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小倉ヒラク先生の5分でわかる発酵基礎知識

2020.5.11
小倉ヒラク先生の5分でわかる発酵基礎知識

日本食の美味しさを探っていくうえで、避けては通れない発酵。身近にあって美味しくて身体にいい、目に見えない微生物の働きによって生み出される奥深い世界だ。その摩訶不思議な入り口を発酵デザイナー・小倉ヒラクさんの研究成果にたずねた。

 


発酵デザイナー
小倉ヒラクさん
山梨県甲州市を拠点に全国の醸造家との商品開発、ワークショップなどを行う発酵デザイナー。著書に「発酵文化人類学」(木楽舎)、「日本発酵紀行」(D & DEPARTMENT)。2019年12月に発酵デザインラボを設立


 

発酵しているか腐敗かは、人間都合?

たとえばシュワっとしたガスとともによい香りと美味しいアルコールが出れば、それはビールで「発酵」。対して涙が滲み出るような刺激臭とともにガスが噴出したらこれは「腐敗」。要するに大きさが1㎜以下の微生物の働きが人間に役立てば発酵で、有害なら腐敗なのだ。発酵とは実に「自己中な定義」となる。

 

発酵は大きく4カテゴリー

食材の保存性向上と栄養増加を果たす発酵。日本ではその機能を最大限に生かす技術を培った結果、漬物だけで全国に3000種類以上を生み出す独自の文化を築いた。ヒラクさんはそのつくり方をもとに「3つ+その他」という普遍的な分類を行っている。

調味料(醤油、みりん、味噌、酢など)

麹菌をスターターとして大豆や米などの食材を発酵によって溶かしたもの。味噌、醤油、酢、みりんなど日々の食卓に欠かせない類が多く、地域性が色濃く反映される傾向をもつ。

漬物(奈良漬、しば漬け、すんき、津田かぶ漬など)

塩、麹、酒粕などの床に食材を漬け込んで発酵させたもの。塩漬け=京都のしば漬け。麹漬け=東北の三五八漬け。酒粕漬け=奈良漬けなど気候・風土が見える。なれずしも漬物の分類に入る。

(日本酒、ビール、ワインなど)

酵母によって原料に含まれる糖分が分解され、人を酔わせるアルコールを引き出したもの。酒はすべて発酵食品だが、中でも日本酒は日本の発酵ルーツを探る上で重要な存在。

その他(納豆、むかでのり、チーズなど)

納豆、くず餅、発酵茶など、調味料や漬物、酒には当てはまらないもの。実は種類が最も多く、日本の自然環境と微生物環境の多様性を表しているグループでもある。

 

和食を支える縁の下の力持ち
それが麹です!

日本の国菌「アスペルギルス・オリゼ」
和食特有の旨みをつくる麹菌の正式名称、洋名は「Aspergillus Oryzae」。オリゼは稲を指す。和名はニホンコウジカビ。国菌なしに和食は語れない

麹とは、蒸した米や麦に“食べられるカビ”の麹菌が生えたもの。その麹菌は米や麦、大豆など日本の田畑で育つ穀物にくっついて発酵。さらに麹がつくる旨み=糖分はほかの有効な菌を引き寄せるので、日本特有の複雑な味わいをもつ発酵食品をつくる源になっている。

 

和食の多様性の象徴、味噌と醤油
なぜ地域によって味が違うの?

醤油

醤油とは「小麦と大豆に麹菌を付け、塩を入れ液状で発酵させたもの」。発酵途中の味噌の表面や底にできる「たまり汁」が起源のひとつ。製法が確立したのは江戸時代。関東では刺身や寿司につける濃口が。関西では調味料として使う薄口がそれぞれ発展した。東北の魚醤。九州の甘口などの異端も登場。

味噌

「煮大豆に麹を付けて発酵させた固形ペースト」が定義。それ以外は自由なので東日本では米麹、九州・四国では麦麹、東海・関西の一部は大豆そのままの麹を使用。麹と塩の配分や発酵期間で多様な味噌が存在。

 

糖度はメロンの2倍!
みりんはなぜ甘い?

ひと言でいえば「水の代わりに焼酎で仕込む甘酒」。麹を焼酎で加水しもち米を投入。数カ月発酵させて、日本酒のようにもろみを搾るのがみりんの伝統的製法だ。みりん風調味料は、糖類やアルコールを添加して本来の味にシミュレートしたもの。

 

実は最古の調味料!
酢が酒ってほんと?

日本酒を甕の中に入れ1〜3カ月かけて酢酸菌による発酵を待つ。さらに数カ月〜1年以上熟成させるのが伝統調味料の米酢だ。現在はホワイトリカーなどによる速醸法があるが、日本酒由来のほうが原料の香りや風味が閉じ込められて断然美味!

 

文=田村十七男 写真=鈴木規仁
2020年5月号 特集「日本人は何を食べてきたの?」


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