TRADITION

ダンサーと語る能
〜能×異ジャンル 対談集中連載 第三回〜

2018.1.14
ダンサーと語る能<br>〜能×異ジャンル 対談集中連載 第三回〜
宝生流能楽師シテ方・ 佐野 登さん(写真右)が主催する2018年2月3日の能公演に、アーティストの振付、コンサートプロデュース、ダンサーオーディションも手掛けるダンスクリエーター/ダンサー・ SAMさん(写真左)もトークショーゲストとして登壇する

今年で結成 25 周年を迎えるダンスグループ「TRF」のメンバーで、個人としても多数アーティストの振付・コンサートプロデュースを行ってきたSAMさんは、日本のダンス業界を牽引してきた存在です。そんな第一線で活躍してきたSAMさんと同世代、同じ身体表現者として日々修練を積んできた宝生流能楽師シテ方・佐野 登さんが対談。ダンスと能に共通する問題として、技術と体力の釣り合いを語ります。SAMさんは佐野さんが主催する能公演未来につながる伝統 –Back to Basics–」 にトークショーゲストとしても登壇予定。公演に先がけ、当日の演目『道成寺』の見どころにも迫りました。

何でも基本をきちんと押さえないとダメ

--お二人はほぼ同世代ですね。

佐野 ええ、ディスコ全盛期時代 が高校生の時。私もそういう場所でよく遊んでいました(笑)。

SAM  そうなんですね!

佐野  はじめて行ったディスコは 西麻布だったなあ。スーパーコップスっていう店で。

SAM そういう時代でしたね。

―― 一方で、SAMさんはご親族 に能の関係者がいらっしゃるとか。

SAM ええ。親族よりはもう少し遠いんですけど、家系図を見る と宝生流の方の名前があるんです。 ただそれに限らず、以前から能には関心があったんですよ。でもなかなか触れる機会はなくて。だから今回はこういう機会をいただけてうれしいです。先日、稽古場にもお邪魔して、すり足など能に特徴的な所作を見せていただきましたが、本当に感動しました。歴史の重みが違うと いうか。

佐野 ありがとうございます。でも基本をきちんと押さえないとダメ、という点においては能も、SAMさんのやられているダンスとはジャンルは違えども、似ていることも多いと思いますよ。

ダンスをもっと身近なものにしたいという想いで SAM さん が提唱する「ダレデモダンス」。2016 年には一般社団法人も設立

SAM ただ能って、その一回 しか公演をされないとか。だから、 公演にかける集中力も、僕らとは 比較にならないんじゃないかと。

佐野 たしかに、一回きりしかないととりあえず全員がそこに打ち込むというのはいえますね。ただ、終わってから後悔することだってありますよ 。「あともう一回できればなあ……」って。だから、どちらがいいかはわかりません。ちなみに今度やる『道成寺』はただでさえやる機会の少ない演目で、 私にとっては 25年ぶりなんです。

SAM 25年前に1度やってそれ以来ですか。なんとまた、すごい貴重な機会になるわけですね。

佐野 前回はまだ若かったですからね。正直、がむしゃらのうちに 終わってしまった。じゃあ次はいつできるかな? そろそろやってもいいかな? なんて思案しているうちに、今度は体力のほうがだんだん衰えていく(笑)。

SAM ホントそれは悩ましいところですよね(笑)。

佐野 だから、『道成寺』に関しては、今回のこのタイミングが、技術と体力の釣り合いが取れる交点なんです。

”これをやって一人前〞という登竜門的位置づけにある演目『道成寺』。佐野さんは25年前に初挑戦した

能は一回限りの一発勝負?

SAM 僕も45歳を過ぎたあたりから、いままで簡単にできていた動きでも「あれ?」っていうことが増えてきました。

 

佐野 そうなんですか。

 

SAM はい。ちょっと身体が重いというか。でも、それでやらないでいると、ますます動けなくなるんです。かといって、そこで無理にやってもいいものにはならない。

 

佐野 そうですね。

SAM 僕はもともとアクロバティックな動きを入れるタイプなんですけど、これはそろそろ見せ方を変えていかないとなって。そこでシンプルな動きでいかに魅せるか? という削ぎ落としの作業をしているところだったので、稽古場で佐野さんの動きを見せてもらったとき、ものすごく発見がありました。

 

佐野 それはよかったです。

 

SAMところで、能って一演目 の時間はどのぐらいなんですか?

 

佐野 1時間ちょっとが多いで すね。中には2時間を超えるものもあれば、30分ぐらいのものもあります。2月3日に演る『道成寺』だと、1時間 40〜50分くらいですかね。

 

SAM けっこう長いですね。面や装束も重たいわけですし。しかも、『道成寺』の場合、かなり大変な場面があるとうかがいました。

 

佐野 そうなんです。「鐘入り」というんですけど。舞台に滑車があって、お寺の釣り鐘を模した鐘を吊るんですね。

 

SAM 実際に吊り上げるんですか。

 

佐野 ええ、これがけっこう重くて……。曲の途中、その鐘の下でシテが飛び上がると同時に、ボンと鐘が落ちてくるんです。それを「鐘入り」といいます。

 

SAM そのタイミングは稽古で みっちり詰めるわけですか?

 

佐野 いや、直前に段取りを確認するくらいで、鐘を使った稽古はしないんです。

 

SAM ぶっつけ本番ですか! どこへ落とすか位置の目印的なものもないわけですよね。

 

佐野 ええ、事前に鐘を頭スレスレの位置まで降ろしはしますけど、シテは面をつけているので、前しか見えません。鐘に結んである縄を引っ張っている人たちが、タイミングを見て、落とすんです。

 

SAM うまくいかないと……?

