王朝人気分でめぐる
平安時代から愛されてきた紅葉の名所
《嵐山・嵯峨野》を秋散歩。
平安時代より、皇族や貴族に愛されてきた嵐山・嵯峨野は古来、紅葉の名所としても名高い地。〝京都写真〟の第一人者である写真家・水野克比古さんの写真とお話とともに、秋色に染まる嵐山・嵯峨野の魅力をひも解く。
写真=水野克比古(みずの・かつひこ)
写真家。1941年、京都府生まれ。1969年から、京都の風景、庭園、建築などを題材とした写真を撮り続ける“京都写真”の第一人者。日本写真家協会会員。日本写真芸術学会会員。2015年に京都府文化賞功労賞を受賞
洛西にあたる嵐山・嵯峨野は、京都を代表する景勝地。嵯峨天皇が離宮を営んだことから、平安時代以降、貴人たちの別荘地、行楽地として愛された。ユネスコの世界文化遺産である天龍寺や、嵯峨天皇の離宮を前身とする大覚寺など、由緒ある古刹が点在する地でもある。
風光明媚な土地で、四季折々の美しさを見せるが、中でも桂川(大堰川)を挟んで対する嵐山と小倉山は、桜と紅葉の名所として知られる。特に紅葉は見事で、藤原定家が小倉山の山荘で選んだといわれる小倉百人一首には、「小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば いまひとたびの みゆき待たなむ(小倉山の美しい紅葉にもし心があるならば、もう一度天皇の行幸があるまで、散らずに待っていてほしい)」という歌もある。
「秋に鮮やかに色づくイロハモミジは、京都の高雄にたくさん自生することから高雄モミジとも呼ばれます。京都の紅葉はこのイロハモミジが基本。嵐山・嵯峨野でも素晴らしい景色を見せてくれます」(水野克比古さん)
秋のイロハモミジを愛でるなら、「特に朝がいい」と水野さん。そして色づいたモミジは、日の光をよく透かすため、逆光で見るのが美しいという。朝もやの中、朝日を透かして輝くモミジは、なんともいえない艶やかさ。錦秋の候、貴人たちに愛された閑雅な趣を楽しみつつ、嵐山・嵯峨野の絶景をめぐる散歩に出掛けよう。
屋形船の遊覧船
住所
北乗り場/京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町
南乗り場/京都府京都市西京区嵐山中尾下町
Tel|075-861-0302(嵐山通船)
営業時間|9:00~16:00、7月1日~9月23日(嵐山鵜飼開催期間)12:00~17:00、18:00~21:00(9月~20:30)、12月第3水曜~3月第2月曜10:00~16:00
※事前予約のない場合は随時出船
乗船料金|大人2人まで3700円(以降、大人1200円、小人600円)
池の水面が錦に染まる秋の絶景
「天龍寺」
1339(暦応2)年の創建当時の面影をとどめる曹源池庭園は亀山、小倉山、嵐山を借景とした池泉回遊式庭園。「実像と水鏡に映る虚像とが美しい光景を見せてくれます」(水野さん)。例年、紅葉の時期は早朝参拝を実施。
天龍寺(てんりゅうじ)
住所|京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町68
Tel|075-881-1235
参拝時間|庭園(曹源池・百花苑)/8:30~17:00(受付は~16:50)、諸堂(大方丈・書院・多宝殿)/8:30~16:45(受付は~16:30)
参拝料|庭園(曹源池・百花苑)/一般500円、中小生300円、未就学児無料、諸堂/庭園参拝料に300円追加
※法堂「雲龍図」特別公開は、土・日曜、祝日9:00~16:30(受付は~16:20)、参拝料別途500円、春夏秋は毎日公開期間あり
赤や黄の葉がつくるトンネルが本堂へと続く
「二尊院」
©水野克比古
嵯峨天皇の勅願により平安時代の承和年間(834~848)に創建。写真は「小倉山」の額を掲げる勅使門の本堂側からの眺め。かつては天皇の使いである勅使のみが通れた。「唐破風形の屋根に、王朝の雅な雰囲気が漂います」(水野さん)
二尊院(にそんいん)
住所|京都府京都市右京区嵯峨二尊院門前長神町27
Tel|075-861-0687
拝観時間|9:00~16:30(受付終了)
拝観料|一般500円、小学生以下無料
遠くに都を眺めつつ、小倉山の紅葉に包まれる
「常寂光寺」
©水野克比古
小倉山の中腹にあり、創建は安土桃山時代の慶長年間(1596~1614)。写真は、京都の町衆によって1620(元和6)年に寄進されたと伝わる多宝塔。「境内は高低差があるので、見る角度によって景色もさまざまに変わります」(水野さん)
常寂光寺(じょうじゃっこうじ)
住所|京都府京都市右京区嵯峨小倉山小倉町3
Tel|075-861-0435
拝観時間|9:00〜17:00(受付~16:30)
拝観料|一般500円、小学生以下200円
渡り廊下で出合える“絵になる”紅葉
「清凉寺(嵯峨釈迦堂)」
奝然(ちょうねん)上人が987(寛和3)年に宋から請来した釈迦如来像を本尊とする。本堂と庫裏(くり)は渡り廊下で結ばれており、写真はその途中で庭園を眺めたもの。廊下の窓が額縁となって、紅葉の鮮やかさを際立たせる。
