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奥深い色みについ手が伸びるうつわ
高橋みどりの食卓の匂い

2020.8.3
<b>奥深い色みについ手が伸びるうつわ<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>
吉井史郎さんの玄釉の片口。カボチャの煮物はじめ、和え物など日々のお総菜にぴったり。「美味しいうつわ」が毎日の食卓を彩る。1万800円 問|タミゼクロイソ Tel|0287-74-3448(日・月曜のみ営業)

スタイリスト・高橋みどりさんがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝える《食卓の匂い》。今回は黒糖かりんとうのような奥深い色みと質感が魅力のうつわを紹介します。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『ありがとう! 料理上手のともだちレシピ』(マガジンハウス)など

私がうつわを買う重要な決め手のひとつは、「美味しそう」と感じること。「食べる」ことは本能なので、どんなに美しくても食べるイメージがわかないものには惹かれません。それが、「うつわ」という形状でなくても、食べることに結び付くものであれば「美味しいうつわ」となります。要は使うことを前提にうつわを考えているのですが、美味しそうなうつわとは、使えて便利という意味だけではなくて、うつわとしての美しさを備えていているからこそ、そこに盛りたいものが浮かぶもの。ましてやそれを買い求め、日々の生活で使いたいと思うものは、自分がつくり、そして食べている普段の料理が浮かぶものがいい。私がつくる料理がより美味しそうに引き立つものであれば、なおうれしい。

吉井史郎さんの黒とも茶色ともつかない、なんとも黒糖かりんとうのような片口を目にしたとき、まさに「美味しそうなうつわ」とひらめきました。ホクホクの黄色いカボチャの煮物にはこれ、ほうれん草の白和えやブリ大根にもと、つい手が伸びる。そして盛れば、「うわぁ、美味しそう!」となる。

そんなうつわをつくる吉井さんにたずねました。私が美味しそうと感じたうつわのルーツとなることを。玄釉と呼ぶ独特の釉薬の色は、昔から好きな高麗の黒を想い制作されているそう。私が軽んじて黒糖かりんとうみたいと評したその色は、黒という釉薬の表現において、強い光沢のあるものと透明感のあるマットな質感の間を目指している。それはただ黒の発色ということだけではなく、その色が放つ奥深さと、無意識に自然を感じさせる質感をも合わせて。作為的ではない、そのものから発せられる魅力あるもの。岩にも石にも草にもあるような、本物の質感の上に成立するうつわは、語り過ぎず、さりげなく存在し、そこに食べ物を盛ってこそ完成すると。そして唐突に聞いた「食べるとは?」の問いに、吉井さんは「楽しめるもの、喜べるもの、時々は残念なもの。時に季節を感じさせてくれるものであり、何よりもありがたきもの。そしてそれは、生命を感じさせてくれる機会」と。

かつて制作についてお話をしたこともなく、ただただこの片口の存在になぜこんなに惹かれるのだろうと思っていたので、お話を聞き大きく納得したのでした。

日々私がつくるぞんざいともいえる料理には個性的なうつわは似合わなくて、むしろ時間の経過した名もなきものや、その料理をそっと受け入れてくれるような寛大なうつわが好ましい。つい手が伸びるこの片口は、まさに後者であり、何でも美味しく受け入れてくれる、「うつわの大きなうつわ」なのです。

さて、何度となくチャレンジしては失敗している糠漬けを、ぜひこの片口に盛ってみたいという思いがむくむくとわき上がってきました。絶対に似合うに違いないのだから。4度目のチャレンジの糠漬けは、いまのところすこぶるうまい糠床に育っていて、毎日片口にはみずみずしい漬け物の大盛りが食卓を飾っています。

text&styling=Midori Takahashi photo=Atsushi Kondo
2019年10月号 特集「京都 令和の古都を上ル下ル」


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