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バージャーナリスト 児島麻理子さんが推す焼酎
夏季限定 松露
|私が夏に飲みたいお酒⑥

2024.7.15
バージャーナリスト  児島麻理子さんが推す焼酎<br><small>夏季限定 松露<br>|私が夏に飲みたいお酒⑥</small>

太陽が燦々と照らし、汗が滴る日本の夏。酒を飲みたくなるときもきっとあるはず。ビール、日本酒、スピリッツ、ワイン、焼酎……。酒のスペシャリスト6名がこの夏に飲みたい名酒を語ります。
 
今回は、バージャーナリストの児島麻理子さんが登場。自身が初めて口にしたという夏焼酎を紹介します。

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児島麻理子(こじま まりこ)
11年間の酒造メーカーでの広報を経て、2019年に独立。蒸溜所とバーめぐりをライフワークにするライターとして活動しながら、日本酒・焼酎の国内外発信事業にも携わる

南の大地からの「夏焼酎」の誘い

夏季限定 松露

焼酎には夏の香りがする。南国のまぶしい太陽や、大地の力を受けて育った原材料で造られるこの蒸溜酒は、同じく温暖な地域で造られるテキーラとも似ていて、どこかラテンなムードが漂う。そのことを確信したのは、“夏焼酎”なるものとの出合いだ。2023年の初夏の宮崎だった。酒販店にいつもと表情の違う青いボトルが精悍に並んでいたのだ。毎年6月頃に出揃うという夏焼酎は、銘柄が青地に変わっていたり、ラベルに波や水着が描かれたものもある。
 
前年から焼酎にハマりだした私は、お湯割りの焼酎とひと冬を過ごし、某バーテンダーが言った「この世で一番スムースなカクテルはお湯割りである」という言葉を盲信し、自身でも飲み続けてきた。しかし、一転してこの明るい世界観。小料理店の女将さんが、昼間に会ったらイケイケのギャルであったような衝撃を覚えた。宮崎の暑い日差しや、煌めく波と相まって、夏焼酎が私の中に一気に押し寄せたのだ。
 
そもそも焼酎は夏の季語らしい。江戸時代の百科事典『和漢三才図会』にも夏の飲み物として記述されており、かの幸田露伴は「青梅や焼酎ひらく隼人達」という薩摩隼人の夏の情景を想わせる句を詠んでいる。ただし、この頃の飲み方はお湯割りで、夏に温かいもので暑気払いをするというものであったようだ。
 
翻って、いまの時代に出されている夏焼酎は、近年のトレンドでもあるソーダ割りに酒質を合わせたものが多い。’11年頃に誕生して以降、各蔵が夏に合うものを目指し毎年技術を磨いているので、その進化は著しい。蔵ごとの違いはもちろん、定番品との飲み比べや、年ごとの違いを楽しむのもいい。ボトル同様、味わいも爽やかだ。度数を低めに調整してあるものも多く、のど越しのよさが楽しめる。
 
私がはじめて口にした夏焼酎は、宮崎・串間にある「松露酒造」の「夏季限定 松露」。夏の空のような青い水彩のラベルは、松葉と水面に差し込む日差しを表現したものらしい。定番の「松露」が代表的な芋、黄金千貫を使用するのに対し、夏の松露で使うのはベニマサリという紅芋。紅芋の特徴である柔らかい甘さに、紅色のポリフェノール由来の渋みが後味を引き締める。フルーティな上立ち香には、バジルの利いたカプレーゼや、ガスパチョなど、夏をイメージさせる食材を合わせてみたくなる。
 
さて、松露の夏は早く、’24年の出荷は4月下旬から。原料のベニマサリは小ぶりなものを選び、皮部分を増やすことで味わいや香りを強くしたという。今年の夏の松露は円熟味もある爽やかさだ。黒ブドウやブラックティーのような心地よい渋みと、オイル分をほどよく残したコクや甘みが、飲み応えあるソーダ割りを実現している。後味のキレがよく、タコスのような旨みが強い料理とも相性がよい。
 
技術の進化や蔵元の情熱で、いままた焼酎は個性的で味わい深いお酒として、おもしろくなってきている。これからどんな蔵元がどんな焼酎を造ってくるか。夏の到来にいまからワクワクしている。

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夏季限定 松露
価格|1403円/720㎖
原材料|さつまいも(ベニマサリ)、米麹
アルコール度数|20度
問い合わせ|松露酒造
Tel|0987-72-0221
https://shouro-shuzou.co.jp

illustration: Kako Kuwayama
Discover Japan 2024年6月号「おいしい夏酒」

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