 

佐野 けがする人もいますね。でも、約束事は決めてある。その通りにやればかならず合うはず、という考え方なんです。

 

SAM すごいなあ。

 

佐野 だから、みんな約束は守ろうっていう。あとはもう「息を合わせる」ということだけなんですよね。

 

SAM これ僕らだったら、気がすむまで鐘を落とすタイミングの練習をしますよ。

 

佐野 SAMさんたちがつくる『道成寺』も見てみたいですけどね。『道成寺』をモチーフにした作品って、歌舞伎をはじめ、ほかの芸能でもいっぱいあるんです。

 

SAM そうなんですか。

 

佐野 ええ。では、それがダンスになったらどんなものになるのかなって。

 

SAM それは僕も興味ありますね。たとえば、鐘もレーザー光で 表現してみたり、とか。いろいろ想像が膨らみます。

ダンスにもタブーはある?

佐野 SAMさんは、そうやって 新しい振り付けをつくるときは、どんな風に考えるんですか?

 

SAM 多いのは、まず曲があって、それに合わせて振り付けを考えるやり方ですね。曲のイメージや世界観を頭の中に入れて、流れをつかんだ上で、あとは実際に身体を動かしてみて、一番しっくりしたものを採用していったり。

 

佐野 たとえば、これはやってはいけない、ということもありますか。

 

SAM 一応はあります。ただ、それは難しいところで、あまり自分の中にダメだよっていう枠はつくらないようにしています。

 

佐野 というと?

 

SAM ともかくおもしろかったり、カッコよかったりすればそれで成立しますし、 100人いれば100通りの世界 がある。中には、ああいうダンスは自分ではやりたくないけど、「でも、それもアリだよな」というのもあります。

 

佐野 なるほど。伝統というと、ときに堅苦しく思われますけど、 長く続くからには、必ずそれぞれ の時代ごとに研鑽(けんさん)をしている人たちがいるわけですよね。

 

SAM ええ。

 

佐野 つまり、 ひょっとすると自分が怠けたら、うまく続いていかないこともあり得る。そういう責任を感じることがあるんです。ですから、プロとして後に続く人間を育てていかなくてはなりません。

 

SAM そうですね。

 

佐野 そして私は同時に、能に興味をもって 見てくれる人たち、そして、能の表現や技術に関 心をもってくれる他ジャンルの方々とも、つながっていきたいと思うんです。

SAM そう言っていただけると、能がぐっと近くなりますね。僕らのストリートダンスは歴史が浅くて、まだ50年も経たないぐらいです。発祥はアメリカで、そんな中、日本人だとまずそのリズムにのることが大変なんです。

 

佐野 そうなんですか。

 

SAM でも、そこで日本独自のリズムトレーニングというものが生み出されました。海外の人にとってはリズムをトレーニングするなんて発想すらなかったでしょうけど、でも実は、そういう人にとっても、このトレー ニングはとても意味があるんですよね。

 

ダレデモダンスエクササイズ : 楽しく踊ってダイエット&認知症予防
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佐野 学習する必要があ ったからこそ、独自の型 が生まれて、それが結果、皆の役に立つことがある んですよね。

 

――SAMさんは振り付けにとどまらず、舞台のトータルプロデュースも されていますが、能舞台 という舞台装置はどう思われますか。

 

SAM 先ほど撮影で足袋を履い て立たせてもらいましたけど、鳥 肌が立ちましたね。まず、「正面」という概念が違いますしね。

 

佐野 正面、中正面、脇正面と三方ありますけど、どれも「正面」 なんですよね。つまり演者の背中 しか見えなくても、それは正面だ という意識なんです。ミュージシャンの友達なんかは、能舞台には すごく興味があるっていいますよ。

 

SAM わかります。とても魅力的な空間ですよ。ここでやるんだ ったら、どんなことができるだろう? と思います。

 

佐野 ぜひ考えてください(笑)。

 

SAM いいんですか?

 

佐野 いつでも、ぜひ。SAMさんが能舞台をどう使ってくださるか、見てみたいですから。

(文=九龍ジョー、写真=林 和也 text : Joe Kowloon photo : Kazuya Hayashi)

2月3日にSAMさんも登壇する能公演を開催します!

シテ方・佐野 登さんが主催、小誌が後援する能公演を今年度も開催いたします。能にご縁がなかった方も、ぜひこの機会にその魅力に触れてみてください。

能『道成寺』未来につながる伝統〜Back to Basics〜
開催日:2018年2月3日(土)
時間:13:00開場/ 14:00開演
会場:宝生能楽堂
住所:東京都文京区本郷1-5-9
主催:佐野 登
後援:『Discover Japan』(枻出版社)
料金:SS席1万5000円/ S席1万円/ A席8000円/
B席7000円/ C席5000円/学割3000円
※SS席には公演後の
アフターパーティ参加費が含まれます

▼▼▼チケットのお申し込みはこちらから▼▼▼
confetti-web.com/nobo
S席購入者には『能のお稽古』無料体験、ほか全員に能グッズの特典付き

チケットに関するお問い合わせ
Confetti(カンフェティ) Tel:0120-240-540
公演に関するお問い合わせ
Eメール:shihoukai202@gmail.com Tel:03-3811-4843(宝生能楽堂)

www.facebook.com/events/2386037524953907
※この記事は2018年1月6日発売Discover Japan2月号p196〜p199の内容の一部を掲載しています。

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