渋谷パルコ《鳥山高史 個展》
“ゆがみ”を愉しむStencilグラス
ガラス作家・鳥山高史さんの「Stencilグラス」は、手にした瞬間に感じる馴染みのよさ。空気を含んでいるかのように軽く、そして口当たりも抜群。シンプルにして緻密に計算されたグラスはどのように誕生したのか?
2024年9月7日(土)~22日(日)にかけて、東京・渋谷パルコのDiscover Japan Lab.では「鳥山高史 個展」を開催。個展に際して、Stencilグラスの誕生秘話を鳥山さんにうかがいました。
Discover Japan公式オンラインショップでは、本展の一部作品を9月10日(火)20時より順次販売予定です。(店頭の販売状況により日程・内容が変更になる場合があります)
鳥山高史さん(とりやま たかふみ)
イタリア・ヴェネツィア遊学後、日本で15年間ガラス関係の仕事に従事。2004年に壜壥(TANTEN)を立ち上げた。現在は兵庫・丹波の工房でガラス器や金属器を制作。国内外で個展を開催。
手に馴染む理由は“ゆがみ”にある?!
表面に波打つ揺らぎが光を鈍く反射。わずかにゆがんだフォルムが、懐かしさと同時に新鮮な印象を見る者に与える—。鳥山高史さんがガラスに出合ったのは芸術大学を目指して浪人生活を送っていた頃。
「予備校で彫刻を学ぶために素材探しをしていました。石材なども考えましたが、失敗しても再生が利くガラスに、当時お金のなかった私は『これだ』と思ったんです」
ガラスに運命的なものを感じた鳥山さんは進路を急変。ヴェネチアングラスの本場、イタリア・ムラーノ島へ赴き、いくつもの工房で職人たちの技と情熱を目の当たりにした。帰国後もガラス関係の仕事に従事し、知識やノウハウを多角的に習得。35歳のとき、晴れて作家としてデビュー。ガラス工房「壜壥」を立ち上げた。
鳥山さんが手掛けるのは、手製の金型にガラスを吹き込んでつくる「型吹きガラス」。型で成形するからといっても仕上がりは均一ではなく、あえてゆがみや揺らぎを加えている。そのため、佇まいに独特のニュアンスがあり、手にすると心地よい。また驚くほど薄くて軽く、グラスに氷を入れるとコロンとかわいらしい音がする。
「今後日本は文化的な豊かさが求められると思っています。その象徴となるような作品をつくり続けています。皆さんの毎日が少しでも豊かになったら、本望ですね」
“自分だけ”のグラスが感性を育む
鳥山さんの工房には、家庭菜園が併設されている。野菜を育てるのが好きだが、それ以上に植物が成長し、枯れて朽ち果てていく一連の姿を眺めているとインスピレーションがわき出てくるという。
「植物の造形こそ一番美しいと思っていて、デザインにも投影しています。フォルムにゆがみを加えているのも、そうした理由から。自然界には真円や直線はありませんからね」と鳥山さん。
Stencilグラスもしかり。デビュー当初からつくり続けている代表作で、六角形のややゆがんだ形状と表面のエンボス模様が手によく馴染む。口に当たる部分は型吹きで成形した後、再び800~1000℃に熱し、ひずみが出ないように慎重に広げていく。その後、6時間かけてガラスを冷やすことで、薄く丈夫に仕上がる。手間暇かけてつくられるグラスは軽量で、口当たりも上品。シンプルなデザインも相まって、水やビールなど、あらゆる飲み物を快く受け入れてくれる。
「私自身、モノをあまり持ちたくないタイプで、グラスひとつで事足りるデザインを目指してつくりました」。
Stencilグラスには根強いファンも多く、発売当初から約17年間使い続けている人も。当時は自分用だったが、結婚を機に、出産後は娘用にと、家族が増えるたびに買い足しているという。
「その娘さんは物心つく前から使っていて、同じカタチでも自分用のがわかるのです。この話を個展ですると、周りのお客さまたちも『我が家もそうよ』と盛り上がりまして。皆さん、まるで家族の一員のようにグラスを扱ってくれていて、感慨深いものがありました」。
心地よいものを使い続けることで感性が磨かれ、それはいつしか本質を見抜く力になる。日常を、五感で楽しんでいる自分に気づく日が来るかもしれない。
読了ライン
個展作品の一部がオンラインで買える!
公式オンラインショップ
鳥山高史 個展
会期|2024年9月7日(土)~9月22日(日)
会場|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel |03-6455-2380
営業時間|11:00〜21:00
定休日|不定休
※最新情報は公式Instagram(@discoverjapan_lab)などで随時紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
※初日に整理券配布予定です。
※掲載商品は一部であり、店頭にはさまざまなうつわが並びます。
※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。
text: Misa Hasebe photo: Shimpei Fukazawa
2024年10月号「自然とアートの旅。/九州」