清凉寺(嵯峨釈迦堂)(せいりょうじ さがしゃかどう)
住所|京都府京都市右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町46
Tel|075-861-0343
参拝時間|9:00~16:00、4・5・10・11月~17:00
拝観料|一般400円、高中生300円、小学生200円
※霊宝館特別公開は4・5・10・11月、本堂霊宝館共通券は一般700円、高中生500円、小学生300円
嵯峨天皇ゆかりの雅な秋景色
「旧嵯峨御所 大本山大覚寺」
開創は876(貞観18)年。嵯峨天皇の離宮を前身とし、宸殿(しんでん)や本堂などが並ぶお堂エリアと、嵯峨天皇が造営した庭園・大沢池エリアからなる。「池を中心に庭園を一周歩けば、多彩な眺めを楽しめます」(水野さん)
旧嵯峨御所 大本山大覚寺(きゅうさがごしょ だいほんざんだいかくじ)
住所|京都府京都市右京区嵯峨大沢町4
Tel|075-871-0071
参拝時間|9:00~17:00(受付は~16:30)
参拝料|お堂エリア/一般500円、高中小生300円 大沢池エリア/一般300円、高中小生100円
おすすめ立ち寄りスポット
「嵐山・嵯峨野では、直線距離でいえば2~3㎞圏内に見どころが集中していて、紅葉の名勝地をつなぐと〝紅玉のネックレス〟ができるんです」と言う水野さん。今回紹介した寺院は、天龍寺→常寂光寺→二尊院→清凉寺→大覚寺の順にめぐるのがおすすめで、その魅力を堪能するには、ひとつの寺院にできれば1時間、最短でも30分は滞在してほしいという。また、紅葉に加え、水野さんがおすすめする散歩のテーマが茅葺き家めぐり。落柿舎、平野屋、祇王寺、滝口寺、嵐山 大市(土産物店)、茶寮 弁治(湯豆腐店)、さがの人形の家(博物館)、パンとエスプレッソと嵐山庭園(ベーカリーカフェ)と、稀少な存在となりつつある茅葺きの建物をめぐりながら、嵐山・嵯峨野の名物や風景を楽しむ。
「嵐山・嵯峨野では、王朝人の詩歌管弦の世界をいまでも楽しめると同時に、自然が身近ですし、毎年のように新しいすてきな場所も生まれます。都らしい雅と、田舎風の鄙びが混在する美しさは、嵐山・嵯峨野ならではの魅力といえるでしょう」
平野屋(ひらのや)
江戸時代初期から続く鮎茶屋。夏は鮎料理、秋は松茸、冬はぼたん鍋、春は山菜など、一年を通して自然の恵みを味わえる。「手づくりの志んこ(米粉の団子)も美味しいですよ」(水野さん)
住所|京都府京都市右京区嵯峨鳥居本仙翁町16
Tel|075-861-0359
営業時間|11:30~21:00
定休日|なし
落柿舎(らくししゃ)
江戸・元禄時代の俳人・向井去来の庵跡。敷地内には、去来や芭蕉、高浜虚子などの俳句を刻んだ石碑が点在する。「俳句にちなむ花や草木も、一年中目を楽しませてくれます」(水野さん)
住所|京都府京都市右京区嵯峨小倉山緋明神町20
Tel|075-881-1953
拝観時間|9:00~17:00、1・2月10:00~16:00
定休日|12月31日〜1月1日
拝観料|300円
老松 嵐山店(おいまつ あらしやまてん)
創業110余年の菓子店。写真はこなし製・白あん入りの「高雄」(各432円)。嵐山店には茶房「玄以庵」を併設。生菓子は店頭で購入できるほか、茶房で抹茶やほうじ茶とともに味わえる。
住所|京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町20
Tel|075-881-9033
営業時間|9:00~17:00
定休日|不定休
西山艸堂(せいざんそうどう)
天龍寺の塔頭・妙智院の境内にある湯豆腐店。メニューは精進料理とセットになった「湯どうふ定食」(3500円)のみ。「湯豆腐は嵐山・嵯峨野の名物。こちらの店はその草分けです」(水野さん)
住所|京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町63
Tel|075-861-1609
営業時間|11:30~豆腐がなくなり次第終了(予約は14:00まで受付)
※9月12日まで休業中
定休日|水曜、ほか月1回不定休
保津川下り(ほづがわくだり)
保津川は、大堰川の中流部にあたり、亀岡から嵐山・嵯峨野までの16㎞を舟で下る。所要時間は約1時間30分。秋の紅葉、冬の雪景色など四季折々の峡谷美を楽しむことができる。
住所|京都府亀岡市保津町下中島2
Tel|0771-22-5846(8:00~17:00)
出船時間|9:00~15:00の毎正時(9:00便は運休の場合あり)、土・日曜、祝日と8月7日~15日は定員になり次第、随時出船、8月中はトロッコ嵯峨野13号(15:02発)の乗客用に臨時最終船あり
運休日|12月29日~1月4日、ほか安全点検のための運休日あり
乗船料|一般4100円、4歳~小学生2700円
※営業時間などは、今後の諸事情により変更になる場合があります。
text: Miyu Narita
Discover Japan 2021年10月号「秘密の京都?日本の新定番?」