FOOD

《京都吉兆・徳岡邦夫氏に聞く》
日本茶×日本料理 ペアリングの神髄

2021.11.27
<small>《京都吉兆・徳岡邦夫氏に聞く》</small><br>日本茶×日本料理 ペアリングの神髄

1930年創業の老舗「京都吉兆」が力を注ぐ日本茶と日本料理のペアリング。そのメニューが誕生した背景とコース内容を、3代当主の徳岡邦夫さんにうかがいました。

徳岡邦夫(とくおか・くにお)さん
学生時代はプロドラマーを目指したこともある異色の経歴。京都吉兆「嵐山本店」、「HANA吉兆」、「松花堂店」、「名古屋店」を運営

今夏からの新メニューで
ペアリングの奥深さを発信

京都吉兆の味を祇園で楽しめるHANA吉兆は京都南座からすぐのモダンなビルに店を構え、1階から5階に花街の雅をたたえるカウンター席やテーブル席の個室、季節のしつらいを施した和室を用意している。

3代当主の徳岡邦夫さんは、料理人としてはじめて文化功労者に選ばれた故・湯木貞一の孫に生まれ、味の英才教育を受ける中で育まれた食全般への探究心は、齢60を超えたいまも尽きることがない。徳岡さんのモットーは日本文化における新たな価値創造。2014年からはじめた日本茶と日本料理のペアリングもその線上にある。きっかけは家族ぐるみで交流のある一保堂茶舖の主人との会話だったという。「過去にシャンパンで京都吉兆のオリジナルをつくったことがあるのですが、それをお茶でやってもらえないでしょうかとご相談したんです」。前向きな返答の下で話は進み、オリジナルは少し先の課題としていったん置きつつ、まずは既存のお茶でペアリングを楽しむ会が発足した。年1回から数回程度開催されるイベントは好評を博し現在も継続、日本茶のポテンシャルを引き出す日本料理とのペアリングには、参加者の多くが毎回感嘆の声をあげている。

煎茶「芳泉」(水出し)
9月の向付には水出しの煎茶「芳泉」を合わせた。純銀の茶器は料理のタレ用につくったあつらえ品で、水出しの茶の風味を料理に合わせるために茶器もしっかり冷やしている

その反響を追い風に、今夏、HANA吉兆ではじめたのが「日本茶ペアリング懐石」。従来の懐石コースに一保堂茶舖のお茶を合わせる予約制の特別メニューだ。献立を考える際、国内外の一流を知る徳岡さんをして妙味と膝打つ発見が幾度もあり、自らのSNSでも「日本料理と日本茶のペアリングは奥が深いです!」と発信している。日本茶とのペアリングをグランドメニュー化したのは今回がはじめてだが、その青写真は1980年代にすでにあった。当時の国内は日本料理に高級ワインを合せるのが愛好家の間でブームとなり、政財界人や文化人らの集いに祖父のお供で同行していた徳岡さんは、ワインが人と人を結ぶ架け橋になる様子に心動かされたという。と同時に「ワインだけでなく、いつか日本茶もそうなるだろう」と予測した。なぜなら出汁の味がわかる日本人は日本茶の繊細さを理解でき、そこに自分好みを見出す過程で人との和も生まれると直感したからだ。「日本茶はあまりに身近で味もまだまだ知られていない」と徳岡さん。磨き抜かれた舌で合わせるペアリングは、食文化の新たなコンテンツとなるべくいま本格的なスタートを切った。

向付
秋の景色を運ぶ向付。献立は菱蟹(ひしがに)、上人麩、トマト、壬生菜、オクラ、黄身餡、針生姜、土佐酢。ほのかに酸味のあるやさしい風味と合わせるため煎茶は水出しに

 

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text: Mayumi Furuichi photo: Toshihiko Takenaka
Discover Japan 2021年11月号「喫茶のススメ お茶とコーヒー」

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