浅草寺はご利益デパート!?仕事や恋やお金まで。
江戸時代、数々の浮世絵に描かれ名所として知られた浅草寺。時代は下って現代の東京でも、多くの観光客を集め続けている。しかしただ人気の観光スポットだからって、なんとなく参拝するのじゃもったいない。どんな願いもかなえてくれる観音さま率いる浅草寺のパワーとは?
どんな願いもお任せあれ!? 神仏のデパート、浅草寺
願い事をかなえたい。悩みや不安を取り除きたい。参拝の目的は人それぞれだが、研究者の間で「神仏のデパート」と評されているのが浅草寺だ。
浅草寺のご本尊は絶対秘仏の聖観世音菩薩である。浅草寺縁起によると推古天皇36年3月18日、漁師の檜前浜成(ひのくまのはまなり)・竹成兄弟が宮戸川(現在の隅田川)で像を引き揚げ、草ぶきの堂に祀った。その後、地元の名士、土師中知(はじのなかとも)が私邸を寺に変えて観音さまを祀り、それが現在の浅草寺の基盤となる。
観音さまが現れたとき、あたりには一夜にして千株の松が出現、天から金の龍が降臨したという。山号「金龍山」はこのことに由来。観音さまが姿を現されたことを祝う法要、本尊示現会での「金龍の舞」はこれにちなむ。金龍が仲見世を抜けて本堂に入り、その後、境内の西側で舞う姿は圧巻だ。
聖観世音菩薩はとても慈悲深い。どんな不安や悩みも解決し、厄を払って、あらゆる人を救ってくれる。それだけでも心強いものだが、決まったお願いがあるなら、それぞれにかなうお堂に出向こう。
たとえば、淡島堂は女性を守ってくれるお堂。鎮護堂はタヌキを祀ることから、「他を抜く」という語呂合わせで、特に落語家や歌舞伎役者などの信仰が篤い。ほかに影向堂(ようごうどう)、弁天堂などと多彩だ。
どんなお願いにも対応可能!? 浅草寺に祀られる神仏
仕事をクビになりそう!?
⇓
①鎮護堂 (奉安仏:加頭地蔵)
仕事をクビになりそうな、万が一のときには鎮護堂へ。ここには破損した頭部をつないであることから「加頭地蔵」と呼ばれる地蔵が安置されており、「首がつながる」と、サラリーマンらに信じられている。
好きな人ができた!
⇓
②久米平内堂 (久米平内像を安置)
縁結びご利益で知られる久米平内堂。平内が、生前その罪を軽くするのに自身の石像を「踏みつけてほしい」と願ったところから、「踏みつけ」が「文付け(ラブレター)」と転化、恋する江戸っ子たちに広まったのだとか。
習い事を上達させたい!
⇓
③弁天山 (奉安仏:弁財天)
「関東の三弁天」のひとつとして知られる弁天堂のご本尊、弁財天。珍しい白髪であることから、「老女弁天」とも呼ばれている。手先が器用な神さまであることから、芸術的分野での才能を伸ばしたいときにご利益がある。
億万長者になりたい!
⇓
④銭塚地蔵堂 (奉安仏:カンカン地蔵)
銭塚地蔵堂に安置されている、もとは大日如来といわれる石像は「カンカン地蔵」。由来は参拝客が石を打って祈ると「カンカン」という金属音がすることから。塩を奉納してお願いすると、財福のご利益があるそう。
裁縫上手になりたい!
⇓
⑤淡島堂(奉安仏:淡島明神)
元禄年間に、紀伊国加太の淡島明神を勧請して建てられた淡島堂。女性を守護するお堂では、毎年2月8日に針供養の法要が行われている。大事な針に感謝しながら、裁縫が上手になるようにとお願いするといい。
どうしてもこの願いだけは……
⇓
⑥六角堂 (奉安仏:日限地蔵)
建物は室町時代(16 世紀頃)の建立で、東京都指定文化財である都内最古の木造建造物。木造単層六角型造。本尊は日限(ひぎり)地蔵尊で、日数を決めて(限って)祈るとその願いがかなうといわれている。
こうしたお堂が建つ背景は、浅草寺が財政面で改革を迫られた歴史と関係がある。堂塔の建築などにあたっては幕府の費用が出ず、基本的には自前。また、いわゆる寺檀制によって檀家が確保されている寺院ではないため、より多くの人との結縁が大事だったからだ。
徳川家の寺から庶民のための寺への変化は、多くの人の信仰的欲求への対応というかたちになったというわけだ。そもそも多様な機能が境内に備わること自体が、本尊聖観世音菩薩のいかなる人をも救う誓願のあらわれである、ともみられている。多彩な要望にこたえてくれるスーパー寺院、浅草寺。観音さまのご利益を授かりたい。
(text : Seika Mori photo : Hiroyuki Kudoh)
※この記事は2018年4月6日に発売したDiscover Japan5月号から一部抜粋して掲載しています