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京都《真妙庵/しんみょうあん》
時代を超えた自然布を
手にとって体感できるギャラリー

2023.2.21
京都《真妙庵/しんみょうあん》<br><small>時代を超えた自然布を<br>手にとって体感できるギャラリー</small>

西陣織の老舗「細尾」12代目細尾真孝氏が、京都・御所南エリアに、美術家であり自然布の収集家・研究家として知られる吉田真一郎氏と共同でテキスタイルギャラリー「真妙庵」。ギャラリーでは二人の監修と選定の下、19世紀(江戸〜明治時代)につくられた大麻・苧麻繊維の貴重な自然布を、糸の績み方や織の手加減など、布の微視的な美しさに焦点を当てて展示。さらに吉田氏の長年にわたる大麻繊維と糸の研究から生まれたファブリックブランド「majotae(まよたえ)」の商品も取り扱う。多彩な表情を見せる自然布を通して、古代から伝わる美意識の歴史にも触れることができる。

19世紀の裂を実際に手にとって体感

真妙庵は、現代の機械紡績とは異なる19世紀以前の手法「手績み」による糸を用い、手機によって織られた美しい布によって構成された作品を展示。同じ大麻繊維でできた糸をひとつとってみても、大麻の苧の種類、糸の太さ、撚りの有無などによって微細な差が生じる。また織の加減や自然染色の個体差によっても表情に差異が生まれるのだ。これらの糸、織、染めによる微視的な差にこそ、布の真の美しさが宿るものであると考えているそうだ。

ここでは、表具されたものと併せて、19世紀の裂を実際に手にとって見ることが可能。博物館同等の繊維検査によって素材を明らかにし、顕微鏡の拡大写真と併せて紹介することで、現代とは異なる布のあり方や美しさを近くで感じ取ることができる。

西陣織老舗・細尾 12代目
細尾真孝(ほそお・まさたか)
1978年生まれ。株式会社細尾 代表取締役社長。MITメディアラボ ディレクターズフェロー。GO ON 代表理事。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなど5つ星のホテルに供給するなど、世界のブランドから高い支持を受けている。2021年初に著書「日本の美意識で世界初に挑む」を上梓。23年2月には、ブランド初の海外拠点となる「HOSOO Milan」もミラノのブレラ地区にオープン予定。

近世麻布研究所所長
吉田真一郎(よしだ・しんいちろう)
1948年、京都府生まれ。近世麻布研究所所長。「白」のアート作品を代表とする美術家。江戸時代の苧麻布、大麻布の繊維と糸の研究を多数発表し、主な博物館展示に、奈良県立民俗博物館「奈良晒」展、滋賀県愛荘町立歴史文化博物館、東近江市立能登川博物館「高宮布」展、新潟県十日町博物館「四大麻布」展などがある。2018年には、麻布の収集と研究が評価され、第6回水木十五堂賞を受賞。

大麻・苧麻繊維の自然布とは?

真妙庵の大麻・苧麻繊維の自然布は「過去をさかのぼるからこそ、また未来を考えることにつながってゆく。何がこれからの豊かさなのかを、考えるきっかけを作ってもらえたら。」という思いがこだわりに秘められている。 

大麻繊維は、白く、絹のような光沢があり、やわらかい手触りで通気性や速乾性に優れ、保温性も高い。綿などの植物の栽培に比べ、少量の水で育ち、虫もつかないため農薬も必要としない、環境に負荷をかけない植物から作られている。昔、神道における神官の衣服、お祓いの幣(ぬさ)、注連縄(しめなわ)に使用されていた。

苧麻繊維は、古くから”からむし”とも言われ、その繊維構造はマカロニのような中空孔構造になっており、吸湿放湿性、保水性に優れ、高温多湿の日本の風土に最適な繊維素材。色は白く、糸にハリとコシ、独特のシャリ感のあるので、近江上布や能登上布、小千谷縮など全国各地の高級伝統麻織物に使用されている。

また、真妙庵では吉田さんの長年にわたる大麻繊維と糸の研究から生まれた、過去と未来をつなぐファブリックブランド「majotae(まよたえ)」の商品も取り扱っている。大麻布(ヘンプ)の古代布の肌触りを現代の技術を駆使し再現。麻とは思えない、驚きの肌触りを体感でき、使い続けるほど、より柔らかく、しなやかに風合いが変化し、身体に馴染むそうだ。

作品からも、空間からも、手仕事を体現する

入り口は、木の温もりを感じる素材を使用し、格子や格子屋根などの日本の伝統的なデザインも多く取り入れている。10mほどある長い回廊は、反りが少なく耐久性の高い一本の檜から作られている。大麻・苧麻繊維の美しい作品が自然と溶け込むこの空間は、シンプルでありながら職人技が見え隠れしている。

入り口の奥へ進むと、白を基調とした配線を剥き出しにした天井や、あえて打放しにしたコンクリートの床が広がる

真っ白なギャラリーを進むと和室のギャラリーへとつながる。この部屋は、自宅に和室がある方が作品を飾ったとき、どのように見えるかなどを体験できるよう空間づくりがされている。2月頃には新作の作品や、吉田さんが所蔵する大麻布と古和紙などが組み合わせた作品も展示する予定だ。

歴史のなかに埋もれかけていた
大麻布を現代に

"unintened #1"
藍染め大麻布、紅花染め絹布 江戸末期頃
Indigo dyeing on hemp, Benibana dyeing on silk, 80cm×113cm,around 150 years old ©Shinmyouan
"unintened #2"
藍染め木綿布、藍染め大麻布 江戸末期頃
Indigo dyeing on cotton, Indigo dyeing on hemp, 85cm×113cm,around 150 years old ©Shinmyouan
"unintened #3"
鬱金染め大麻布、江戸末期頃
Turmeric dyeing on hemp, 110cm×26cm,around 150years old ©Shinmyouan

古代より、人の生活の身近にありながら、人間の美意識を表現するために様々な技術的、技巧的進化を遂げてきた布。真妙庵は時代を超えた真の布(妙)が、多くの人たちにインスピレーションをもたらす場(庵)となるだろう。

読了ライン

真妙庵 Ⅱ Collection

真妙庵は、2月26日(日)から、展示会「真妙庵 Ⅱ Collection」を開催し、新たな作品《unintended #10-#18》を展示する。

江戸期の職人たちが手間と時間を存分にかけて糸づくりからおこなった繊細な手織物。その織物に染め上げられた植物による色彩は、数百年の時をかけて僅かずつ変化し、時間という意思を超えたもののみが生み出せる美しさがある。

時代をわたった布を現代の目を持って分解し、再構築することによって過去・現在・未来が交差する新たな作品が生まれる。1973年にクール・ハークによって発見されたブレークビーツのように、江戸の布が未来のグルーヴを奏でる。

京都へ訪れた際にはぜひ、行ってみてはいかが。

真妙庵 Ⅱ Collection
日時|2月26日(日)11:00〜
会場|真妙庵

真妙庵(しんみょうあん)
住所|京都府京都市中京区少将井町229-2 第7長谷ビル1F
Tel|075-211-0830
開館時間|木〜日曜11:00〜18:00
休館日|月〜水曜
www.instagram.com/shinmyouan

majotae(まよたえ)
https://www.majotae.com/

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