『TAKAZAWA』オーナーシェフ髙澤義明さんの
遠くても訪れたい、とっておきのお店
美食を求めてローカルへ旅をする。
美食を追い求める各界の著名人が語る“わざわざいきたい店”への思い。今回は、各国の料理学会から日本代表として招待されるトップシェフの髙澤義明さんが、今気になるお店、長年通っているお店を紹介します。
髙澤義明(たかざわ・よしあき)
「日本の風土、人、食材を再構築してモダンに提供する」というテーマの下、自由な発想でオリジナリティを追究した料理を提供し、世界でも活躍。2013年には、第一回サンペレグリノASIA TOP 50に名を連ねる。
旅の動機は、いつも食。
僕が旅に出る理由は、90%以上が「食」です。そこにオンリーワンの美食がないと行かない。まずレストランありきで、そこから生産者さんや工芸品等に足を延ばします。情報は料理人仲間からの紹介が多いですが、常にアンテナを張っていて、たとえば食に関するテレビ番組はすべて録画して可能な限り観るようにしていますね。
ウミヘビが食べたい──
幻の沖縄旅
その中で最近拝見して強く惹かれたのが沖縄の「イラブー汁」。イラブー汁とは、琉球王国の宮廷料理の流れをくむ伝統的なウミヘビ汁で、まずビジュアルのインパクトがすごかった。大好きなアシティビチ(豚足)も一緒に煮込まれていて、同じ蛇のマムシは以前、新潟で食べて美味しかったので4月に予約をしました……が、パンデミックの影響で行けなかった。それでおわびも兼ねて連絡を取り、料理人ということを明かし「どうしても食べたい」という思いを伝えて特別に送っていただきました。お電話で店員さんが懇切丁寧に調理法や食べ方、イラブーにまつわるストーリーを説明してくださったのですが、実際食べてみると、その感動は想像以上でした。味は、たとえるなら“ものすごく濃厚な鰹節”という表現が一番近い。そこに昆布出汁と豚足のゼラチンがからんで、一般的なものでいえば豚骨と魚介のWスープをより洗練させて、奥深くした味わい。それが口内だけで終わらず、身体中にじんわり染み渡って、文化や風土まで感じる。その余韻が身体の火照りとともにずっと続いて、滋養強壮効果のある一杯だと実感しました。ウミヘビも自然な軟らかさでほかにはない旨みがあるので、まさに唯一無二の料理。いつか必ず現地へ食べに行きます。
イラブー料理 カナ
住所|沖縄県中頭郡北中城村屋宜原515-5
Tel|098-930-3792
営業時間|18:00〜22:00(L.O.21:00)※予約制
定休日|不定休
http://irabu-kana.com
サクサクの身質が別次元
鮎尽くしコースの刺身
食の旅は、行くときは毎週のように出掛けますが、10年以上毎年訪れているのが滋賀県大津市の「」。ここの夏の鮎尽くしコースで出てくる「鮎の刺身」が別次元なんです。何よりも食感がすごい。さっきまで泳いでいた鮎をその場でおろしてくれるのですが、一般的な川魚の軟らかい食感ではなく、極端にいえばカリカリで身質が締まっている。このクオリティはここにしかないですね。訪れるときは大将の伊藤さんに連絡し、鮎が大きくなる時期を目掛けます。刺身だけお代わりするくらい好きですね(笑)。「比良山荘」は京都から車で1時間くらい、道中にある大原の道の駅「里の駅」にも立ち寄ります。ここは京都の料理人もよく野菜を買いに行くところ。道の駅は地元の農家さんの食材を安価で販売していて、料理人からすると「つくりたい!」と闘志がわき上がるような宝物が見つかることがあるので、旅では必ずチェックしますね。「お土産」より「食材」です。
比良山荘
住所|滋賀県大津市葛川坊村町94 比良山荘
Tel|077-599-2058
営業時間|11:30〜13:00(最終入店)、17:00〜19:00(最終入店)※予約制
定休日|火曜
http://hirasansou.com
博多の夜のゴールは
いつも一口餃子
旅に出ると、勉強のために現地にしかない料理を食べられるだけ食べるのですが、博多を訪れたときのゴールが薬院の「八ちゃんラーメン」です。博多在住の、当店の常連さんに連れていってもらいました。老舗の豚骨ラーメン店で、“カプチーノ”と呼ばれているミルキーなラーメンもさることながら、サイドメニューの一口餃子が絶品です。小指大のミニマムなサイズの中に世界観が詰まっていて、1個でも物足りなさがまったくなく、味わいがしっかりまとまっている。焼き加減も素晴らしくてカリっと香ばしく、皮ももちもち。タイミングによってはその場で皮を延ばして、包みたてを焼いてくれます。これをラーメンの前にビールを飲みながら食べるのが最高ですね。お腹がいっぱいのときでも毎回博多の夜の最後に寄ってしまいます。
八ちゃんラーメン
住所|福岡県福岡市中央区白金1-1-27
Tel|092-521-1834
営業時間|21:00〜翌2:30(L.O.)
定休日|日曜、祝日
※新横浜ラーメン博物館出店中(期間限定)
究極のリゾート食!
ラーメンを食べにゲレンデへ
ラーメンで言えば、ここ数年の不動のナンバーワンが新潟にあります。といっても専門店ではなく、松之山温泉スキー場にある「レストハウス雪椿」の、いわゆる“ゲレンデ食”です。「松之山ダイニング」というイベントを地元の旅館のご主人と毎年開催していて、彼に連れていってもらいました。最初は正直、期待していなかったのですが、「特製肉みそ麺」を食べて驚きました。たっぷりのニラで覆われていて、肉味噌がコク深く、とにかく美味しい! 店主の方のこだわりが強いのか1杯ずつ丁寧に仕立てていて、混んでいる時は1時間くらい行列ができるんです(笑)。これを食べるためだけでも訪れたい〝究極のリゾート食〟ですね。夏の間は越後妻有大厳寺高原キャンプ場に出店されていて冬ほど混んでいないので、ぜひ行ってみてください。
松之山温泉スキー場
レストハウス雪椿
住所|新潟県十日町市松之山天水島909
Tel|025-596-3133
営業時間|9:00〜16:00(食事11:00〜)※夏季は大厳寺高原で営業
定休日|シーズン中は無休
http://www.matsunoyama-ski.com
text=Ryosuke Fujitani illustration=Honoka Yoshimoto
2020年7・8月号 特集「この夏、どこ行く?ニッポンの旅計画108」