縄文人のデザインされた暮らしを探る
縄文時間旅行<タイムトラベル>【序章】
遺跡を訪ね歩く楽しみとは?
北海道・北東北の縄文遺跡群を訪ねると、縄文人の豊かな暮らしぶりが見えてきます。考古学者・岡村道雄先生のガイドで、遺跡を巡る旅の魅力や、おすすめのコースを紹介します。令和から縄文へ、約1万5000年をさかのぼる旅に出かけましょう。
岡村道雄(おかむら・みちお)先生
考古学者。自称“杉並の縄文人”。宮城県東北歴史資料館、文化庁、奈良文化財研究所などで勤務。三内丸山遺跡の発掘調査などにかかわり、縄文遺跡群世界遺産登録推進専門家委員会委員も務めた。著書に『縄文の列島文化』(山川出版社)などがある。
日本人の生活や文化の原点を五感で味わう
紀元前1万3000年から紀元前400年まで、1万年以上にわたって続いた縄文時代。人々は自然を敬い、自然から学んだ哲学をもとに助け合って暮らしていた。居住跡や祭祀跡などの遺構、そこから見つかった土器や土偶をはじめ漆製品、装身具、祭祀具などの遺物は、縄文人の暮らしぶりをいまに伝える。
竪穴建物や掘立柱建物、環状列石など、縄文時代の風景が復元された遺跡を訪ねると、その風景を見るだけでも縄文時代の雰囲気を味わえるが、周囲に広がる現代の風景にも目を向けてみよう。時代とともに、縄文人が見た風景とは変わってしまっているものももちろんあるだろうが、背景にそびえる山の威容や広場を吹き渡る風など、変わっていないものもあるに違いない。
「旬を大切にする日本には、地域の風土を生かした郷土料理がたくさんあります。これも縄文時代から変わっていない、日本の食の姿といえるでしょう。自分が暮らす土地を十分に理解していた縄文人は、自然がもたらす豊かな“みのり”を大切にしていました」(岡村)
縄文人の自然に対する敬愛と感謝に想いを馳せつつ、遺跡周辺の地域の旬の食材や郷土料理を味わえば、ひと味違う美味しさを楽しめる。
各遺跡には、それぞれの価値や出土品を紹介、展示するガイダンス施設があり、そこを訪ねてみるのもおすすめ。ガイドを務める地元の方との会話や、土器や石器づくりといった縄文にちなんだ体験教室、イベントなどに参加する中で、縄文から続くその土地ならではの魅力を感じられるだろう。
また、土偶や土器にはさまざまなかたち、文様があるが、それらは時代によって異なるのはもちろん、精神哲学や信仰を共有するそれぞれの地域固有のもので、同族であることを示すサインでもあった。同じ型式の土器を使う範囲では、ほかの文化的な要素も共通しており、土器の分布から文化圏の広がりを知ることもできる。展示施設では、その技巧性や芸術性を鑑賞するのはもちろん、かたちと文様を意識し、縄文人がそれぞれに込めた想いや願いを感じながら鑑賞するのも楽しみのひとつ。
自然に寄り添って生きた縄文人の暮らしぶりを知るには、季節を変えて遺跡を訪ねてみるのもいい。春の芽吹き、夏の太陽、秋の実り、冬の雪景色。季節ごとの自然の恵みを五感で味わえば、日本人の生活や文化の基礎になった縄文文化、そして縄文スピリットの奥深さが見えてくる。
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photo: JOMON ARCHIVES
Discover Japan 2021年8月号「世界遺産をめぐる冒険」