《金光酒造 蔵元直売所》
酒蔵の積み重ねた歴史×モダンで洗練されたデザインへ
広島県東広島市黒瀬町にある、創業明治13年(1880年)から続く「金光酒造」は、酒蔵に隣接された直売所をファサードが印象的な「金光酒造 蔵元直売所」へとリノベーション。設計を担当したのは、広島・呉の建築・インテリアデザイン事務所ファゾムの中本尋之さん。長い歴史と革新的な挑戦を続ける金光酒造の生まれ変わった「金光酒造 蔵元直売所」の建築を紹介しよう。
金光酒造の酒蔵に隣接された直売所は、国道沿いにある大きな酒蔵の壁面の手前部分に広い駐車場にポツンと建てられた、20坪弱の木造平屋の建築物だった。
明治からあるであろう歴史の染み込んだ酒蔵の雰囲気とは異なり、アルミサッシを用いた木造建物をどのような手法で酒蔵の建物の積み重ねた歴史の重さに負けないような重さを持たせながら、金光酒造の5代目の革新的な挑戦を体現するような斬新さ表現することが課題となった。
中本さんは、国道沿いから見える登録有形文化財の酒蔵の大きな壁面をはじめて見たとき、酒造りの歴史が積み重なった地層を見ているように感じたそうだ。
焼杉の羽目板貼りに漆喰と街の特徴の一つである赤煉瓦の屋根。3つの素材が重なっていくことでその境界に現れる2本の線。伝統を長い間守り積み重ねることで生まれた美しい水平ライン。
隣接する直売所は、酒蔵から続く水平ラインを意識しつつ、一部分が有機的に隆起する新しいラインをつくり上げることにしたと語る。
中本尋之(なかもと・ひろゆき)
1978年 広島県呉市生まれ。2001年広島工業大学環境デザイン学科卒業後、設計施工会社勤務を経て2017年1月にFATHOMを設立。https://fathom-design.jp/
既存建物の少し飛び出ていた庇部分の下方向にボリュームを持たせ、ラインをつくった。日本酒は神のために造られはじめたと言われていることから、神社や仏閣を連想させるように漆喰で仕上げた。
この空間内に接する起点であるエントランス部分のラインを隆起させることで、これから直売所に訪れる人たちが、蔵の伝統や歴史に新たな1ページを加える起点になるようにという思いが込められている。
もう一つのラインはエントランスを中心に左右で機能を分けている。向かって右側は、明治初期の酒屋が道に隣接して縁側から直接上がれるようなつくりだった文献を目にして、同じように縁側の機能を持たせたベンチをL型に。
入口の左側には、廃棄予定の日本酒のガラス瓶を砕いて混ぜてつくった窓台がある。これは人研ぎで仕上げ、近代の技術であるガラスを化石のように歴史の地層に封じ込めた。
内部空間は異なる素材を有機的なラインで形成することで、発酵タンク内において泡が重なり合い増殖していく姿を目にした時に感じた、透明な液体が持つ、目には見えない生への躍動感を空間に表現。
素材は、煙突の煉瓦や杜氏が着ける藍色の前掛け、銅板や亀甲金網など、酒蔵において自然と取り入れられているマテリアルを、実際とは異なる使用用途として変換させた。
畑に囲まれた穏やかな水平ラインに生まれた小さな”ふくらみ”。これは受け継がれてきた長い歴史を守りながら、まだ見ぬ新しい景色に挑戦し続けている杜氏への思いの現れを表現している。
この思いが新しくできた隆起を起点に、アンテナのように波紋状に広がってくれるだろう。
金光酒造 蔵元直売所
住所|広島県東広島市黒瀬町乃美尾1364-2
Tel|0823-82-2006
営業時間|10:00〜17:15
定休日|日曜、祝日
https://www.kamokin.com/
Photo:Tatsuya Tabii