京都《桃山温泉 月見館》
伏見の名建築で歴史とアートを堪能
前編|調度品、仏像、建築……時代を超えた美に出合う
宇治川が流れる伏見は戦国時代に豊臣秀吉が居城を築き、物流の拠点となった地。そこに佇む「桃山温泉 月見館」が2025年7月、歴史・文化とアート、そして先端技術が融合したホテルに生まれ変わった。今回、実際に編集部が宿泊し、客室やアートギャラリー、天然温泉・スパ、バーなど感性を刺激する滞在についてレポート。その類いまれなる時空間とは?
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豊臣秀吉ゆかりの地に
感性を刺激する宿、誕生!

1933年築の月見館本館は、昭和初期の旅館建築として国の有形文化財に登録。桟瓦葺に千鳥破風を備え、木造地上3階地下1階、建築面積は679㎡の堂々たる構え。格天井やケヤキの奇木を用いた床柱などは往時のまま
京都・伏見の観月橋一帯は、その名の通り月見の名所。安土桃山時代には豊臣秀吉が指月城を築いた。その城下町は、江戸時代には大坂と京を結ぶ川を三十石船が行き交う物流の拠点に。その歴史ある地に昭和初期、建てられたのが「桃山温泉 月見館」だ。
伏見唯一の天然温泉を備え約90年愛されてきた宿が2025年、スモールラグジュアリーなホテルに生まれ変わった。立役者は、アートコレクターでありテクノロジーの世界でも成功を収めてきた、クレメント・ソン氏。豊かな自然と美酒の文化、静けさの中に美と精神性が息づくこの地に魅了され、「過去と未来」、「伝統と革新」をつなぐ場として月見館の再生を決意したという。
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和の情趣とモダンな感性が
融け合う客室やおもてなし

和とモダンが融合した洒脱な空間に、北欧と日本の家具の匠たちが機能性と造形美を追求した上質な調度品が馴染む。縁側にはフィン・ユールの名作チェア「NV53」、客室の真ん中には長 大作の低座椅子とオーレ・ヴァンシャーのコーヒーテーブルが置かれている
新生・月見館の客室は4つのみ。和紙で桟をすっぽり覆った障子をはじめ、和の情趣とモダンな感性が融け合う客室はすべてスイートルームだ。内装を手掛けたのは、アートホテルや町家改修、寺院の展示空間デザインなどで注目される建築家・竹内誠一郎氏。庭は、南禅寺の庭園なども担う「植彌加藤造園」によってプライベート感と季節の移ろいが快い空間に。

京都の寝具老舗「IWATA」のベッドを備えた「空」。窓の向こうには艶やかな苔が生え、春には枝垂れ桜が咲く坪庭。中央には中国史上唯一の女性皇帝・武則天が679年、自らの姿をかたどってつくらせたという石碑が静かに佇む

芳しい香りの檜風呂に身を沈めれば、ほどよい高さに設けられた窓から緑が目に入り、極上のバスタイムに


到着するとサーブされるのは、伏見の老舗和菓子店「総本家駿河屋善右衛門 伏見本舗」の季節の上生菓子。庭を眺めながら香り高い宇治茶とともに味わえば肩の力が抜けていく

(右)羽織は大正時代の型紙を使って、めでたい文様「鯛の鯛」を粋に染め抜いたもの。(左)湯上がりにさらりとまとえる浴衣は、綿生地に縮み加工が施されているため肌に張りつかず、軽い着心地。兵児帯でリラックス感がさらにアップする
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上質なアクセントを加える
古今東西の美術工芸品

そんなホテルに上質なアクセントを加えるのが、ソン氏が長年収集してきた古今東西の美術工芸品だ。デニッシュモダンの実力者であるオーレ・ヴァンシャーやフィン・ユールによる名作家具、世界遺産・敦煌莫高窟壁画の忠実な再現画、精細な蒔絵が施された江戸時代の棚、気鋭の作家のうつわなど、ミュージアムピースとも呼ぶべき優品が並ぶ。仏教美術に造詣が深いソン氏らしく、ガンダーラ石像から鎌倉期の仏像まで悠久の歴史を感じる作品も。


圧巻は3階のアートギャラリー「観月堂」。中心に配された十一面観音像は、チベットでダライ・ラマの化身として信仰されたもの。豊かな表情をもつこの像をテーマにしたVR体験も用意され、まさに過去と未来を往来し、歴史とアートに包み込まれる空間なのだ。
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3階のアートギャラリー「観月堂」は120畳の大空間。敦煌壁画の文殊菩薩と普賢菩薩、ふたつの模写を脇に十一面観音像が悠然と立つ。その前に座り、壮大で哲学的なVR体験を

上質な寛ぎを楽しむ
天然温泉と伏見の銘酒とは?
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text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Kenji Okazaki
2025年12月号「京都/冬こそ訪れたいあの旅先へ」
































