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島るり子さんの
「生活から生まれる美しいうつわ」
高橋みどりの食卓の匂い

2020.8.23
島るり子さんの<br>「生活から生まれる美しいうつわ」<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。新刊の『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)が発売中

世の中はまだすっきりせぬまま、季節はうつろいます。
気の向いたときに見る知り合いのFacebookやインスタからは、その人の現状が見て取れ、元気確認のツールにもなります。そんな中、つい目を留める陶芸家・島るり子さんのFacebook。ナチュラルな写真と短いコメントに、いい風が吹き抜けるよう。10年以上も前に一度うかがったきりのご自宅と工房ですが、そのときの気分がふっとよみがえります。たくさんの手料理でのおもてなしは、それはそれは美味しくて。その料理を温かく包み込むようなうつわは、出過ぎることなく必然のごとくそこにありました。小柄な島さんの小さな手からは、愛情の込もった美味しいうつわと料理が生まれると実感したのです。

島さんのうつわは、焼き締め、粉引き、耐熱の3種類と明解です。ご本人もその作業が大好きと言う、しっかりと修業されたろくろの腕からは、流れるように美しいラインとフォルムが生まれます。道具はあまり持たず、その手指の感覚から大きさや厚さを測り、自然にかたちが生まれます。よって削りの作業も最低限にしか施さない。のびやかな土の勢いを感じる気持ちのいいうつわです。

今年の春、島さんのFacebookに現れた実に力強い焼き締めのうつわに、思わず釘付けとなりました。
ここ数年焼き締めが妙に気になりはじめ、ようやく自分の生活の中でちゅうちょすることなく手が伸びるようになりました。それはきっと重ねた自分の年齢とともに、赴く食の方向とうつわが求め合うようになったから。そしていろいろなうつわを使ってきて思う、いまの自分に似合ううつわ、心地いいうつわとは。妙な個性を放つわけではない、使いたいと思う気持ちが込み上げるものがいい。

今回新たにぐっときた島さんのうつわに、もう一度きちんと向き合いたいと思いました。いまさらながらの質問に答えてくださった島さんの言葉、久しぶりに読み返す著書『島るり子のおいしい器』(地球丸)での語りには、骨太の人間像が浮かびます。
焼き締めのうつわは、穴窯で焼きます。島さんは、移り住んだ信州に約30年前に築いて以来、毎年春に1年分のうつわをまとめて焼く。原始的な穴窯の構造を元に、斜面をつくり築いた窯の下から薪をくべ、炎が上方に向かっていくのを利用します。長年身体で覚えた感覚での真剣勝負は、心身ともにヘトヘトになるけれどそれ以上の感動を味わうのだと島さんは言います。

ろくろに向かうと、欲しいかたちが自然に手から生まれる。薪を燃やしてうつわをつくるのは、柔らかな土が硬い石になるのを見守っているような喜びがある。焼き締めのうつわは、薪の灰と炎が味わいを出してくれ、自然に助けられてできていると思う、と。
思わずぐっとつかまれた今年のあの焼き締めのうつわは、こんな思いと時間の積み重ね、走り抜ける炎の中から生まれたのです。肌合いを手で感じ景色を眺めて味わうお酒は、また格別に美味しい。

島るり子さんの片口と猪口。片口7700円(長径165、短径100×H115㎜)。猪口4070円(φ65×H70㎜)。

焼き締めのうつわは洗剤など使わず、たわしでゴシゴシ洗う。時間とともに、つややかでな柔らかな肌合いに変化する。使用する直前、一度水に通すと油染みなどができにくくなり見た目も涼やかで美しい印象に。

草草舎
Tel|0265-72-4224
http://sososya.net/

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
2020年9月号 特集「この夏、毎日お取り寄せ。」


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