TRADITIONS

能楽師、佐野 登
大曲「道成寺」を前に、聖地・道成寺へ

2017.12.6
能楽師、佐野 登<br/>大曲「道成寺」を前に、聖地・道成寺へ

初演から25年を経た来年、「道成寺」に再度挑む決意を固めた宝生流シテ方能楽師の佐野登さん。2月に迫った公演成功を祈り、聖地・道成寺を訪れた。

宝生流能楽師シテ方・佐野 登さん
1960年、東京都生まれ。宝生流18 代宗家宝生英雄に師事。演能活動や謡曲・仕舞の指導を中心に、日本の伝統・文化理解教育を行うなど現代に生きる能楽を目指し積極的に活動

来年2月に控える公演へ懸ける想い

紀州は天台宗の古刹、道成寺に伝わる「安珍・清姫伝説」を、お聞き及びの方は多いだろう。旅の修行僧、安珍に惚れた清姫が、その後裏切られたと知って後を追い、最後には道成寺の鐘に逃げ込んだ安珍を鐘ごと焼き殺すという物語は、「道成寺物」として、広く日本古典芸能の題材とされてきた。中でも能における「道成寺」は、大曲として知られている。若手能楽師にとっては人生のひとつの目標、いわば登竜門だ。この特別な演目を、宝生流シテ方能楽師、佐野登さんは33歳のときに初演。以来25年ぶりとなる来年、再演の決意を固めた佐野さんが、公演を控え、聖地・道成寺を訪れた。

気持ちよく晴れた10月初旬のある日。道成寺本堂のぴんと張り詰めた空気の中、院主・小野俊成さんのよく通る声が響く。目を閉じ、凛とした表情で祈祷を受ける佐野さんの横顔に、ひと筋の光が落ちる。厳かなひととき、公演の成功を祈念する「道成寺参り」の儀式を終えて、佐野さんはほっと表情をゆるめた。なぜいま「道成寺」を演ずるのだろうか。

本堂のぴんと張り詰めた空気の中、来年2月の公演成功に向けて、道成寺の院主・ 前に「道成寺」を演じる小野俊成さんが祈祷を行う

「25年前は無我夢中で、終わった後、悔しく感じる点が多かったんです。だからいつか必ず再演したい、でもやるからには安易には演じられないぞと思っていました。そして歳を重ね、今年に入った頃でしょうか、再演するなら経験値、技術、体力が備わるいましかない、と。自分の中で機が熟したんですね」特別な曲をひとつの決意をもって演じる上で、はっきりとしたかたちを表すべきだという考えから、能装束も新調する。プロジェクトは、春以降着々と準備が進んでいる。

「今回の公演は、現在の私の演技をお客さまにご覧いただきたいという目的はもちろん、24歳になる息子に伝えるという意味もあります。私たち能楽師には、『時代をつなぐ』義務がある。私が伯父から引き継いだ昔からの真理を、息子がどう受け止め咀嚼し、いつか演じるだろう『道成寺』で表現するのか。それを指導し、見届けるのも私の義務なんです」

佐野さんは、初演時に道成寺を訪れた日のことをいまも覚えているという。境内に向かう石段を緊張の中で登り終えたのは、桜の花びらが舞う春陽の候。あの日から25年を経て、能楽師・佐野登はもう一度、伝説の大曲に挑む。この先、未来につながる能の姿を思いながら。

特に今回は能装束(唐織と、その下に着る摺箔)を新調するため、その機織りに使用する絹糸も奉納し祈祷をお願いした
本堂厨子に安置されている、千手観音立像は、写真の南北朝時代作の木彫像(33年に一度だけ一般公開される秘仏)の胎内から発見されたという。奈良時代後期作の重要文化財だ

1300年もの歴史が連綿と続いてきた理由

「道成寺物」は知っていても、その寺が実在することは意外に知られていない。道成寺は、701(大宝元)年に建立された和歌山県最古の寺。千手観音菩薩など3点の国宝を含む、数多くの重要文化財や県指定文化財を擁する天台宗の古刹だ。「安珍・清姫伝説」を伝えるカラフルな絵巻物を使い、軽妙に仏教の教えを説く「絵とき説法」でも知られ、多くの参詣者を集める。道成寺の院主を務める小野俊成さんによると、奈良時代の前半、創建1300年を超える寺院や神社の存在は珍しいという。日本中を探しても、そうたくさんあるわけではない。「道成寺がこれまで存在し続けられたのは、人間の力を超えた大きな力に守られているからだと感じます。たとえばこの寺には古典芸能の滝が降り注いでいて、常に注目をいただく機会がある。頻繁に祈祷の依頼もあります。そういった幸運と地方寺院としての日々の営み、それらが両輪としてあったからこそ、いままで続いてこられたのではないでしょうか」

 

道成寺院主小野俊成さんは1962年、和歌山県日高郡日高川町生まれ。絵巻や掛け軸を使って教えを説く「絵とき」は年回3000回行われ、小野さんはうち約半数を担当。時には英語の絵ときも

シテ方・佐野 登さん主催、小誌後援の能公演を開催

「 未来につながる伝統」―道成寺―

開催日:2018年2月3日(土)
時間:13:00開場/ 14:00開演
会場:宝生能楽堂
住所:東京都文京区本郷1-5-9
主催:佐野 登
後援:『Discover Japan』(弊社)
料金:SS席1万5000円/ S席1万円/
A席8000円/ B席7000円/
C席5000円/学割3000円
※SS席には公演後のアフターパーティ
参加費が含まれます

チケットに関するお問い合わせ
Confetti(カンフェティ)
Tel:0120-240-540
公演に関するお問い合わせ
Eメール:shihoukai202@gmail.com
Tel:03-3811-4843(宝生能楽堂)

チケットのお申し込み
confetti-web.com/nobo

(text: Hiroko Sasaki  photo: Kiyoshi Nishioka)

※この記事は2017年11月6日発売Discover Japan12月号P134~139から一部抜粋して掲載しています