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「岡山芸術交流2025」を起点に愉しむアート旅へ。
「瀬戸内ゲートウェイ構想」のこれまでとこれから【後編】

2025.9.27
<small>「岡山芸術交流2025」を起点に愉しむアート旅へ。</small><br>「瀬戸内ゲートウェイ構想」のこれまでとこれから【後編】

2016年よりはじまった現代美術の国際展「岡山芸術交流」に端を発し、アーティストと建築家が共創する宿泊施設「A&A」プロジェクトや、世界的なアーティストのパブリックアートなど、岡山市は街にアートが息づいている。
その中で、2025年4月に誕生した現代美術館「ラビットホール」は、国内外で注目を集める現代アートの聖地・瀬戸内へのゲートウェイとして観光の未来を変えつつある最新の拠点だ。ラビットホール別館である「福岡醤油ギャラリー」とともにアートと地域文化を体感する旅の魅力に迫る。

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アート・教育・食を伝える
「福岡醤油ギャラリー」

ラビットホール別館 福岡醤油蔵のアートを担う「福岡醤油ギャラリー」

岡山市固有の文化と歴史が集積するカルチャー・ゾーン、丸の内エリア。
その中で、日本三大名園のひとつ・岡山後楽園の玄関口に位置する門前町界隈は、かつて城下町として栄えた歴史の面影をいまも残す。

「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三ツ星の評価を得ている風雅な岡山後楽園

この地には、明治・昭和期に建てられ、醤油蔵や市民銀行として機能していた「旧福岡醤油建物」があった。岡山に現代アートの息吹をもたらした石川文化振興財団が、地元のNPOからこの歴史的建築の保護の依頼を受け、2018年に所有。趣深い木造の蔵を残すかたちでリノベーションされ、2021年に文化施設「福岡醤油ギャラリー」として生まれ変わった。

そして2025年春、ラビットホールの開館を機に芸術・食・教育を発信する複合施設「福岡醤油蔵」としてリビルドされた。

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岡山のアートディスティネーション
が目指すもの

「アート、食、建築、伝統工芸などの場が自然発生的に集まる街を目指します」と石川さん

その中のギャラリースペース「福岡醤油ギャラリー」では、独自の視点で国内外からキュレーションされた現代アートや工芸品をコンセプチュアルに展示。2028年までは、多次元のプレゼンテーションが世界中で高く評価されているイギリス人アーティスト、ライアン・ガンダー氏の個展が開催されている。

子どもによるチャールズ・チャップリンの演説を、時計仕掛けのねずみが独白するアバンギャルドな作品『2000year collabolation(The Prophet)』
壁に設置された目のロボットが鑑賞者の動きによって変化することで多様な視点を喚起する『Magnus Opus』

ラビットホール別館 福岡醤油蔵が発信するのは芸術だけではない、石川文化振興財団理事長・石川康晴さんは「教育」について熱く語る。
「現代アートの魅力は柔軟な思考を育むこと。次世代を担う子どもたちが日々、暮らしの中で多様な視点を享受することで意識が変わり、街の未来は輝くと確信しています」

1階スペースには、ライアン・ガンダー氏の『Moonlighting』(2018)が展示

ラビットホールは、別館とともに18歳以下の入場はフリーにし、定期的に中小生向けの対話型鑑賞プログラムも開催。また、発達障害や知的障害などの子どもを対象に、なりたい自分になるための「なる塾」など、創造的思考を養う多様な取り組みに執心している。

なる塾は年の2回無償で開催されている

さらに、併設する「SABOE OKAYAMA」では、日本茶の伝統文化を現代に再定義した新時代の日本茶体験を提供するなど、食文化も発信している。
その先に見据えるのは、岡山がアートディスティネーションとなる20年構想だ。
「20年かけてラビットホールの別館を18施設設置します。そして、街にアーティストや起業家、伝統工芸のクラフトマンが集まるコミュニティをつくり、地域経済とアートが融合した文化都市としての進化を目指します」

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この秋、
「岡山芸術交流2025」を起点に
岡山の文化に触れる旅へ

フランスを代表する芸術家、フィリップ・パレーノ氏をアーティスティック・ディレクターに迎えた岡山芸術交流2025は、2025年11月24日まで開催
©Okayama Art Summit 2025 Left: Photo by Andrea Rossetti

地域の歴史を尊びながら固有の文化資源を生かし、アートで新たな魅力を創出する――。
そういった先進的な取り組みは、これまで瀬戸内アート旅において「周辺スポットのひとつ」だった岡山を、「まず最初に訪れたい」ゲートウェイへと昇華させつつある。

その魅力は、2025年9月26日から開催されている「岡山芸術交流2025」で余すことなく体感できる。徒歩で周遊可能な岡山市中の旧小学校や商店街、文化施設など、街全体を舞台に展示されている世界的アーティストらの作品との出合いは、岡山の新たな魅力を発見できる。

A&A LIAM FUJIは、「迷いながら思索する」特別な滞在体験ができる

せっかく訪れるなら、アーティストと建築家がコンセプトからコラボレーションした“滞在できるアート空間”の「A&A LIAM FUJI」や「A&A JONATHAN HASEGAWA」を拠点にすれば、より豊かな時間になることは言うまでもない。

SABOE OKAYAMAをはじめ、ハイエンドから歴史的老舗、地域で愛される大衆食堂まで多種多彩に揃う食も堪能しながら、最先端のまちづくりも垣間見られる岡山アート旅を楽しんでみてはいかがだろうか。

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「瀬戸内ゲートウェイ構想」のこれまでとこれから
前編|「瀬戸内ゲートウェイ構想」とは?
後編|アートで切り開く岡山の未来

Kenji Okazaki, Sadaho Naito

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