからこそ作風が近いのだと思います」と、父子の作品は樹種も漆も手法も同じとあってか、一見すると似通って見える。
しかし「互いに奇をてらうつもりはないので同じようなかたちにはなるものの、商品として見ると父よりも僕のほうが整っていると思います。それは自分から出てくるものというよりも、画一的なものが求められる時代に僕が生まれ育ったという時代背景が影響しているのかもしれません」と、本質的な部分においては明らかに異なるという。
そんな逸景さんのうつわは、トチノキを切り出す木地づくりからすべて一人で手掛けているため、制作の限界は年間で約2000個。「ありがたいことに同じものが顧客に求められているからこそ、あえて色を変えたり品目を増やす必要もないんです」と、20~25種の定番品の完成を待ちわびる人々のために、毎年つくり続ける逸景さん。家族を養うためのなりわいだからこそ、作家性がどうこうではなく需要があり続けることのほうが大切だというが、父から受け継いだ“購入した丸太は余すところなく使いきる”といった仁城家の流儀は心に留めている。
「出来上がった木地を購入したほうが楽だし費用対効果もいいんですよ。でも、目の前に素材である命がやってきたならば、捨てる部分もどうにか使えないかと考えるのが僕と父。そこが現代社会への反骨精神のように映ったことで父は周囲に評価してもらえたのかもしれないですね」と、父の背中を見て育ってきた逸景さんからすれば、この考え方は至極当然だったというが、命と真摯に向き合う姿勢を見るに、根っからのアーティストなのだろう。
「利便性の追求は時代の本流ではありますが、僕が何より重要視しているのは物事の循環。明日のことよりも、もっと長い尺度で物事を見るほうが好みなんです」。そう語る逸景さんは、微力ながらも若手職人の糧になればとの理由から、最後の塗りの工程には年間わずか2tしか取れない国産漆を50%使用している。そこには、「衰退し続ける漆産業を次世代につないでいきたい」そんな想いに加え、未来を生きる子どもたちのためにも、大量生産・大量消費を当たり前とする現代に抗っていきたいという意志が垣間見えた。
作品ラインアップ
No.1
料理が盛られた際のイメージは意識するものの、用途を限定したくないとの思いから作品に名前はなし。制作順に番号が振られている。
尺1盆
トチノキの中でも、平たく大きなものに適した部位から切り出して制作。漆を塗り重ねることで生まれるグラデーションが小気味いい。
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仁城逸景さんのうつわがオンラインで買える!
公式オンラインショップ
Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00
定休日|不定休
公式Instagram|@discoverjapan_lab
※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。
text: Natsu Arai photo: Yuko Okoso
2024年12月号「米と魚」